絶対に負けられない戦い 2
「まあ、ウェインライトさん、素晴らしいわ!」
すると教室内を見回っており、私の横まで来ていた先生は両手を合わせ、高い声を上げた。
そう、なんと私の水晶も完全に綺麗な黄色になっていたからだ。
「おいレーネ、すげえじゃん!」
「わ、私ってば……こんな才能が……!?」
「次は水魔法と風魔法を組み合わせてみましょうか」
先生に言われた通りにしてみると、今度は青と緑が綺麗に混ざり、透き通る水色になった。
私自身はもちろん、ヴィリーやテレーゼ、近くの席にいた生徒もみんな驚いている。
「やっぱり完璧ね! 練習していたの?」
「いえ、初めてです。そもそも私、魔法を使うのは上手くなかったのに、どうして……」
「この結果を見る限り、上手くないなんてことはもう絶対にないわ。あなたはとても努力家だし、これまでの頑張りが実を結んだんじゃないかしら」
そんな先生の言葉に、じわじわと目頭が熱くなった。
自分では頑張っているつもりだったけれど、こうして一年生のへっぽこ時代から担当してくれている先生にそう言われると、ぐっとくるものがある。
「魔法は特に筆記の勉強と違って、感覚を掴めば急成長することもあるから面白いのよ。これからもっと上達するでしょうし、頑張ってね」
「……はい、ありがとうございます」
ずずっと鼻を啜りながら、何度も頷く。
──努力は必ず報われるなんて、思っていない。それでも努力がこうして実を結んでくれるのはどうしようもなく嬉しくて、まだまだ頑張ろうという気持ちが湧いてくる。
去年の春、同じ授業の的当てで三点という悲惨な点数を弾き出し、みんなに笑われていた頃の私に今の姿を見せてあげたいな、なんて思った。
◇◇◇
昼休み、お腹を空かせた私はいつものメンバーとルカと豪華な食堂へやってきていた。
上位ランクのみんなのおこぼれで豪華な食堂にお邪魔し、ステーキランチをいただいている。
「あ! 姉さんそれ、着けてくれたんだ。やっぱりかわいいね」
ルカは顔を合わせるなり、すぐにバレッタに気付いてくれた。
それはもう嬉しそうな顔で喜んでくれる姿に、本気で心臓が抉れるかと思ったくらいだ。
「ルカ、本当にありがとうね! 実は私もルカに普段身に着けられるものをプレゼントしたいと思ってるんだけど、ピアスってこだわりがあったりする?」
「ううん、特には。気に入ってはいるけど」
「そっか」
今のピアスもすごく似合っているし、気を遣わせて無理に着けてもらうのも忍びない。
するとそんな私の気持ちを見透かしたらしいルカは、隣に座る私の手を取った。
「俺は姉さんのためなら穴くらい、いつでもいくつでもどこにでも空けるよ」
「お願いだから自分の身体を大切にして」
眩しい笑顔で恐ろしいことを言ってのけるルカの手を握り返し、必死に言い聞かせる。
そんな私達の向かいでは、吉田がドン引きした顔でこちらを見ていた。至極当然の反応だ。
「俺、爆睡してて全然聞いてなかったんだけどさ、放課後に交流会の集まりがあるんだろ?」
「ああ。交流会の参加選手に選ばれた生徒は明日以降、他の生徒達とは別のスケジュールで授業を受けることになるからな。参加競技の選択や説明が行われると聞いている」
「なるほどな。魔法を使って一対一で思いっきり戦ったりもするんだろ? 楽しみだな」
そう、いよいよ来たる三週間後、パーフェクト学園との交流会が行われる。
選手に選ばれるのは各学年の成績上位者と、ランダムで選ばれた一部の生徒のみ。様々な競技で学園対抗の試合が行われ、活躍した生徒にはランク試験の加点もあるという。
加点は魅力的だけれど、ランク試験に向けた勉強やメレディスの解呪など、私にはやるべきことが多すぎる。時間は惜しいし、交流会に向けた練習に注力している余裕はない。
とはいえ、ヒロインの私がこんな一大イベントに不参加、なんて未来は全く想像できなかった。
その一方で、実力で選ばれたSランクの生徒の中に混ざってしまい、酷い目に遭う光景は鮮明に思い描けるから困る。
「選手に選ばれたかどうかって、いつ分かるんだっけ?」
「昼休み中に参加者のブローチの形が変わるそうよ」
「ブ、ブローチの形が変わる……!?」
ほぼ毎日身に付けているブローチに、そんな機能が備わっているとは思わなかった。
現在は「h」「f」という文字が組み合わさっており、言われなければまさかハートフルなんてダサいワードが元になっているとは思えないほど、おしゃれな形状をしている。
「って、うわあ! う、動いてる……!」
そんなことを考えながら見つめていると、ブローチがまるで生きているように動き出す。
なんとも言えない気持ち悪さを感じて硬直しているうちに、なんとブローチは羽を広げた二頭の鳥が重なるような形状になっていた。普段とは全くの別物で、一目で参加者だとわかるだろう。
「やだ……め、めちゃくちゃかっこいいんですけど……」
選手に選ばれてしまった悲しさよりも、ブローチのかっこよさへの感動が上回ってしまったのが悔しい。
間違いなくランダム枠で選ばれたものの、自分がすごい人になった気さえしてくる。
「あ、僕も選ばれたみたいだ。って、ここにいる全員みたいだね」
苦笑いをするラインハルトだけでなく、一緒にテーブルを囲んでいたテレーゼ、吉田、王子、ヴィリー、そしてルカのブローチも私同様に変化していた。
私とは違ってみんなSランクやAランクのため、当然といえば当然だった。
「全学年で合同なんだ、お前の兄やアーノルド先輩達もだろうな」
「確かに! そう思うと、なんだかんだ楽しみになってきちゃった」
何より、来年の春には卒業してしまうユリウス達三年生と一緒に何かできる機会はもう、限られている。学園の代表として選ばれてしまった以上、楽しめるよう全力で頑張ることを決意した。




