兄と妹、その終わり 7
YouTubeでなんと!ルカのお声が聞けます!!!!
あざとかわいいルカすぎてびびります……;;
https://youtu.be/zp-HtDc-RZQ?si=dkFBfg2XKFjayNhh
ドラマCD、本当にお値段以上の価値があるのでぜひぜひご予約よろしくお願いします~!♡♡
未だに公開キスのダメージが残っている私は、その美しい御尊顔を手で押して逃げておく。
「ほんともうしばらく大丈夫です」
「俺が大丈夫じゃないかな」
けれどユリウスは無理やり私を抱き寄せると、ぎゅうっときつく抱きしめた。
再度逃げようとしたけれど、見上げたユリウスは子どもみたいに楽しげに笑っていて、その顔に弱い私はやっぱり何も言えなくなってしまう。
「学園生活なんてただの通過点でしかないと思ってたけど、残りも楽しみだな」
「本当に?」
「うん。だから昼休みもたまには俺にちょうだいね」
頬と頬をくっつけられ、心臓がうるさい。ユリウスは「かわいい」を繰り返しながら、腕の中の私をぎゅうぎゅうと抱きしめている。
少しの苦しさを感じながら、ふと気付いてしまう。
「……ねえ、もしかしてなんだけど」
「なに?」
「ユリウス、浮かれてる?」
いつもよりも言動や雰囲気が幼い感じがして尋ねてみたところ、ユリウスは何かを考えるような様子を見せた後、ふっと笑った。
「そうだね。間違いなく浮かれてる」
「ふふ」
そんな姿もかわいくて愛おしくて、つられて笑顔になってしまう。この幸せがあればどんなことだってできる気がして、そろそろ戻る決意をすることができた。
◇◇◇
しっかりと手を繋いで会場へ戻ったところ、一気に会場中の視線がこちらへ向けられた。
私だって無関係でこの場にいたなら、野次馬としてまじまじと見てしまっていたに違いない。
「明日にはもう社交界中に広まってるだろうね」
相変わらずご機嫌なユリウスは、周りなど一切気にしない様子でホールの中央を歩いていく。
大勢の人々がさっと避けて道が開かれていく様は、まさにモーセのよう。やがてみんなのいる場所へ戻ると、いつも通りの実家のような安心感に泣きたくなる。
「ユリウス、あなたねえ……他に方法なんていくらでもあったでしょうに」
まずはミレーヌ様がユリウスに近付いて、思いきり肩を叩いた。実際には殴ったに近い。かなり痛かったらしいユリウスは「ゴリラ女」と呟き、再度グーで殴られている。
ミレーヌ様はその後、私に向き直るとそっと抱きしめてくれた。何もかもが柔らかくて恐ろしく良い香りがして、心から癒されていくのを感じる。
「レーネ、大丈夫? 本当に恥ずかしい思いをしたでしょう。私も全力でフォローするし、何か言われたりされたりしたら、何でも言ってね」
「ミ、ミレーヌ様……結婚してください」
一生ついていきたいくらい、ミレーヌ様が女神すぎる。もう先ほど感じた恥ずかしさなんてどうでも良くなってしまう。
「でも、ロマンス小説のワンシーンみたいだったわ」
「分かる! 杏奈、超ドキドキしちゃったもん!」
テレーゼやアンナさんは感動した様子で、私達が会場を出て行った後、女子生徒の大半はきゃあきゃあとはしゃいでいたらしい。
それに一部の生徒は元々、一緒にいる私達の姿を見てそんな気はしていたんだとか。
「色々な困難や葛藤がある中、こっそりと育まれた深い愛情……エモすぎない? あの薄っぺらいクソゲーの本編シナリオの一億倍は素敵だったなあ」
「あの、本当に好きなんだよね?」
「演劇部の子なんて、舞台化したいなんて言っていたわよ」
「何その地獄」
叫び出したいくらい恥ずかしいけれど、思ったよりも世の中は受け入れムードらしく安心した。
「つーか俺、初めてキスしてんの見たわ! すげーな」
「お願いだから忘れてください」
いつも通りすぎる無邪気すぎるヴィリーにも救われつつ、羞恥で吐血しそうになる。
「でも吉田とルカはかなり具合悪そうだったな」
「えっ」
そうして視線を向けると、吉田はげんなりした顔でこちらを見ていた。そんな吉田の両肩に後ろから手を置いたアンナさんは「もしかして……」と悲しげな顔をする。
既に嫌な予感しかしないものの、一応は次の言葉を待つ。
「吉田くんって、レーネちゃんのことが好きだったんじゃない? これまでは親友として側で支えていたのに、実際にキスシーンを見て恋心に気付かされたってパターンかなって」
「…………っ」
アンナさんのとんでもない仮説に乗っかり、親友の秘めた想いを知って罪悪感を覚えるヒロインの顔をしたところ、本気で頭を叩かれた。
「バカを言うな。俺はあれだ、家族のものを見たくらいの居た堪れなさを感じた」
「分かる、私も逆だったらそうなると思う」
私も吉田のキスシーンを見てしまったら、恥ずかしくてむずむずして死にそうになるだろう。
変なものを見せてしまってごめんと謝っていると、今度は背後でドンっという大きな音がした。
「本当に本当に本当にありえねえ無理すぎる、夢に出てきそうなんだけど、マジで最悪」
振り返った先ではキレたルカがユリウスに攻撃を仕掛けており、慌てて止めに入る。
ユリウスが完璧に防いでいるお蔭で、周りに被害は出ていないようだった。
「俺はまだ、あいつが姉さんと付き合ってるって勘違いをしてる線に縋ってたのに……」
「ごめんね、レーネも俺が好きなんだ。残念だったね」
「ふざけんな、どっかいけよ。姉さんを汚しやがって!」
ユリウスはそんなルカにニコニコの笑顔を向けており、ルカは更に腹を立てている。
「お願いだからルカは落ち着いて、ユリウスは黙ってて」
このまま大暴れしてしまってはどうなることかと不安になったものの、アーノルドさんが止めに入ってルカを捕獲してくれたことで事なきを得た。アーノルドさんとルカの相性が良すぎる。
「週明けの登校が楽しみだな」
「そ、そうですかね……」
ユリウスが嬉しそうで何よりだけれど、私は今日の数倍以上の好奇の目に晒されるであろう、次の登校日が恐ろしくなっていた。




