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東と西 8



 そして現れたのは、なんとユリウスだった。


 苛立ちを露わにしたユリウスはまっすぐこっちへ向かってくると、ブレアさんを押しのけ、私を自身の方へ引き寄せた。


「レーネ、大丈夫? こいつに何かされてない?」

「大丈夫だけど、どうしてここに?」


 ここにくることは誰にも伝えていないし、そもそもここは簡単に入ってこられないはず。


「ユリウスが来たら通せって言ってたんだよ。思ってたより遅かったね」

「……レーネに何もしてないよね」

「当たり前じゃん。いつも冷静なお前でも、そんな顔をするんだ? おもしろ」

「最っ悪」


 どうやらブレアさんは、ユリウスがここに来ることを予想していたらしい。


 そしてユリウスへの嫌がらせのために、わざわざあの体勢になっていたようだった。


「お前が嫌がる顔見るの、だーい好き」

「死んで」


 思っていたよりも幼い一面があるというか、ユリウスの前でだけはそうなのかもしれない。ユリウスは溜め息を吐き、後ろから私を抱きしめる腕に力を込めた。


「こいつには絶対に気を許さない方がいいよ。北のボスは代々継いでるんだけど、親も兄弟も皆殺しにしてボスの座についてるから」

「えっ……」

「醜悪で邪魔な人間を生かしておく理由なんてないじゃん? 世のためだよ」


 人を殺すことに躊躇いはないようで、やはり住む世界が違うのだと再実感する。


「……本当に、レーネが無事で良かった」

「心配をかけてごめんね。でも本当にどうしてここが分かったの?」

「…………」


 ユリウスはなぜか黙り込み、ブレアさんは楽しげに手を叩いて爆笑している。


「やっば、無断でやってたんだ? 制服の後ろ側の襟に、位置共有の魔道具が付いてるよ」

「えっ」


 慌てて首元の後ろに触れると、確かにかなり小さなピンのようなものがローブの襟元についている感触がする。いつの間に付けられたのか、全く気付かなかった。


「でも、今は緊急事態だし必要だよね! 心配してくれてありがとう」

「……ごめん、その前から付けてた」

「ええっ」


 ルカの問題が起こる前かららしく、驚いてしまう。


 確かにたまにタイミングが良すぎるなと思うことはあったけれど、予想外だった。


「ねえ、重すぎない? 引くんだけど」

「黙れ」

「ユリウスってこんな面白かったんだね。余計に好きになりそう」

「ごめんね、レーネ。そのうち言おうと思ってたんだ」


 ブレアさんを無視して私に向き直ったユリウスは、位置共有の魔道具を勝手に付けていたことに対して罪悪感を抱いているようだった。


 常にとんでもないハプニングに見舞われる私としては全く気にしていないどころか、感謝すらしているくらいだった。

いつだってピンチの際に助けに来てくれるのは、ユリウスなのだから。


「全然大丈夫だよ! むしろ安心だし、ずっと付けていてもらった方がいいくらいで」


 今だってこの場にユリウスが来てくれたことで、話が早く進むはず。


 だからこそ、ぐっと親指を立てて見せると、ユリウスは「はあ」と溜め息を吐く。


「本当に俺、調子に乗るよ」

「どうぞどうぞ」

「早く結婚しよ」

「いやあ、こんなユリウスを見られただけでも価値があるよ。どんな美女の集まりに連れて行ってもずーっと冷たいし、男色なのかと本気で思ったもん」


 みんなユリウスに夢中なのになあ、とブレアさんはずっとご機嫌だった。とにかくユリウスのことを気に入っているのが伝わってきて、二人の馴れ初めなんかもいずれ聞いてみたい。


「余計な話はいいから、お前はどうするわけ」

「この子に協力して東も西もぶっ潰すことにしたよ。俺としてもいい機会だからね」

「対価は?」

「今は貰わないことにしたんだ」

「……貰わない? お前が?」


 よほど意外だったのか、ユリウスは眉を顰めている。


「とにかく弟くんには二度と手出しができないようにするから安心して。幼い頃から辛い思いをしただろうし、こんな世界からは今度こそ足を洗った方がいい」

「ブレアさん……」


 この若さで国内最大のマフィアのボスという立場なだけあって、冷酷さや非情さも持ち合わせている人だとは思う。けれど、なんというか「悪の正義」という感じがした。


 今回の件に関して、これほど心強い仲間はいないだろう。


「まあ、お前が手伝ってくれるなら助かるよ。で、いつやるつもり?」

「明日でいいよ」

「えっ」


 こういうのは色々と作戦を立てたり、武器の準備なんかをしたりするものだと思っていたから、あまりの急展開に間の抜けた声が漏れた。


「こういうのってさ、時間をかけて用意周到にすると絶対にどこからかバレるんだよ。善は急げって言うし、明日みんなで乗り込んじゃお」


 さらっと言ってのけたブレアさんによると、いつこうなってもいいように常に準備はしてあるという。


 どんなに注意深く見張っていても、スパイなんてものも存在するものらしい。


「まずは西を潰してレンブラントを消そう。で、雑魚の東はその後にでもゆっくりやればいいよ」

「よ、よろしくお願いします……」

「久しぶりに大暴れできると思うと楽しみだな。レンブラントは生け捕りにして拷問しようよ。まずは弟くんから好きにやっていいからさ」

「あっ、聞いておきます……」

「うちは強いから、大船に乗ったつもりでいて」


 軽くウインクをするブレアさんの余裕な様子は、とても心強い。


 そうして明日、北のマフィアと西のマフィアの大抗争が行われることになったのだった。



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挿絵(By みてみん)


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【公爵様、悪妻の私はもう放っておいてください】

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