兄と妹、その終わり 2
良いところまで(?)3話一気に更新してます!
新刊やドラマCDの告知も最後にしているのでぜひ……!
ルカのお声はなんと上村祐翔さんです;;♡
ユリウスが拳を握りしめるのと同時に、コツコツとヒールの音が近づいてきて、目を向けると真っ赤なドレスを纏うミレーヌ様の姿があった。
長く美しい金髪は片側に流しており、その完成しきった美しさに見惚れてしまう。ミレーヌ様が歩く場所には真っ赤なカーペットの幻覚が見えるくらいだ。
「あら、レーネ。今日も素敵ね、よく似合ってるわ」
私には柔らかな笑顔を向けてくれた後、ユリウスとアーノルドさんには呆れた視線を向けた。
「呼びに行ったくせに来ないんだもの。ほら、行くわよ」
「レーネ、また後で」
「うん! お互いに楽しもうね」
ミレーヌ様に連れられ、三年生の集まりへ向かうユリウスとアーノルドさんを見送る。
そして友人達を探しながら、会場を歩いていく。普段は制服姿しか知らない同級生の姿は新鮮でワクワクしていると、不意に後ろからぎゅっと身体に両腕を回された。
「姉さん、待ってたよ」
「ルカ! う、うわあ……」
軽く首だけで振り返ると、黒地に金の刺繍がされた華やかな服装のルカが私を見下ろしていて、照明の光を受けたピアスがきらりと輝いている。
そして桜色の髪を軽く後ろへ流しており、実年齢より数歳上に見える気がした。それでいて、やはりマフィア感のような雰囲気が出てしまうのはなぜなのだろう。だがそれがいいから困る。
「どうかした? 俺、何か変かな?」
「まさか、とんでもない! 神が造りし最高傑作、世界遺産、それがルカです」
「ほんと? 姉さんに気に入ってもらえたなら嬉しい」
少々治安の悪い雰囲気を漂わせつつ、すりすりと頬をくっつけて甘えてくる姿のギャップに、全身から血を噴き出しそうになる。ちょっとした兵器だと思う。
私が「かわいさの化身」「でもかっこいい」「千年に一度の逸材」と褒めるたびにルカはそれはもう喜んでくれるものだから、無限に愛を語ってしまう。
「姉さんこそ、本当に綺麗だよ! 他の奴らに見せるのがもったいないくらい」
ユリウスみたいなことを言うルカこそ、辺りにいる女子生徒達の視線をかっさらっていた。みんなルカとお喋りしてみたいんだろうなとか、お節介おばさんの気持ちになってくる。
「ねえルカ、せっかくだし普段話さない人ともお喋りしてみたら?」
「うん、興味ないかな。俺は姉さんがいればいいし」
笑顔でばっさりと断ったルカは私の腰にさらにきつく腕を回し、離れようとする気配はない。
とても嬉しいものの、そろそろ周りの視線が痛くなってきていることにも気が付いていた。
仲の良いメンバー以外は私とルカが姉弟ということを知らないため、周りからすればただ人前でイチャイチャしているようにしか見えないはず。
「ルカ、ちょっとだけ離れよう? 勘違いされちゃうし」
「俺は誰にどう思われてもいいよ。むしろ俺が姉さんの恋人だと思われれば、変な虫がつかなくなっていいんじゃない? さっきから男共が姉さんを見てるのも腹立たしいし」
「ルカが目立ってるのと、くっついてるからだと思うよ」
「……それ、本気で言ってる?」
ルカは形の良い眉を顰め、首を傾げる。
そんな話をしているうちに、いつものメンバーがこちらへやってくるのが見えた。
「レーネ、いたいた! お前ら本当に仲良いな」
「あっちに食事が出てきたわよ。取りに行きましょう」
ヴィリーやテレーゼ、みんなも正装姿でずらりと並ぶ姿は直視できないほどに眩しい。ラインハルトは何度も何度も女子生徒達に囲まれ、ここにくるだけで一苦労だったんだとか。
「レーネちゃん、私達もいるよ! さっき吉田くんにみんなのことを紹介してもらったの」
「俺まで巻き込むな」
吉田の隣には華やかに着飾ったアンナさんとセシルの姿もあって、もはやハートフル学園のメンバーかと思うくらい、しっかり馴染んでいる。
「しかもね、セオドア様に握手もしてもらっちゃった! 吉田くんには超怒られたけど!」
「…………」
「本当にいい加減にしろ、不敬すぎる」
セオドア様の手を掴んでぶんぶんと嬉しそうに振るアンナさんを、すかさず吉田マネージャーが引き剥がしている。吉田もボス水竜の討伐を通し、アンナさんの扱い方を学んだらしい。
マイラブリンオタクのアンナさんからすれば、推しの芸能人に会ったような感覚なのだろう。
「ほら、お前も行くぞ。早く行かないと人気の料理はなくなるらしいからな」
「分かったよ、母さん」
「俺はお前ら姉弟の親ではないんだが」
ルカも吉田を母と認識したようで、私から離れると大人しく後をついていく。ナイス判断だ。
それからはみんなでビュッフェ形式の美味しい食事をいただきながら、今回の交流会についてや他愛のない話をした。
誰もが交流会も楽しかったと話していて、良い思い出や経験になって良かった。
「セオドア様って、意外とたくさん食べますよね」
「…………」
「いえ、最高です。間違いなくそちらの料理の食材も生まれてきたこと、セオドア様の血肉になれることを心から喜んでいると思うので」
「気色の悪いことを言うな」
私も吉田に怒られつつ団欒する中、長いテーブルの端っこにあるケーキが気になり、お皿片手にみんなの輪から外れて取りに向かう。
ふと会場内を見回すと、男女問わず大勢の人に囲まれているユリウスの姿が目に入って、やはり人気者であることが窺える。
他校の生徒からは握手まで求められており、まるで芸能人のようだと思っていた時だった。
「あの、ウェインライトさん」
「はい! 何でしょう」
突然話しかけられ、振り返った先には見知らぬ女子生徒と男子生徒の姿がある。




