ふたりきりの日々 2
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やはり二人きりの屋敷の中に、私の平穏などないらしい。
ちなみに今日「こそ」というのは、昨晩も同じことを言われて、私が全力で逃げ出したという経緯があるからだ。
「何もしないからさ、多分」
「ピピーッ、学生の身で不純異性交遊は禁止です」
「へえ、学生じゃなくなったらいいんだ?」
「ああああああ、って痛った!」
甘い声で煽るように囁かれ、勢い良く後ずさった結果、近くの柱に思いきり頭をぶつけた。
そんな私を見てユリウスは「色気がないなあ」と笑いながら、ぶつけた箇所を撫でてくれる。
「ごめんね、冗談だよ。でもレーネと離れるのが寂しいなっていうのは本音」
「うっ……」
やっぱりユリウスは、私のことが好きすぎると思う。
もちろん嬉しいものの、あと五十年以上お世話になるであろう心臓も大切したい。
「ふ、布団に入って目を閉じたらすぐ翌朝になってるはずだから、大丈夫だよ! それでは!」
「あはは、レーネちゃんは冷たいな」
このまま一緒にいると絆されて受け入れてしまいそうで、私は「また明日、おやすみなさい!」と大声で叫び、自室へと駆け込んだのだった。
◇◇◇
そして迎えた交流会明け初めての登校日である、翌日の朝。
「ねえ私、全身に穴空いてない? 蜂の巣になってる気がするんだけど」
「大丈夫だよ。いつも通りかわいいレーネだから」
ユリウスと校門の前で馬車から降りた瞬間、突き刺さるような視線を360度から向けられた。周りにいる生徒達みんなが私達を見て、噂をしているのが分かる。
校舎へと向かう今この瞬間もユリウスは当たり前のように私の腰に腕を回しており、答え合わせをしてくれているからだろう。
「あの、近くない?」
「こういうのは堂々としている方がいいんだよ」
周りの目を気にして逃げてもすぐに捕獲されるため、余計な動きをしてさらに目立つことを避けようと大人しくしている。
「ねえ、やっぱり本当みたいよ」
「ウェインライト先輩に憧れてたのに……ショック」
交流会のパーティーに参加していたハートフル学園の生徒は六十人ほどだったのに、スマホもない世界でどんなルートで噂が即回るのか、気になって仕方がない。
私の友人達はみんな噂に興味がないタイプだから、尚更だろう。恥ずかしくて俯く私とは違い、隣を歩くユリウスはずっとニコニコ笑顔でいる。
「ご機嫌ですね……」
「学園内でレーネに手を出す奴がいなくなると思うと、気分が良いからね」
私とは比べ物にならないほどユリウスの方が人気だというのに、やはり私がとんでもない美女に見えているに違いない。
「でも、ちょっと意外だったかも」
「何が?」
「もっと厳しい目を向けられるものだと思ってたから」
漫画の読みすぎなのか、怖い美女に「あんたなんて不釣り合いよ、さっさと別れなさい!」といった圧をかけられたりするのを予想していたのだ。
『しかも美人で優秀な方じゃなく、頭の悪そうなちんちくりんの方じゃないか!』
現に交流会ではウィンさんにジェニーと比べられ、大変失礼なことを言われた記憶がある。私の言いたいことが伝わったらしく、ユリウスは「ああ」と呟いた。
「実際に俺とどうにかなれるなんて、誰も思ってないからじゃない?」
さも当然のように、ユリウスはさらっと言ってのける。普通なら傲慢に聞こえそうだけれど、ユリウスが言うと納得できてしまうから恐ろしい。
「それにレーネに何かしたら俺が黙ってるわけないことくらい、誰でも分かるだろうし」
「た、確かに……」
ひとまず校舎裏に呼び出されるような事態にはならないようで、安堵する。
玄関でユリウスと別れた後も、常に視線を感じながら早足で教室へ向かい、ドアを開けた。
「おはよう!」
教室に入ると、クラスメートのみんなはいつも通り挨拶を返してくれて、ほっとする。むしろ「交流会お疲れ様」「すごかったよ!」とたくさん労ってくれて、感動してしまった。
自分の席に着席したところ、近くの席のアニーちゃんに声をかけられた。とてもサバサバしている愉快な子で、Aランクで頭も良く、たまに勉強も教えてもらっている。
「おはよう。朝からすっごい話題だったし、大変だったんじゃない?」
「や、やっぱりみんなも知ってるよね……」
「それはそうだよ! レーネちゃんのお兄さんはみんなの憧れって言うか、目の保養だもん。何をどうしたらあんなに綺麗に生まれてくるんだろうね」
本気で感心した様子のアニーちゃんは、神様に愛されてるよねと言いながら首を傾げている。
「でも、クラスのみんなはいつも通りで安心しちゃった」
「だってうちらはよくお兄さんがレーネちゃんに会いにくるのを見てたし、態度とか雰囲気でなんとなく察してたからじゃない? 血が繋がってないのは意外だったけど」
どうやら近いところでは色々とダダ漏れだったらしく、みんなの反応にも納得してしまった。
むしろ血縁関係があると思いつつ見守ってくれていた周り、懐が深すぎる。
「あっ、けど吉田くんは失恋しちゃった、ってことになるのかな……」
「……うん。でも、吉田も『振られても友人でいたい』って言ってくれたんだ」
二人して切ない顔でそんなやりとりをしていると、前方から「おい」と教科書で頭を叩かれた。
「存在しない出来事を語るな、バカ」
「吉田くん、強がらなくていいんだよ。私達は味方だから」
「そうだぞ吉田! 俺達がついてるからな!」
「はあ……」
アニーちゃんに便乗したヴィリーまで現れ、吉田は大きな溜め息を吐いている。
最近ではクラスの子達にも吉田と呼ばれ、いじられている吉田、好きだ。
それからはいつも通り授業を受け、冬のランク試験に向けて必死に勉強しているうちに、あっという間に昼休みになっていた。
教科書を閉じ、ぐっと両腕を伸ばす。
「普通に授業受けるのも、久しぶりだったね」
「俺、一生交流会でいいわ……」
交流期間中は授業時間も練習ができたため、ヴィリーはぐったりとしている。
近々またみんなで勉強会をしようと約束していたところで、教室の入り口が騒がしくなった。
「レーネ、お兄さんが来てるわよ」
「えっ?」




