東と西 4
3話同時更新してます!
ルカが雇っていた子ども達の「幼い妹や弟にもっと良い思いをさせてあげたい」という思いを、悪い人間に利用されてしまったそうだ。
そしてその仕事というのが、レンブラントの縄張りの仕事に横槍を入れる形のものだった。
他人の縄張りに手を出すのはご法度らしく、そんな所業が見逃されるはずもない。すぐにレンブラントの部下達により、子ども達は捕まってしまったという。
『ごめ、なさ……おれたち、こんなつもりじゃなくて……』
『……ううっ……死にたくないよお……』
子ども達も後になって自分達の行いの重さを知って悔いたものの、裏の社会というのはとにかくルールに厳しいそうで、子ども相手にも容赦がない。
このままでは子ども達の命が危ないと思ったルカは、レンブラントと話をつけるために数年ぶりに会いに行ったのだという。
『やあルカーシュ、久しぶりだね。楽しそうに学生をやっているじゃないか』
『……お前、俺のこと好きすぎだろ。気色悪い』
『お願いをする立場の君が、僕にそんな口を利いていいのかなあ』
レンブラントはルカのことを今も監視していたようで、その執着が垣間見えたそうだ。
「で、ガキどもを許す代わりに、目障りな東のマフィアを壊滅させろなんて言いやがった」
「…………っ」
「俺が果たせなければ、ガキどもを殺すってさ。あいつらが罪を犯したのは事実だし、レンブラントはしつこいクソ野郎だから、逃げても一生追い続ける。だからもう、選択肢なんてなかった」
そこでようやく、全てが繋がった。
ルカは子ども達を救うために、たった一人で無謀な約束を果たそうとしているのだと。
「……俺が本当に辛い時、誰も助けてくれなかったから。見捨てたくなかった」
「ルカ……」
過去、ルカが元のレーネに助けを求めた時だって、ウェインライト伯爵のせいで、その声は届かなかった。そのせいで、ルカはレンブラントのもとで働くことになったのだろう。
自分と同じ思いをさせたくないというルカの優しさと強さに胸がいっぱいになり、私の両目からは堪えきれなくなった涙がぽろぽろとこぼれ落ちていく。
ルカが一人でそんな事情や想いを抱えていたことに気付けなかったことが、悔しくて仕方ない。
「どうして姉さんが泣くの?」
涙が止まらなくなった私の目尻を、ルカがそっと指先で拭ってくれる。
誰かのために命懸けの危険を犯すなんて、絶対に誰にでもできることじゃない。こんなにも優しいルカが、なぜこれほど辛い思いをしなければならないんだろう。
「どう考えても不可能で、馬鹿げた提案だよね。間違いなくあいつだって、俺が一人で壊滅させられるわけがないことくらい分かってるんだ。でも、自分のもとを離れていった俺が楽しそうに過ごしているのが目障りで、これを機に死ねばいいと思ってるんだろうな」
「どうにかして、なかったことにはできないの……?」
「あいつは人でなしのクズ野郎だけど、約束もルールも守る。だから厄介なんだ」
だからこそ、レンブラントの地位は昔から揺るがないのだという。今回はこちらに非がある以上、殺さないという選択肢を与えてくれただけでも感謝しなければならない立場らしい。
「だからもう、やれるだけやるしかないと思ったんだ。それに東の人間は総じて犯罪者のクズだしそんな人間を一人でも減らすことができれば、過去の贖罪になるような気がした」
勝手な自己満足だと言うルカに、私は必死に首を左右に振った。確かに過去は消えないけれど、ルカだって生きるために必死で、悪い大人に利用されただけ。
なのにずっと罪を背負っていかなければいけないなんて、間違っている。
「あと東の奴ら、ばーさん達の店の地上げもしてたから」
「……え」
「俺、あの店が好きなんだ。だから、俺の意志もちゃんとあるよ。それに、誰も殺してない」
ルカはそう言って、困ったように微笑む。
──思い返せば少し前に行きつけの食堂へ行った際、見るからにマフィアの風貌をした男性が怒鳴り込んできたことがあった。
『おい、いるんだろ! さっさと出てこい!」
『さっさと決めろよ、俺らも気が長い方じゃないんでね』
おじいさんとおばあさんも不安げな様子で気がかりだったけれど、東のマフィアがあの店の土地を地上げしようとしていたなんて、知る由もなかった。
「……でも、自業自得だと思ってるよ。過去は消せないんだなって」
そう言ったルカはやっぱり色んなことを諦めた顔をしていて、私はルカの両腕をきつく掴んだ。
「そんなことない! 人生は何度だってやり直せるよ」
「姉さん……」
「私が保証するから、信じて」
桃色の鮮やかな目を見つめながら断言すると、ルカの瞳が揺れる。
──私自身、こうして人生をやり直せているからこそ、言えることだった。
私は異世界転生なんて奇跡みたいなチャンスを与えられたからだけれど、その分ルカのためにどんな手助けだってするつもりでいる。
どこまでも他人を思いやれる優しいルカが幸せになれないなんて、絶対におかしい。
「……ありがとう。そうだといいな」
気持ちが伝わったのか、ルカは小さく微笑んでくれた。
「でも、もうどうしようもないんだ」
もうレンブラントとの約束を果たすしか道はないと考えているようで、ルカは目を伏せる。きっと私が想像しているよりもずっと、相手は恐ろしくて強大なのだろう。
それでも諦められるはずなんてなくて、一緒にこれからのことを考えようと決意した時だった。
「ユリウス……?」
ずっと黙って話を聞いていたユリウスが、椅子から立ち上がる。そしてベッドへ近づき、ルカと目線を合わせた。
「よく頑張ったね。後は俺に任せて」
ルカの頭に手を置くと、ユリウスはひどく優しい声でそう言った。
ユリウスの言葉はとても心強くて、本当に全てなんとかしてくれるような気さえしてくる。
「…………っ」
それはきっと、ルカも同じだったのだろう。ルカの目にじわじわと涙が浮かび、それを隠すように俯く。
「絶対に何とかするから」
ルカに向けたユリウスの表情や声音は優しいものだったけれど、すごく怒っているというのが伝わってくる。
これほど怒っているところは初めて見たかもしれない、そう思えるくらいに。
「とにかく安心して、ゆっくり休んで」
「……ありがとう」
素直にお礼を言ったルカに対し笑みを浮かべると、ユリウスは「俺はもう行くね」と言い、ルカの部屋を後にした。きっと二人になれるよう、気を遣ってくれたのだろう。
「たくさん頑張ったんだし、今は休もう。私もずっとここにいるから」
「……うん」
ルカは大人しく頷くと、再びベッドに横になって目を閉じた。それからすぐに規則正しい寝息が聞こえてきて、心身ともに限界だったのだろうと思うと、また胸が痛んだ。
ユリウスも「何とかする」と言ってくれたけれど、ユリウスばかり頼って私だけ何もせず、安全な場所から見ているわけにはいかない。
「……必ずルカを幸せにするからね」
普段よりずっと幼く見えるルカの寝顔を見つめながら、姉として私にできることは何だろうと考え続けていた。
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