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バッドエンド目前のヒロインに転生した私、 今世では恋愛するつもりがチートな兄が離してくれません!?  作者: 琴子
第十四章 パーフェクト学園交流会編

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ドキドキハラハラの同棲生活 1



 七日間に渡る交流会を終えた翌朝。学園は休みだというのに早くに目が覚めてしまい、特に出かける予定などはないものの、のんびり丁寧に身支度をしていく。


 昨日の体育館に絶叫が響き渡ったあの瞬間が嘘みたいに思えるほど、穏やかで平和な朝だ。


「……アンナさん達が帰っちゃうの、寂しいな」


 今日もユリウスがプレゼントしてくれたドレスに袖を通しながら、独りごちる。ボス水竜という巨大な化け物と共に戦ったことで、絆が強くなった気がする。


 何より全てを話すことができる同じ転生者のアンナさんは、やはり特別な存在だった。


 親戚であるセシルとはまたそのうち会う機会があるだろうし、何かお礼を考えておかなければ。


「よし、今日もかわいい!」


 髪を梳き終えて鏡台に映る自分を見つめると、この一年でかなり大人びたように思う。


 まだ十六歳なのだし、このままいけば相当な美女に育つに違いない。欲を言えば、色気なんかもそのうち少しは出てきてほしい。


「交流会も終わったから、この後は勉強を頑張らないと」


 アンナさんのお蔭でメレディス問題の解決策は分かったし、次のイベントは私が三年生になってから起こる以上、今できることはほとんどないはず。


 呪いについてはもう少し学んでおいても良いだろう、なんて考えながら食堂へ向かおうと廊下に出た瞬間、思わずびくっとしてしまうくらいの大声が耳に届いた。


「な、なに……?」


 間違いなく伯爵の声で、嫌な予感しかしない。恐る恐る声がした方へ向かうと、目的地である食堂から聞こえてきている。


 そろりと中を覗くと、席から立ち上がって声を荒げる伯爵夫妻、そして座ったまま素知らぬ顔をして優雅に食事を続けるユリウスの姿があった。


「なぜ勝手なことをした! その上、ジェニーを差し置いてレーネが相手だとは……!」

「ええ、あんなにも頑張っているジェニーが可哀想だわ!」


 どうやら昨日の今日で、もう私達のことが夫妻の耳に入ったらしい。もしかすると、ここにはいないジェニーから聞いたのかもしれない。


「ははっ」


 張り詰めた空気の中、この場には不釣り合いな笑い声が響く。


「そもそも、この俺がなぜあなた方の言うことを聞かなければいけないんですか?」


 苛立ちを隠せない二人とは裏腹に、ユリウスは冷静で口元に笑みを浮かべている。


 それでいて、これまでとは明らかに雰囲気が違う。


 こんな風に言い返すところは初めて見たし、二人を見下すような態度を隠す様子もない。


「なんだと? 親に向かって生意気な……!」


 伯爵は怒り心頭だけれど、ユリウスは優雅にティーカップに口をつけている。その姿が余計に伯爵の怒りを買ったらしく、ドンっと音を立てて拳をテーブルに叩きつけた。


 食器が跳ね、ガシャンという音と共にグラスが倒れて水がテーブルの上に広がっていく。


「いい加減にしろ! それ以上楯突くつもりなら屋敷から出て行け!」

「分かりました」

「えっ」


 あまりにもユリウスがあっさりと頷くものだから、こっそり隠れているつもりだった私も大きな声が出してしまった。


 驚いたのは私だけではなく、伯爵夫妻も同じだったらしい。私には見向きもせず、呆然としながらユリウスを見つめている。


 売り言葉に買い言葉といった勢いによるものだった上に、まさかユリウスが頷くとは思っていなかったのだろう。


 これまでユリウスは次期当主として優秀で、波風を立てずにいたから尚更に違いない。


「本気で出ていくつもりなのか」

「はい。……ね、レーネ?」

「あっ、はい」


 不意に話を振られ、ひとまず頷いておく。


「それじゃ、俺はこれで」


 ユリウスは笑顔のまま席を立ち、まっすぐ私の方へ向かってくる。そして二人にわざわざ見せつけるように私の手を取って指先を絡め、食堂を後にする。


 最後に見えた伯爵は何か言いたげにしていたけれど、結局口を閉ざしていた。あそこまで言ってしまった手前、引き留めることもできないのだろう。


「俺を追い出したところで、困るのはあいつなのにね」

「そうなの?」

「最近はかなり仕事を手伝ってやってたから」


 確かに最近、ユリウスが伯爵の執務室へ出入りする姿をよく見ていた。お金を貸しているとは聞いていたけれど、学生のユリウスがそこまでしているなんて。


「でもまあ、領民に罪はないからね。ここを出た後も領地経営には携わるつもりだよ」

「そうなんだ──じゃなくて!」


 手を引かれながら廊下を歩いていた私が足を止めると、ユリウスも歩みを止めて振り返る。


「屋敷を出てどうするつもりなの? 明後日からまた学園で授業も始まるのに……」

「別の屋敷に移ろうと思ってるよ。王都にあるから」

「…………?」

「この間、安くなってるから投資用にでもどう? って知り合いに勧められてさ。まさか住むことになるとは思ってなかったけど、買っておいて良かったな」


 ユリウスは大したことではないように言ってのけたけれど、私は呆然とするばかり。


 私もこの一年でこの世界の価値観やお金にだいぶ詳しくなったし、国一番の都会である王都で屋敷を買うなんて、相当なお金がかかったはず。


「でも、ここほどは広くはない小さな屋敷なんだ。我慢してくれる?」

「それは全く問題ないですけれども……」


 私は四畳半一間でも平気な人間だし、枕が変わってもいつでもどこでも爆睡できる。


 けれど問題は、そこではないと思う。


「良かった。今回のは一時的なものだし、将来はもっと良い屋敷を用意するから安心して」

「うん……?」

「その時は1からレーネが好きなように全て建てさせるよ」


 ユリウスは「その貯金も始めてる」なんて言い、私は気の抜けた返事をすることしかできない。


「出て行くって本気なの?」

「もちろん。俺はいつだって本気だよ。あいつらは頭に血が昇ったらしばらく面倒なままだし、レーネには不愉快な思いをさせたくないから」


 私だって、先程のようにユリウスが怒鳴られたりするのは嫌だった。それにここを離れて静かに問題なく暮らせる場所があるのなら、そちらの方が良い気がしてくる。


 ユリウス曰く、あちらが下手に出てくるまで数ヶ月は外で暮らすつもりらしい。


「ごめんね、私のために気を遣ってくれてありがとう」

「俺のためでもあるけどね。あんな風にレーネにキレられたら、殺しちゃうかもしれないから」

「ぜひ一緒に引越しをさせてください」


 不穏なことにならないためにも、すぐに大人しく付いていくことを決意した。


「良かった。レーネがここに残るつもりなら俺もそうするつもりだったし」


 とにかく全て私ファーストなユリウスは「早速準備するから、一時間だけ部屋で待ってて」「あいつらが何か言ってきても無視してね」とだけ言い、屋敷を出て行ってしまう。


「…………」


 その背中を見送りながら、私は改めて今の状況を整理していた。この世界に来てからユリウスとは同じ屋根の下で当たり前のように暮らしてきた、けれど。


 いつしか関係が大きく変わり恋人となった今、二人だけで別の家で暮らすというのは話が大きく変わってくる気がしてならない。そして、気付いてしまう。


 ──これは俗に言う「同棲」ではないのかと。



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【公爵様、悪妻の私はもう放っておいてください】

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