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交流会・事件続きの魔の森編 3



 すると「どうしよう」しか出てこない私の肩に、ぽんと手が置かれた。顔を上げるとヴィリーが真剣な表情を浮かべ、太陽みたいな橙色の瞳で私を見つめている。


「レーネ、俺も一緒に出頭するよ」

「えっ?」

「お前だけの責任じゃないしさ、大丈夫だ」

「そんな、ヴィリー……」


 間違いなく全て私の責任だし、もちろん大事な友人を巻き込むつもりなんてない。


 それでもヴィリーが本気で言ってくれているのが伝わってきて、その気持ちがどうしようもなく嬉しかった。一緒に出頭なんてすれば、自分の人生がどうなるかも理解しているはずなのに。


 ヴィリーのお蔭で腹が決まった私は、ヴィリーの手を両手で固く握りしめた。


「ありがとう、ヴィリー。でも一人で行って、きちんと自分の罪を償ってくるよ。牢の中から手紙も書くし……グスッ……私、ヴィリーと友達になれて本当に良──」

「感動的な空気の中で悪いんだけど、ちょっといいかな?」

「えっ?」


 私の声に重なるように口を開いたユリウスは、少し離れた場所を指さす。


「レーネが倒したのはあっちだよ。あの魔物」

「へ」


 ユリウスが指差す先には、動かなくなっている大きな猪型の魔物の姿があった。


 TKGは魔力で矢を作るため、対象に当たった後は矢が消える。それでも冷静になって確認してみると自分の魔力の残滓が感じられ、ユリウスの言う通りだと確信した。


「よ、良かったあ…………」


 どっと安堵感が広がり、その場にしゃがみ込む。さっきの一瞬で逮捕される未来まで想像して、本気で寿命が縮まった。なんとも恐ろしい勘違いすぎる。


 これまでの人生の中でも、間違いなく首位を争う絶望した瞬間だったように思う。どうやらさっきの女子生徒がたまたま、私が倒した魔物の近くに倒れていただけらしい。


 隣ではヴィリーが深い溜め息を吐き、同じく脱力したように膝を折っていた。


「マージで焦ったわ。俺、親の顔まで浮かんだもんな」

「ヴィ、ヴィリー……! 本当にありがとう」


 私のために一緒に憲兵団に出頭するとまで言ってくれたことに、改めて泣きそうになる。元のレーネもヴィリーには心を開いていたようだし、本当に優しい人だと心から思う。


 もしもヴィリーに何かあった時には、私も人生をかけて全力で救おうと固く誓った。


「あはは、涙まで浮かんでる」


 ユリウスは私の手を取って立ち上がらせ、指先で目元の涙を拭ってくれる。


「わ、笑い事じゃないんですけど……」

「ごめんね。でも、レーネが人を殺しそうになっても止めるから大丈夫だよ。今の攻撃が人に向けられていたら、防御魔法を対象に展開した上で攻撃自体も横から無効化させるし」


 あっさりとそう言ってのけたユリウスは、本当に全てやってのけるのだろう。


 ユリウスはヴィリーにも手を差し出して立ち上がらせた後、深紅の髪をよしよしと撫でた。


「ありがとう、これからもレーネと仲良くしてね」

「当然っす」


 照れたようにはにかんだヴィリーに、私も笑顔になる。


「まあ万が一レーネが誰かを殺したとしても、どうにかするから大丈夫だよ」

「ど、どうにかとは……?」

「なかったことにする」


 綺麗に微笑んだまま、そう断言したユリウスを犯罪者にしないためにも、今後も犯罪だけは犯さないように生きていこうと思う。


「はっ、そうだ! さっきの子は……」


 人を殺めておらず良かったものの、あちらはあちらで全く良くない。


「セオドア様が見てくださっているから大丈夫だよ。眠ってるだけ」


 ユリウスの言葉に安心しながらも、慌てて倒れていた女子生徒のもとへ戻る。すると変わらず意識のない女子生徒の側で、王子がその様子を確認してくれていた。


「目立った怪我もないから、大丈夫」

「でも、頭も体にもたくさん血が……」


 真っ赤に染まる姿はどう見ても殺人現場で、これは勘違いをしても仕方ないとしみじみ思う。


 王子は指先で赤い液体を少しだけ拭い、観察している。


「血じゃない。強い催眠効果のある薬品だ」

「えっ……?」


 こんな森の中で一体何をどうしたら、強い催眠効果のある液体を全身に被るのだろう。


「誰かに強制的に眠らされたんだろうね」


 後ろから私を抱きしめて頭に顎を乗せたユリウスは、さらりと恐ろしいことを言ってのけた。


「あ、これが前に言ってた罠ってやつ?」


 ヴィリーの問いにユリウスは「まさか」と笑う。


 そして私から離れると、まるで周りを警戒するかのように目を細めてあたりを見回した。


「先生方はこんなやり方はしないよ。無理やり意識を奪って放置なんて、魔物に襲われる危険性もあるからね。このまま置いておくわけにはいかないし、先生に知らせてくれる?」


 ユリウスのお願いに対して頷くと、王子は連絡用の魔道具を取り出す。二人は冷静だったけれど、私とヴィリーは困惑を隠せずにいる。


「でもそれなら、一体誰が……」

「ここには結界が張られているから、無関係の人間は入って来られないようになってる」


 ユリウスはいつもと変わらない様子で淡々と話しながら、腰から下げた剣の柄に触れた。


「だから、俺達と同じ参加者だろうね」


 次の瞬間ぶわっと強い風が吹いて、瞬きをした後、地面にはパラパラと何かが落ちていく。


 それがユリウスによって切り落とされた矢だと理解するのに、少しの時間を要した。



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【公爵様、悪妻の私はもう放っておいてください】

新連載もよろしくお願いします!

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