交流会・涙の水竜ボス討伐編 4
《チッ、埒が明かないな。次の尻尾の攻撃を避けた後、全員で一斉に距離を詰めるぞ。レーネは俺がサポートするから、アンナのことは吉田に頼むと伝えてくれ》
「分かった、ありがとう!」
セシルの言葉を二人にも伝え、再びの攻撃を避けてすぐ、全力で水魔法を使って再び水竜の腹部へと向かっていく。
セシルが私を守りつつ水の流れを作ってくれるお蔭で、勢いよく目的地に進むことができていた。セシルの魔力の多さや魔法の正確さ、視野の広さには本当に驚かされる。
もはや流れるプール状態で、私にできることと言えば少しでも水の抵抗が小さくなるよう、全身を水平に保つことぐらいだった。
ボス水竜は相変わらず暴れているものの、やはりあまり身体の自由が利かないようで、一度近付いてしまえば攻撃はかなり避けやすい。
「う、うわあ……これがおへそ……」
やがて腹部へ辿り着くと、巨体すぎる故におへそというより洞穴のようだった。やはりこの部分だけは岩石のような鱗に覆われてはおらず、弱点で間違いないだろう。
《一斉に弱点へ攻撃を始めれば、全力で暴れ出すだろう。吹き飛ばされる可能性も高い。一撃で倒すつもりで、出し惜しみせずにいくぞ》
「分かった! アンナさん、吉田、出し惜しみせずに一撃で倒すつもりで行くってセシルが!」
《はあい、了解! 頑張るね!》
《ドキドキするワン!》
全く的外れなことを言われるのも困りものだけれど、もしかすると吉田の気持ちかもしれないとうっかり思ってしまいそうな感じで、絶妙に噛み合うのもやめてほしい。
けれど指示を伝えて反応が返ってくる、共有できていると確認できるだけで安心感は桁違いだ。
私の心の中にだけ留めておきさえおけば、やはり大変ありがたいアイテムだろう。
《準備はいいか? 3秒後に一斉に攻撃魔法を放つからな。レーネ、あいつらにも伝えてくれ》
「任せて! 吉田、アンナさん、3秒後に一斉にいきます! 3、2、1、てーっ!」
私の合図に合わせ、四人で一斉にボス水竜の腹部の空洞に向かって攻撃を放つ。
《他に掛け声あっただろ》
「ごめん、人生で一回は言ってみたかったセリフだった」
セシルと吉田に関してはハイレベルすぎて何を打っているのかすらよく見えなかったけれど、アンナさんは風魔法を、私は全力で氷魔法を繰り出した。
水魔法に効果的なのは雷魔法だけど、水中で放てばこの場にいる全員がくらってしまうからだ。
「う……っ」
四人で攻撃を放った直後、ボス水竜はのたうち回るように暴れ出した。一撃で倒すことはできなかったものの、弱点への攻撃はかなり効いているらしい。
巨体が激しく動くことで生じた、凄まじい勢いの水流に呑まれそうになるのを必死に堪える。
三人がボス水竜を倒してくれたとしても、私が吹き飛ばされてこの場を離れてしまえば、指輪を回収できず全てが水の泡になってしまう。
《レーネ、あと少し耐えろ! 攻撃は通ってる!》
もう返事をする余裕すらないけれど、セシルの言葉を信じて必死に魔力を放ち続ける。セシルや吉田、アンナさんも苦しげながら、攻撃を続けてくれていた。
もう本当に限界が近くて一瞬でも気を緩めれば、全てを持っていかれるだろう。
「お願い、倒れて──!」
そう強く祈りながらありったけの、体内の全ての魔力を氷に変えて全開で放つ。
意識が飛びそうになりながらも最後の力を振り絞った瞬間、何かが弾けるような轟音がして、目の前の巨体がゆらりと傾いていくのが見えた。
そのまま水竜はゆっくりと倒れていき、やがて沼の底で動かなくなった。
「や、やった……?」
全員で固唾を飲み、その様子を見守る。
すると不意に右手の中指に違和感を覚えて視線を向けると、そこには青い宝石のついた指輪が嵌められていた。
間違いなく、これが今回の目的である古代魔道具のひとつだろう。つまり無事にボス水竜も倒せたのだと、全身に一気に安堵感が広がっていく。
「み、みんな! みんなのお蔭で無事に指輪が──って、うわああああ……!?」
突然、沼の底に巨大な文字が浮かび上がり、青白く光り出す。宿泊研修の時と同じだと思いながら、あまりの眩しさに目を閉じるのと同時に、ぶわりと身体が浮遊感に包まれる。
そして気が付くと私達は湖の中ではなく、地上の湖の側に移動していたのだった。




