命懸けの契約 3
きっとメレディスにとって私みたいな小娘ひとりの命なんて取るに足らないもので、そもそも私に選択肢など最初から存在しないのだろう。
ゲームをプレイしていない以上、私がどこで間違えてしまったのかは分からない。
けれど、このままでは無理やり連れていかれるバッドエンドは確実だった。
「レーネといると、久しぶりに楽しいと思えるんだ」
「…………」
恐怖を抱く一方で、心から同情もしていた。
私だって誰にも言葉が伝わらない孤独な世界にいて、唯一理解してくれる相手が現れたら、側に置きたいと思うはずだから。
だからこそ私は、お互いの望みを叶えられる方法に賭けることにした。
「──メレディスが呪いにかかったのはいつ?」
勇気を出してそう尋ねると、メレディスの顔から笑みが消えた。
この世界では「神の使い」という設定になっているらしいから、このことは誰も知らないのだろう。
「なぜそれを知ってる? 誰も知らないはずなのに」
首にかけられた手に、さらに力が込められる。心臓が嫌な大きな音を立てるのを感じながら、私は続けた。
「私ね、違う世界から来たの。だから他の人とは違う特別な力を持ってる」
「……へえ、それで?」
メレディスの反応が変わったのが分かった。こんな突拍子もない話なのに、疑う様子はない。
──今、私がすべきことはメレディスに私に「唯一の言葉が分かる相手」以外の価値を見出させることだ。
そしてその上で、彼に交渉しなければならない。
「私はメレディスの呪いを解くのに協力したいと思ってる。その代わり、お願いをひとつだけ聞いてほしい」
はっきりとそう言った私に、メレディスは切れ長の目を見開いた。
──私はメレディスに執着されて殺されたくないし、メレディスは呪いから解放されたいはず。
だからこそこれが、お互い一番良い道だろう。そんな気持ちを込めて、黒曜石に似た瞳をまっすぐ見つめる。
メレディスはしばらく驚いた様子を見せていたものの、やがてぷっと吹き出した。
「あはははは! レーネみたいな赤ん坊以下の魔法使いが、俺が数百年かけても解けなかった呪いを解いてくれるって? それは傑作だ」
「あ、あかんぼう……」
おかしくてたまらないという様子のメレディスは、首にかけていた手を離し、両手で私の頬を包み込んだ。
ぐっと顔と顔が近づき、漆黒の光を宿さない瞳に映る自分と目が合う。
「いいね、いいよ。絶対に無理だと分かってるのに、お前なら何かしてくれそうな気がしてくる。どうしてだろう? レーネが『異世界から来た』からかな」
「……じゃあ、私の提案を受け入れてくれる?」
「そうだね。レーネの望みは何?」
私は一呼吸置くと、一番の望みを口にした。
「絶対に私を殺さないでほしい」
意外だったのか、メレディスは「へえ」と感心するような声を出す。
「そんなことでいいんだ。俺にかかればどんな望みだって叶えてやれるのに」
「うん。私はそれだけでいい」
「分かった、約束してあげる。期間は五年ね」
「……分かった」
本当は五年なんて短くて不安だったけれど、あくまで私はメレディスに「お願い」をしている立場なのだ。文句なんて言えるはずもない。
唇の端をつり上げたメレディスは私の顔を掴んだまま、今度は耳元に口を寄せた。
「その代わり呪いが解けなかった場合、お前を一生俺の側に置いておくからね。生かすも殺すも俺の自由だし、そもそも解けなかった場合は殺しちゃうかもしれない」
低くて甘い声で囁くようにそう言われ、ぞくりと鳥肌が立つ。
それでもなんとか「分かった」ともう一度告げれば、メレディスは「交渉成立だね」と子どもをあやすように私の背中をぽんぽんと撫でた。
──もちろんこんな恐ろしい約束なんてしたくなかったものの、元々メレディスは問答無用で私を攫う気でいたのだから、交渉としては大成功だと思いたい。
私から少し離れたメレディスは綺麗に微笑み、私の右手を取った。
「えっ」
そして手の甲に唇を軽く押し当てた途端、ぱあっと銀色の光が広がる。慌てて手を引き抜こうとしたけれど、かなりきつく掴まれていてそれは叶わない。
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ユリウス役 内田雄馬 さん
吉田役 石川界人 さん
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アーノルド役 天崎滉平 さん
ヴィリー役 畠中祐 さん
ラインハルト役 白井悠介 さん
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