兄と妹、その終わり 1
先日のリアルサイン会の参加券はなんと3分で完売しまして、本当にありがとうございました……!;;
今回お会いできなかった方もまた別の機会を作って貰えるよう頑張りますので、引き続きよろしくお願いします;;
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あっという間に交流会の七日目の最終日を迎え、私達は朝から体育着で競技場に整列している。
そして告げられた結果は、予想外のものだった。
「今回の交流会は──引き分けとなった」
「ええっ」
各競技ポイント換算しているそうで、ハートフル学園はユリウス達が狩り尽くした水竜討伐と魔の森でのたくさん捕まえた魔蝶が主な得点となる。
一方、パーフェクト学園側はアンナさんが無双したドラゴンレース、そしてウィンさんが優勝した個人戦が主な得点で、計算したところ見事に同じ得点だったそうだ。
勝ちたい気持ちはあったけれど、今回の結果としてはこれで良かった気がする。そう思っているのは私だけではないようで、周りを見回しても誰もが満足げな表情をしていた。
各競技の表彰が行われた後は、学園長の挨拶が始まった。
「素晴らしい戦いを見せてもらったことに感謝し、今年は両校の選手を招いて今夜パーティーを開催することとなった」
なんとハートフル学園とパーフェクト学園の出場選手、百二十名でパーティーを行うそうで、初めての試みにみんな驚きつつも、喜んでいるようだった。
もちろん私もみんなでパーティーという楽しみすぎるイベントに胸を弾ませる一人で、今夜を楽しみにしながら、もらったばかりの賞状を抱きしめた。
◇◇◇
この一週間の疲れを取ろうと、お昼寝をしたりのんびりしたりしているうちに夜になった。
そして現在、ドレスに着替えた私は眩しいジャケット姿のユリウスと共に、再び学園へと向かう馬車に揺られている。
「ねえ、やっぱり行くのやめない?」
「まだ言ってる」
隣で肘をついて溜め息を吐いているユリウスは支度を終えて顔を合わせてからというもの、私がパーティに行くことに反対し続けていた。
もちろん楽しみで仕方ない私は行く気満々のため、ユリウスの意見は却下して今に至る。
「本気で他の男に見せるのすら嫌なんだけど」
「そんなことを言われましても……」
今日の夜空のような濃紺のドレスも、ドレスに合わせたアクセサリーも靴も鞄も全てユリウスが以前プレゼントしてくれたものだ。
普段の可愛らしい系のドレスとは違って落ち着いたデザインだけれど、流石ユリウスの見立てという感じで、驚くほど私に似合っている。
合わせて髪もアップヘアにして化粧も寄せたところ、かなり大人っぽくなったように思う。
「ユリウスこそ、鏡は見た?」
「うん」
平然としているユリウスは、自身の見目についてはやはりどうでも良いらしい。
光沢のあるグレーのジャケットにいくつかの装身具、そして以前より伸びた銀髪を軽く耳にかけているだけという至ってシンプルな姿なのに、それはもう輝いて見える。
私も大人っぽくなった気でいたけれど、その数倍ユリウスの色気は増しているように思う。
「どうかした?」
つい手元──ドレスグローブが嵌められた手を見つめていると、ユリウスは軽く首を傾げる。
「最高だなと思いまして」
黒革の手袋がユリウスの長い指をぴったりと覆う様は、もはや芸術とも言える。
元々男性の手袋に萌えてしまう私は、眺めているだけで胸が高鳴ってしまう。ユリウスは理解できないといった顔をした後、自身の手元へ視線を落とした。
「こんなものがいいの? レーネが好きなら、いくらでも身に着けるけど」
「私の寿命が伸びて健康になるのでぜひお願いします」
「あはは、それは俺にとってもかなり大事だね」
ユリウスはおかしそうに笑うと、ほんの少し私との距離を詰める。ふわりと大好きな甘い香水の香りが鼻をくすぐり、最近ではこの香りに安心するようになってしまった。
「レーネはどうしたら嬉しいの? 何でもしてあげる」
「な、なんだって……!?」
私の顔の前で右の手のひらを見せつけるように動かすユリウスの提案に、心が躍ってしまう。
「そ、そんな……いくら払えば……」
「身体で払ってくれればいいよ」
「アウトです」
もちろん冗談だよと笑うユリウスは「何もいらないし、レーネちゃんが俺にドキドキしてくれるだけで十分」なんて言ってのける。
残念ながら私はちょろいため、その言葉だけでドキドキは達成できてしまっているから困る。
とはいえ、この好機を逃してはならないと思い、恥を忍んでリクエストをすることにした。
「しょうもないお願いで申し訳ないんですが」
「うん」
「その手袋を、口で咥えて外してみてくれませんか……?」
