正しい結末 2
無事に指輪を集められた場合、五本の指のうちの四本に常に指輪を嵌めることになってしまう。
しかも今付けている指輪の宝石が色違いバージョンらしく、悲惨すぎる。今後はどんなにお洒落をしても、右手が全てぶち壊してくれそうだ。
「やだあ、確かにゲームだと全然気にならなかったけど、リアルだと超ださそう」
他人事のように笑うアンナさんは、やがて「あ」と口元に開いた手のひらをあてた。
「次の青の指輪は、今回の交流会で手に入れなきゃだから頑張ってね」
「ええっ」
先ほど難易度が高いと言っていたし、入手方法を聞いてしっかり計画を立てて行動しようと思っていたのに、もう時間がないどころの騒ぎではない。
「全員の好感度が高い場合のみ、コーバス湖での水竜討伐の途中で水竜のボスに会えるんだ。それを倒せば青の指輪がゲットできるはずだよ」
アンナさんは可愛らしくウインクしてくれたけれど、待ってほしい。
「あのすみません、そもそも私、湖での競技に参加しないんですけど……」
全員の好感度とか水竜のボスだとか懸念点は色々あるけれど、大前提から崩壊している。
私は湖に対して幼少期からのトラウマを抱えているため、全力で避けたのだ。出場選手の変更はもうできないはずだし、どうしたって詰んでいる。
「ど、どうしよう……」
「競技には出なくても、その時間に合わせて行けばなんとかなると思うよ。杏奈もそんな感じで大体のことは何とかなってきたから」
アンナさんはそう言ってくれたけれど、ただでさえ湖が恐ろしいというのに、水竜という白亜紀に存在していそうな大きな魔物のボスを倒せだなんて、ハードルの高さが天元突破している。
「それにメレディスに殺される方がよっぽど怖いと思うよ? 一番怖いバッドエンドだと、恐怖で言葉が出なくなったヒロインの声を叫び声でもいいから聞こうとして、お腹の中を──」
「やります、やらせてください」
一瞬にして私の心は決まり、いきなり明日に迫ったボス水竜の対策を立てることにした。
◇◇◇
それから三十分後、私はまだ校内にいた吉田を捕まえて、地面に両手をついていた。呆れを含んだ視線を向けられながら、土下座を続ける。
「吉田様に折り入ってお願いしたいことがあり……」
「過去、この流れで良い話だったことがあったか?」
「ありません」
今回もろくでもないお願いだと察したらしい吉田は、眉を寄せている。
それでも私の必死さも察してくれたようで、溜め息を吐くと「仕方ない」と続けた。
「……まあ、聞くだけ聞いてやる。まだ引き受けるとは限らないからな」
「ありがとうございます」
両手をついたまま、心優しい吉田様を見上げた。
「実は明日、競技中にこっそり湖に忍び込んで水竜のボスを倒さなくてはいけなくなり……」
「何をどうしたらそんな必要が出てくるんだ」
間髪入れずに的確なツッコミが入り、吉田の眉間の皺がさらに深くなる。
──ユリウスや三年生組は選手として競技に参加するため、審判にしっかりと監視される以上、協力を仰ぐことはできない。
王子もラインハルトも参加選手だし、ヴィリーは水魔法が苦手だと聞いている。その結果、大変申し訳ないとは思いつつ、いつものように吉田にお願いすることになってしまった。
「生きていたらそういうこともあるみたいで……」
「あってたまるか」
「ハイ」
吉田のご意見はごもっともだ。けれど、元々事情を知っていたアンナさんとは違い、メレディスとの件に巻き込むわけにはいかず、本当の理由は説明できそうにない。
「ちなみにこちらのアンナさんとセシルも同行してくれます」
そしてここで、先程から私の後ろに立っていた二人を紹介しておく。
「俺も最初、今の吉田と全く同じことを言ったわ。意味が分からなすぎるよな」
腕を組んで私を見下ろすセシルも、呆れた眼差しを向けてくる。
アンナさん曰く、最低でも水竜のボス討伐には四人ほど必要だそうで、案内や攻略方法を知っているアンナさん自身も同行して手伝うと言ってくれた。
筆記は壊滅的ではあるものの、魔力量と実技が優れているからこそのDランクらしく、心強い。
そしてパーフェクト学園に首席入学し、Sランクをキープし続けているという優秀なセシルにも必死に縋り付いてお願いしたところ、渋々了承してくれた。




