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兄と妹、その終わり 5




「────」


 何が起きたのか分からず固まる私をよそに、周りからは「きゃああ!」という女子生徒達の悲鳴が響き渡る。ざわっと波のように広がっていく声が、どこか遠くに感じられた。


 悲鳴というより絶叫で、視界はユリウスでいっぱいで目で確認できなくとも、会場内は騒然としているのが分かる。


「ん、う……」


 一度解放された後、角度を変えてもう一度キスをされたところでようやく我に返った私は、咄嗟にユリウスの胸元を両手で押す。それでも私の力ではびくともせず、されるがままになってしまう。


 こんな大勢の前でキスをされるなんて信じられず、脳内は驚きと羞恥でいっぱいで、このまま気絶してしまいたくなる。


 ようやく解放された後、私は自身の口元を両手で覆い、後ろに飛び退いた。


「…………っ」


 未だにざわついている周りは恐ろしくて見たくなくて、ユリウスだけを視界に入れようとする。


 動揺を超えてパニック状態の私をよそに、ユリウスは涼しい顔をして私を見つめていた。


「ユリウス、やるなあ」

「……最っ悪なんだけど、ありえない、無理、殺す」


 ざわめきの中で、楽しげなアーノルドさんや、明らかに苛立っているルカの声が耳に届く。


 私は頭が真っ白になって、まともな言葉を発せずにいた。


「嘘でしょう? 兄妹であんな……」

「ユリウス様でもこれは流石にやばくない?」


 そんな声に、ハッとしてしまう。


 人前でキス云々の前に友人達以外は私達の関係を知らないし、ハートフル学園の生徒からすれば実の兄妹なのだから、なおさら異常事態に違いない。


 どう弁解すればいいのか分からにいると、ユリウスは綺麗に口角を上げ、私の肩を抱き寄せる。



「俺達、血が繋がってないんだよね。だから付き合ってる」



 はっきりと言ってのけたことで、より会場内は騒然となる。


 これまで私達はずっと兄妹として過ごしてきたのだから、当然だろう。視界の端で、ジェニーも信じられないという顔をしているのが見えた。


 私も呆然としながら、平然とした態度のユリウスを見上げることしかできない。


「おいで」


 やがてユリウスは私の手を掴み、そのまま会場の出口に向かって歩き出す。


 周りの生徒達からの視線を浴びながらその後をついていく私は、気が遠くなるのを感じていた。




 手を引かれていき着いたのは、体育館の二階部分にある空き部屋だった。


 初めて入ったけれどちょっとした物置になっており、ソファまである。慣れたように室内へ入ったユリウスは二人がけのソファに座り、手を繋いだまま立ち尽くす私を見上げた。


「レーネも座りなよ」

「な、なんであんなこと……!」


 ようやく出てきたのはそんな言葉で、ユリウスはふっと口元を緩める。


「もう俺達の関係を隠すの、嫌になったんだよね。あいつも喧嘩を売ってくれたし、レーネは俺のだって周りに知らしめようと思っただけ」


 動機は理解できるけれど、問題だって色々とあるはず。


 不安になる私の腕を引いて隣に座らせると、ユリウスは優しく頭を撫でてくれる。


「本当は交流会が終わった後、王城での夜会で公表しようと思ってたんだ。だからもうさほど変わらないしいいや、ってあんな安い挑発に乗った」


 ユリウスがそう考えていたことも初耳で、やはり戸惑いを隠せない。話を聞いたところ、私にも交流会が終わって落ち着いた後に話そうと思っていたらしい。


「でも、伯爵夫妻とか家のことも色々まずいんじゃ……」

「それなら大丈夫」


 はっきり断言したユリウスは長い足を組み替え、繋いでいたままの手を離す。


「……俺、レーネを好きになってから相当努力してるんだ」

「えっ?」

「自分の強さも、金も地位も全て今以上を手に入れたくて」


 そしてユリウスは長い銀色の睫毛を伏せ、広げた自身の手のひらに視線を落とした。


 元々努力家なのにそれを全くひけらかすことがなかったユリウスが「相当努力している」と言うのだから、私にはもう想像もつかないほどなのだろう。


 それでいて普段そんな素振りは見せず、私の勉強や特訓に付き合ってくれていることを思うと、どこまでもユリウスはすごいと思えてしまう。


「それに、まだ勝てない相手がいるって気付かされたしね」


 自嘲するように口角を上げ、ユリウスは手のひらをきつく握りしめる。


 はっきりと口にはしなかったけれど、隣国で出会ったメレディスのことを言っている気がした。


「今だってレーネを守る力くらいはあるし、家や両親なんて気にしなくても大丈夫だよ。いずれ事を起こす前に警戒されるのが面倒だっただけで、元々どうにでもできたくらいだし」


 以前言っていた家を乗っ取ること、伯爵達への復讐までは従順な息子を演じているつもりだったのだろう。ユリウスは本来、無駄が嫌いで効率を優先するということも知っていた。


「俺はどんな時でもレーネを優先するって決めたから」

「……え」

「これで学園内で堂々と恋人として過ごせるよ。もっと早くにこうすれば良かったな」


 ユリウスは「遅くなってごめんね」と謝罪を口にする。


 そして元々交流会の後に公表しようとしていたのは、私のためだとようやく気が付いた。


『……付き合ってるって言えないの、いやだなと思った』

『学園内の恋愛みたいなのに憧れてたから、嬉しくて』


 きっと私の、過去の発言を気にしてくれていたのだろう。だからこそ不利益を被ってでも、伯爵達と面倒ごとが起きると分かっていても公にしたに違いない。


「……もう嬉しくない? 嫌だった?」


 全て私のためだと思うと胸がいっぱいになって、言葉が出てこなくなる。すると何も言わずにいる私の顔を覗き込み、ユリウスは不安げな表情を浮かべた。


 

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【公爵様、悪妻の私はもう放っておいてください】

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