指先で手袋を咥えて引っ張るような仕草をしてみせながら、お願いをする。手首を外側に曲げて咥えて引っ張るパターンと悩みに悩んだものの、苦渋の決断をした結果だった。
我ながら気色の悪いお願いをしている自覚はあるけれど、欲求が勝ってしまった。
「いいよ」
ユリウスはあっさりと快諾してくれた後、私をまっすぐに見据える。
そして中指の先を咥えると、くいと引っ張った。
「こう?」
そして片側の口角を上げた姿の破壊力に、私は意識が遠くなるのを感じた。
手袋を咥えている口元から始まり、引っ張ってずれたことにより少しだけ見えている手の甲、袖から覗く手首まで、全て色気がある。
「…………っ」
もう叫び声すら出ず、ひたすらときめきを堪えている私を見て、ユリウスはふっと笑う。
「その反応を見られただけで、俺は満足だよ」
この瞬間を切り取って永久保存したいくらい最高だった。
そしてこれはユリウスが自分の容姿の良さをよく理解しており、自信に溢れているからこそ完成した素晴らしいワンシーンだったと、心の中で涙を流した。
「俺も最後だし、少しは楽しもうかな」
「うん! 美味しいご飯もたくさんあるみたいだよ」
「それは楽しみだ」
他愛のない会話をしているうちに、本日二度目のハートフル学園に到着した。
毎日のように来ている場所なのに、夜というだけで全く違う場所に感じられる。
既に校舎裏の競技場はなくなっていて、本当に何でもありのファンタジー世界だなと改めて笑ってしまった。
「すっごく綺麗……!」
ユリウスと共に体育館へ足を踏み入れると、王城の大広間のように豪華に飾り立てられていて、豪華なシャンデリアが輝く天井を見上げながら感動してしまう。
そんな中、今回の交流会に参加した生徒や先生方もドレスアップしていることで、一般的な社交の場と遜色ない煌びやかな光景だった。
私の知っている体育館の要素はゼロで、建物自体を間違えて入ってしまったような気さえする。
「これって何がどうなってるの? 突貫工事?」
「あはは、まさか。先生の幻影魔法だよ。実際はいつも通りの体育館のはずだから」
「幻影魔法……」
「きっと今回のは視覚的なものだから、触ってみると分かりやすいかもしれない」
授業で少しだけ齧ったことがあるけれど、実際にこうして見るのは初めてで、やはりハートフル学園の先生方は流石だと尊敬の念は絶えない。
「ユリウスは使えるの?」
「少しだけかな。魔法の中でも他人の五感に働きかけるものはかなり難しいから」
ファンタジー魔法の鉄板だし憧れはあるけれど、ユリウスでそれなら私にはまだまだ早そうだ。
「あ、いたいた。ユリウス!」
ひらひらと片手の指先を動かしながらやってきたアーノルドさんはユリウスに劣らない、むしろそれ以上の色気に溢れている。
なんというか露出だってほとんどないかっちりした服装だからこそ、ぐっとくるものがあった。
「ユリウス、クラスのメンバーで一旦集まろうって先生が」
「……分かった」
仕方なしという感じで返事をしたユリウスは、私に心配げなまなざしを向けてくる。
学園内なのだし友人達だっているのだから平気だと伝えたところ「俺の見える範囲にいてね」と言われてしまった。
ユリウスの過保護さは磨きがかかるばかりで、こちらが心配になる。
「でも、結構暑いね。もう少し薄着でも良かったかな」
アーノルドさんは白い手袋をしており、なんと手首を曲げて咥えるという、私が先ほど悩んだ例の仕草をさらっとやってのける。
「あっ……」
一切のわざとらしさもなく、自然にやってのける姿はさながらスチルのようで、さすがだなあと感心しながら眺めていた時だった。
ユリウスはアーノルドさんの腕を掴むと勢いよく手袋を引き抜き、アーノルドさんの上着のポケットに突っ込んだ。
突然のユリウスの行動に、アーノルドさんは不思議そうにしている。
「何でユリウスが脱がすの? こういうのはかわいい女の子にされたいのに」
「あっそう」
アーノルドさんが不思議そうにしている中、私はもちろんユリウスの行動の理由を察していた。
ユリウスはそんな私に芸術品のように美しいご尊顔を近づけると「俺さ」と口を開く。
「アーノルドよりモテるんだけど、レーネから見て何が足りない? 教えてほしいな」
「誤解です、本当に本当に誤解です。ユリウス様に足りないものなんてありません」
単にその辺に咲いている綺麗な花を眺めるような感覚で、他意はない。
「好みっていうのはもうどうしようもないと思うし、ユリウスもいい加減しつこいと思うな」
「本気で殺すよ、お前」
けれどアーノルドさんは、煽りとも取れる顔をして、考えうる中で最も余計なことをご丁寧に言ってくれる。
そしてこれが素なのかふざけているのかよく分からないから、なおさら困る。
ユリウスが手袋外すところ、神挿絵があるので……最高にかっこいいので書籍もなにとぞ………………




