交流会・事件続きの魔の森編 10
その後は四人で仲良く魔蝶を捕まえて回り、結果二十五匹という新記録を叩き出してしまった。
結局、私とヴィリーは最後まで魔蝶の魔力を探知できず、今後も修行をしようと決意した。
ちなみに眠らされていた生徒達はみんな、競技が終了するのと同時に目を覚ましていた。
『森の中をひたすら歩いて回るの超だるかったんで、寝てる間に終わっててラッキーでした』
ハートフル学園の生徒にウィンさんは反省した様子で謝罪していたけれど、みんな怒るどころか感謝すらしていた。
ちなみにパーフェクト学園側の生徒達は蝶を捕まえるより楽しそうであること、そしてウィンさんの頼みならとすんなりOKしたとか。
何より誰もが彼を慕っているようで、やはりユリウスに対しては拗らせてしまっただけであり、根は努力家で真面目でとても良い人なのだろう。
全く意味のなかった口封じのために眠らされた男子生徒達も「あれ、めっちゃ効きますね。一瞬でぐっすりでしたわ」と呑気に話していて、どこまでも平和だった。
◇◇◇
そんなこんなで無事に優勝した私達は大いに喜び合い、帰宅した。ゆっくりお風呂に浸かって綺麗さっぱりした後は、ユリウスの部屋を訪れた。
「お疲れ様。来てくれてありがとう」
「ううん、ユリウスもお疲れ様」
ユリウスもお風呂上がりらしく、髪が落ち着いていて少し幼く見える。
隣に座るとふわりと嗅ぎなれない甘い良い香りがして、気になって近付き、そっと匂いを嗅いでみたところ「待った」と肩を掴まれて止められた。
「恥ずかしいんだけど」
「ごめんね、いつもと違う香りがしたから気になって。ユリウスも恥ずかしいって思うんだ?」
「俺をなんだと思ってるのかな」
「だっていつも平気そうな顔で、恥ずかしいことを言ったりしたりするから」
そのせいで私の心臓は負担がかかりすぎて、寿命が縮まっていっている気がする。
ユリウスが「だってさ」と言った次の瞬間には、視界は銀色に染まっていた。
「これは流石に恥ずかしくない?」
「…………っ」
首元にはユリウスの鼻先が当たっていて、何をされているのか分かった途端、顔から火を噴き出しそうになった。声にならない悲鳴を上げて暴れると、ユリウスは楽しげに笑う。
「レーネだって俺にしたくせに」
「いや距離、距離感が全然違いました」
「じゃあ俺にもしていいよ、同じの」
「さっき恥ずかしがってたのは何だったの?」
なんとか解放されたものの、何故かユリウスの膝の上に乗せられ、向かい合う体勢になった。
「これもかなり恥ずかしいんですが」
「レーネの顔、ちゃんと見たくて」
愛おしげな眼差しを向けられながらそんなことを言われて、嫌だと言えるはずもなく。
恥ずかしさを堪えながら、ユリウスのガラス玉みたいな瞳を見つめ返した。
「でも、今日は本当に色々あったね。疲れた?」
「正直へとへとだけど楽しかったし、ランク試験の加点もたくさんされそうで大満足だよ」
「あはは、良かった」
王子とヴィリーも楽しめたと言っていたし、この競技を選んで良かったと思っている。
「……それに、ユリウスが今の自分の方が好きって言ってたのも、嬉しかった」
素直な気持ちを伝えると、ユリウスは切れ長の目を見開き、やがて柔らかく微笑んだ。
「レーネのお蔭だよ。本当に」
ユリウスは目を伏せ、私を抱きしめる腕に力を込めた。
「……俺は元々、自分のことが好きじゃないんだよね」
ユリウスはぽつりと、呟くようにそう言った。
けれどずっとそんな気はしていて、驚くことはなかった。確信したのは交流会前に「俺のことが好きな人は好きじゃない」という発言を聞いた時だと思う。
そんな悲しい言葉は、自分のことが嫌いじゃないと出てこないはずだから。
「母様だって、俺がいなければもっと自由な人生があったはずだと思ってる」
ユリウスのお母様について、私はほとんど知らない。
けれどユリウスはこうしてずっと自分を責めてきたんだと思うと、胸の奥が痛んだ。
「面倒事ばかり起きる目立つ容姿も好きじゃないし、他人を損得でしか図れず打算的な行動しかできない性格だって、どうかしてるよ」
自嘲するユリウスのこの話を聞くのは、とても辛くて苦しかった。大好きな人を悪く言われているのを黙って聞いているなんて、悲しくて仕方ない。
良いところはたくさんある、私は大好きだって伝えたいけれど、今は我慢をして相槌を打つ。
「でも俺、レーネといる時の自分は好きなんだ。まっすぐなレーネといると自分もそうありたいと思えて、少しはそんな人間になれているんじゃないかって勘違いできるから」
「勘違いなんかじゃない! ユリウスは優しくて誠実だよ」
「……ありがとう」
思わず大きな声で否定してしまった私の頭を撫で、ユリウスは私の肩に頭を預けた。
「それにレーネが好きな人も、不思議と好きになれるんだ。レーネを大切にしてくれる子達だってかわいくて仕方ない」
「……うん」
優しい声音に目の奥が熱くなるのを感じながら、ユリウスのシャツをぎゅっと掴む。
最近のユリウスの様子から、それは伝わってきていた。だからこそヴィリーや王子、みんなもユリウスに懐いているのだということも。
「レーネのためなら何でもしたいって思えるのも好きだよ。見返りなんていらないし、自分がいくら損したっていいって思える日が来るなんて、昔の俺は絶対に信じないだろうな」
目に溜まった涙が溢れないように唇を噛んで、相槌の代わりに頷く。
「本当は独占欲まみれで嫉妬ばかりして、自分の感情をコントロールできない自分も、少しだけ好きなんだ。上手く言えないんだけど、人間してるなって感じがして」
あいつが言っていた通り腑抜けてるかも、なんて悪戯っぽく笑うと、ユリウスは顔を上げた。
「……こうして言葉にして、今ようやく分かった」
透き通った瞳から、目を逸らせなくなる。
「俺はレーネのことが好きな俺が好きなんだろうな」
その言葉を聞いた瞬間、どうしようもないくらい胸を打たれていた。これ以上の愛の言葉なんて存在しないだろうと、本気で思ったくらいに。
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