東と西 1
人気投票の結果が出ました!(たくさんの投票、本当にありがとうございました;;)
結果のアクスタ画像はあとがきにて……!
ルカを追って夜に屋敷を抜け出し、爆発騒ぎを見てから一週間が経った。
「おはよう、姉さん。朝からお腹が空いちゃった」
「おはよう! 美味しいパンを買ってきたから、たくさん食べてね!」
ルカはこれまで通りで、新たな怪我もしていないようで内心ほっとする。
あの翌日だってルカはあまりにも普段通りで、前の晩のことは全て夢だったのではないかと本気で思ったくらいだ。
──結局、ルカには何も聞けずにいる。
『聞いたところで絶対に話さないだろうし、あの現場を見たことを話せば、あいつは絶対に距離を置くと思う。今は得策じゃない気がするな』
『……確かにそうかも』
『俺も調べてはいるから、ひとまずは様子を見よう』
ユリウスの言う通り、迂闊に尋ねてしまっては先日のように「出ていく」と言い出してもおかしくはない。
状況が悪くなるだけだろうと、毎日のようにたくさんの言葉を呑み込んでいる。
「ふわあ……ちゃんと牛乳も飲みなよ」
「あのさ、俺177あるんだけど。チビ扱いすんな」
ユリウスもいつも通りルカに接していて、こうしているとただの平穏な毎日に思える。
『ルカ、困ったことがあったらどんなことでも言ってね』
『どうしたの? 急に。変な姉さん』
そんな声掛けだけはたまにしているものの、ルカから何かを言われることはないまま。
だからこそ、本当にもう何も起こらないことをひたすら祈り続けていた──けれど。
「最近、東のマフィアが次々と襲われているみたいだよ」
「あっ……」
昼休みに二人で昼食をとっていると、ユリウスからそんな恐ろしい事実を告げられた。
とてつもなく嫌な予感──他人事ではない気がして、シチューを食べていた手が止まる。
「ルカーシュの仕業だろうね。昨日も屋敷を抜け出して、幹部の家に乗り込んだのを見たから」
「ええっ」
昨晩はぐっすり眠っていたせいで、全く気付かなかった。
ユリウスが今朝眠そうにしていたのは、夜中にルカを追ってくれたからなのだろう。
「前回も今回も東側のマフィアだったから、ルカの狙いは東なんだろうね」
「狙いって、どうして……」
実は私も何かできないかと、マフィアについて調べてみていた。
──この国のマフィアは東西南北に分かれており、古くから抗争が続いているらしい。
特に東と西は麻薬や人身売買など、良くないことに手を染めているとか。こんなにもふざけたクソゲー世界に、そんなシリアスでアングラな部分があるとは想像もしていなかった。
「理由は分からないけど、俺はたった一人で東のマフィアを全滅させる、なんてことを本気で考えているように見えたな」
「……っ」
どう考えても無謀で自殺行為で、まともじゃない。
少し調べただけでもマフィアなんて学生や未成年が手を出してはいけないような、強大で危険な組織だということくらい理解していた。
けれど、ユリウスの言葉を否定することができずにいる。
本当にルカがそう考えているのかもしれないと、思ってしまった。
「でも絶対にルカの意志じゃないだろうし、何かそうしなきゃいけない事情があるのかな……」
「だろうね。マフィア絡みなんて、かなり面倒なことに首を突っ込んでるのは間違いない」
少し前に、ルカに言われた言葉を思い出す。
『もう悪いことはしてないから安心して』
もうしていない、ということは過去にはしていたという意味だとは理解していた。大変な環境で必死に生きていく上で、きっと必要だったということも。
けれど今、お父さんも再婚して幸せになって、ルカも楽しそうに学園生活を送っていた中で突然こんなことになるなんて、間違いなくおかしい。
「……やっぱり私、ルカに直接聞いてみようと思う」
「レーネにだけは絶対に話さないと思うよ。巻き込みたくないだろうから」
「それでも話してくれるまで向き合って、どんな状況でも私はルカの味方だって伝えたいんだ」
ルカは今、辛くて孤独で不安で、苦しい気持ちでいっぱいのはず。まずは話を聞いて、少しでも支えになりたい、力になりたいと思う。
どんなことだってするつもりだとも、ルカに伝えたい。
「そっか。……そう伝えるだけでも救われるだろうね」
「そうだといいな」
ユリウスも同意してくれて、今日帰宅したら早速ルカと話をしようと決意した。
万が一、出ていくと言われたら全力で縋り付いて引き留めようと思う。
「ルカが話してた人達もきっとマフィアだよね」
「ああ、あれは西側のマフィアだったよ。昨日の夜もルカーシュが倒した東のマフィアの回収に来ていたから、そっちも付けたんだよね」
そのせいでかなり帰宅が遅くなったそうで、ユリウスには感謝してもしきれない。
とてもありがたいものの、無理や危険なことはしないでほしいと念を押しておいた。
「西側……? 東と西で何かトラブルが起きてるのかな……」
とにかくルカが東のマフィアを狙い、西のマフィアと繋がっているのは確かで、想像していた以上に事態は深刻な気がしてならない。
確か隣のクラスにマフィアの娘だという子がいたし、話を聞いてみるのもいいかもしれない、なんて考えていた時だった。
「ルカーシュくん、なんだか大変そうだね」
「わっ」
不意に甘いテノールボイスが耳元から聞こえてきて、お皿をひっくり返しそうになる。
驚きながら見上げると、そこには笑顔のアーノルドさんの姿があった。
「お前、盗み聞きとか趣味悪いよ」
「二人が来る前から、レーネちゃんの後ろの席で食べてたんだよ。俺、地獄耳って言われるくらい耳がいいせいで聞こえちゃってさ。他の人には聞こえてないだろうから安心して」
物騒で危険な話だし、誰にも聞こえないように話していたつもりだったけれど、アーノルドさんだけには聞こえてしまっていたらしい。今後は気をつけなければと反省した。
「人手が必要な時は俺も呼んでよ。手伝うから」
「あ、ありがとうございます……!」
「こう見えて結構強いんだよ、俺」
常にSランクのアーノルドさんが魔法を使っているところは何度も見たことがあるけれど、かなり強いというのは一目瞭然だった。
いつものふわふわとしたトーンで激しい攻撃を繰り出すものだから、驚いた記憶がある。
「アーノルドは対人戦、俺よりも得意だから」
「本気でやり合ったらユリウスには負けるよ」
「それに特殊魔法も得意だから、いると便利だよ」
思い返せば宿泊研修や狩猟大会では、魔物との戦闘をしか見たことがない。
ユリウスに対人戦の指導などもしてもらっていた私からすれば、ユリウスより得意だなんて、想像もつかない強さだった。
アーノルドさんはおかしなところも多いけれど、やはりすごい人なのだろう。
「こいつ、相手が嫌がることを徹底的に全部やるんだよ。俺も絶対にこいつとはやりたくない」
「嫌だなあ、それじゃあまるで俺が嫌な人みたいだよ」
「はっきりそう言ってるんだけど」
鞭が武器のアーノルドさんはやはり、加虐趣味があるのかもしれない。絶対に敵にはなりたくないけれど、味方としてはとても心強い。
とはいえ、相手はマフィアという普通ではない恐ろしい相手なのだ。無関係の人を巻き込むわけには──……
「東西のマフィアなんて容赦しなくていいゴミだから、好き放題痛めつけられて最高だろうな」
「…………」
人手が必要になった時には、遠慮なくすぐにアーノルドさんに声をかけようと決意した。
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