夏休みはまだ終わらない
本日で小説家になろう投稿4周年でした!
これからも琴子をよろしくお願いします。
本当に色々とあったものの、みんなで仲良く無事に隣国から帰国することができた。
夏休みもあと一週間と少しになってしまったため、残りも全力で楽しまなければ。本来ならもっと色々と遊びに行くつもりだったのに、地下生活で予定が狂ってしまったのが悔しい。
そんな今日は午前中、ユリウスと屋敷の庭で魔力コントロールの練習をした。
『こ、これ、もうちょっとした兵器では……?』
まだまだ制御できていない状態で久しぶりに私の弓であるTKGに触れたところ、魔力によって作られる矢の部分が元々の百倍くらいの大きさになった。
あのまま放っていたら、隣の屋敷を半壊させていた自信がある。
『二年後半は剣と魔法を組み合わせたり、属性魔法を組み合わせたりする授業が始まるからね。それまでに完璧にコントロールできるようになっておかないと、何もできずに終わるよ』
『本当にやばいので頑張ります』
『それにしても、かなり魔力が増えたね。上手く扱えるようになれば次のランク試験でも有利になると思うし、一緒に頑張ろうか』
『うん、ありがとう! よろしくお願いします』
ここで「一緒に頑張ろう」と言ってくれるユリウスが好きだと改めて思う。まだまだ練習は必要だし先は長そうだけれど、不安は一切なくなっていた。
ユリウスの的確な指導のもと、必死に特訓をした後はお風呂にのんびり浸かって汗を流し、午後からは二人でのんびりと過ごしている。
天気が良いためガゼボでお茶をしているけれど、いつもお互いの部屋だったため、ユリウスとここで過ごすのはなんだか新鮮だった。
「それにしても私、心配されなさすぎじゃない?」
「あいつらはおかしいから、気にしないほうがいいよ」
一応は娘である私が誘拐されていたというのに、伯爵夫妻は「大変だったな」の一言のみ。元々期待してなんかいなかったとはいえ、流石に人としてどうかと思う。
そして帰って来てから知ったことだけれど、私達の想像以上に大騒ぎになっていたらしい。やはり王子が攫われたことで、しっかり国家間の問題になっていた。
旅行中の私たちを気遣って周りもあまり伝えないようにしてくれていたそうで、王子の護衛はとんでもない数になっていたそうだ。さっぱり気付かなかった。
『そのまま一生、地下で暮らしていればよかったのに』
ちなみにジェニーは偶然廊下ですれ違った際、そんな恐ろしいことを言ってきた。
いつものように「ちょっと!」と突っ込めないくらいの暗い重い本気のトーンで、暴言を吐かれた側だというのに彼女の精神状態が心配になってしまったくらいだ。
「最近のジェニー、なんか変じゃない? なんというか病んでる感じがする」
「確かに大人しいね」
ユリウスは興味なさげだったけれど、実は私はずっと引っかかっている。
──元々、ジェニーは一番の敵だと思っていた。
そもそもレーネが階段から落ちたのもジェニーに突き落とされたからだろうし、初めてのランク試験で私を閉じ込めさせたのも彼女のはず。
ジェニーの性格がひん曲がっているのは間違いないし、これまでの行いだって到底許されることではない。元の世界なら逮捕されてしまうほどの犯罪だろう。
けれどルカに対する伯爵の行いや、伯爵夫妻の過去の話を聞いてからというもの、そんな彼らの元で真っ直ぐに育つ方が難しいのではないかとも思っていた。
『お父様はとっくにおかしいのよ。……お母様もね』
二人で話をした際、冷たい眼差しで吐き捨てるようにそう言ったジェニーを思い出す。もしかするとジェニーも、ある意味被害者なのかもしれない。
そんな考えを話すと、椅子に頬杖をついていたユリウスはじっと私を見た。
「レーネは優しいね。自分が一番の被害者なのに」
「私は昔の記憶もないし、メンタルだけは強いから」
「でも、レーネの言っていることもあながち間違いじゃない気がするな。ジェニーが俺を好きだって言っているのも、どうせこの家の女主人になるためだし」
私は恋愛に関して疎い自覚はあるため分からない部分は多いものの、ユリウスがそう言うのなら本当にそうなのだろう。
人一倍──人百倍多くの相手から好意を寄せられている分、その感覚は当たっていそうだ。
そもそもジェニーくらいの美少女なら、この家にこだわる必要があるとは思えない。
ウェインライト伯爵家は由緒ある家門らしいし、魔法に関しても優秀なジェニーならもっと条件の良い相手は選び放題のはず。
「やっぱり、この家に何かある……?」
気になることも分からないことも多いけれど、ジェニーに心底嫌われている私が心配をして声をかけたところで、何か話してくれるはずもない。
とりあえず警戒しつつ、遠目で見守ろうと思う。
「あっ明日、ルカとお父さんに会いに行ってお泊まりだから、朝早く家出るね」
そう、もう残り日数が少ないためルカとの予定もすぐに入れてあった。
明日は朝から合流して父に会い、その後はルカと二人で過ごすことになっている。
「昼には帰ってくるように」
「はい、パパ」
「こんな娘がいたら一歩も家から出さないけどね」
「こわ……」
実の父に会うのがメインイベントのため、ユリウスに止められることもなかった。お土産を買って昼にはちゃんと帰ってこようと思う。
「ユリウスはどこにも行かないの?」
「そうだね。こう見えて結構忙しいから」
帰ってきたばかりの昨晩も、ユリウスは夜遅くまで部屋で何かをしているようだった。
そんなにも忙しい中、一緒に旅行に行ってくれたり休まず私達の捜索をしてくれたりしていたのだと思うと、感謝してもしきれない。
「レーネも遅くまで起きてたよね? 何をしてたの?」
「あっ、その……友達に手紙を書いたり、本を読んだりしていまして……」
「ふうん?」
ユリウスもまた、私が遅くまで起きていたことに気付いていたらしい。




