望まない邂逅 2
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彼と会うのは去年の夏休み、自国の王城以来だった。
いつか再び邂逅するとは思っていたけれど、こんなところで会うなんて思ってもみなかった。
「へえ、覚えていてくれたんだ。嬉しいな」
楽しげなメレディスは目を細めて微笑んでみせたけれど、その目は全く笑っていないように見える。
彼ほど心のうち──感情が一切分からない人は、見たことがない。
「メレディス様、勝手な行動をされては困ります! 後ほどお伺いしますので、どうか……」
「…………」
突然謁見の間に入ってきたメレディスを咎めるトゥーマ国王に対し、メレディスは「嫌だ」とでも言うように顔を背けた。明らかにメレディスに非があるのに、陛下はやけに下手に出ている。
そもそも陛下のいる場所にあんなにも不躾に入って来られるなんて、明らかにおかしい。この場に控えている大勢の騎士たちだって、誰一人動かなかった。
きっと、誰も彼を止められないのだ。
遠い国の教皇だと聞いていたけれど、想像している以上にその存在は大きいのかもしれない。
「なんでここにいる? この国の人間じゃないよな?」
「…………っ」
一度まばたきをした間にメレディスは玉座から目の前へ移動していて、楽しげな表情で私の顎を人差し指でくいと持ち上げる。
こうして近くで見るとより人間離れした美しさで、纏うオーラだって普通の人間とは違う。もはや彼自身が神か何かだと、錯覚してしまうくらいに。
「ええと、夏休みの旅行に来ておりまして……」
ひとまず無視はまずいだろうと戸惑いながらもそう答えた途端、視界の端でユリウスや王子、陛下が信じられないという顔をしたのが見えた。
無難な回答を狙ったつもりだけれど、そんなにもおかしい答えだっただろうか。
「ああ、学生なのか。どこからどう見てもまだ子どもだもんな」
「レーネに触るな」
メレディスの言葉を遮るように、ユリウスは私の顎を掴んでいたメレディスの手を思い切り振り払った。
突然入ってきた謎の男性に自らの恋人がこんなことをされているのだから、怒るのも当然だ。
その気持ちだって嬉しいけれど、今回ばかりは相手が悪すぎて色々な不安がつきまとう。
「は、なに? 俺はレーネと話をしてるんだけど」
「…………」
メレディスの美しい顔立ちには苛立ちが浮かび、ユリウスを睨みつけている。
ユリウスにも引く様子はなく、一触即発という状況になんとかしなければと思った時だった。
「メレディス様!」
陛下の厳しい声が響き、びくりと肩が跳ねる。
メレディスもようやく陛下の言うことを聞く気になったのか、わざとらしく息を吐いた。
「……うるせえなあ、俺がその気になればこいつらもこの国も一瞬でぶっ壊せるのに」
恐ろしい呟きが耳に届き、ぞわりと鳥肌が立つ。普通ならこんな発言、冗談だと思うだろう。
けれどメレディスは本気だと、直感的に悟った。
「あ、あの、後で話しましょう! い、今はアレなので、お願いします!」
とにかくメレディスの意識を他に逸らしたくて、必死に声をかける。無関係な人々はもちろん、ユリウスや王子に危害を加えられることだけは絶対に避けたい。
自分でも苦し紛れにも程があると思ったものの、メレディスは満足げに口角を上げた。
「いいよ、分かった。『後で』ね」
そしてひらひらと指先を動かし、姿はあっという間に見えなくなる。
再び謁見の間はしんと静まり返り、ひとまずこの場は耐えたとほっと息を吐いた。地下に攫われた時よりもずっと、強い緊張感を覚えていたように思う。
「……陛下、今のはどなたですか」
やがて沈黙を破ったのはユリウスだった。
その言葉遣いから、メレディスがかなりの地位にいる人物だと察したのが窺える。
「君たちと話をしている最中だったというのに、大変申し訳ないことをした。今のお方は神聖国のメレディス様で、この世界で一番の魔法使いと言われているお方だ」
「ああ、あれが」
困ったように微笑む陛下に対し、ユリウスは形の良い眉を寄せた。
この世界で一番の魔法使いという初めて知る情報、そしてまるでメレディスのことを知っているようなユリウスの口ぶりに戸惑ってしまう。
そして彼の「呪い」は都合よく「神の言葉」として伝わっているらしい。けれどあの容貌で世界一の魔法使いとなれば、誰だって信じるのも理解できる。
「今から五十年前、ミゼラ王国を一夜にして滅ぼしたという教皇ですね」
「え」
そして語られたとんでもない話に思わず大きな声を出してしまい、慌てて口元を覆った。国を一夜にして滅ぼすなんて、何かの間違いだと思いたい。
「流石、よく知っているね、それなら話が早いよ。メレディス様の機嫌を損ねてしまえば、国が滅びかねないんだ。情けない姿を見せてしまった」
陛下は片手で目元を覆うと、深く息を吐く。私はというと、陛下の反応から事実なのだと悟り、あまりの話のスケールの大きさに困惑を隠しきれずにいた。
──これまでメレディスはヒロインの私一人を死亡BADへ導く、攻略対象の一人というだけの認識だった。
なんというか自分を中心にして、それを取り巻く人物くらいに考えていたんだと思う。だって乙女ゲームというのは、そういうものだから。
けれど彼は国どころか世界を揺るがすほどの力を持つ恐ろしい存在だと知り、ちっぽけな私なんかがどうにかできるとは思えなくなっていた。
そもそも五十年前だなんて見た目は私と同じか少し上くらいなのに、一体何歳なのだろう。
「メレディス様は神の使者であり、そのお言葉は人間には理解できない。だからこそ古くから伝わるハンドサインでご意志を汲み取るはず、なんだが……」
陛下はそこまで言い、言葉を濁す。その視線はまっすぐ私へと向けられた。
「──あ」
そしてようやく、先程みんなが私を信じられないという目で見ていたことに納得がいった。
私は普段通りに会話をしたつもりだったけれど、特殊能力により勝手にメレディスに合わせ、彼にしか分からない言葉を発してしまっていたのだと。
『死亡BADは大体メレディスが犯人なんだ』
『メレディスってね、誰にも自分の言葉を理解されないの。誰よりも強い魔力を持つ代償として、かけられた呪いなんだ』
『だから、唯一理解できるヒロインに執着するんだよ』
アンナさんの言葉が蘇り、脳裏で警鐘が鳴る。
「…………」
周りからすれば、私も「神の使者の」「人間には理解できない言葉」を話していたことになる。
言い訳のしようもなく、何も言葉が出てこない。
詳しいことなど何も知らなかったとはいえ、私が思っているよりもずっと、取り返しのきかないことをしてしまった気がした。
「あ、あの……」
「陛下、先程の褒賞についてですが」
とにかく何か言わなければと口を開くと、被るようにユリウスが発言した。ユリウスは真剣な表情を浮かべ、まっすぐに陛下を見つめている。
「妹に関して一切追求しない、他言しないと、この場にいる全ての方に約束して頂くことは可能でしょうか」
「──え」
予想外のユリウスの申し出に、固まってしまう。陛下は私とユリウスを見比べ、少しの間考え込む様子を見せた後、目を伏せた。
「……ああ、分かった。約束しよう」
「ありがとうございます」
それからは約束通り、何も尋ねられることはなく。
陛下は魔法による誓約書まで用意してくださり、それを手に私たちは王城を後にしたのだった。
前書きにも書きましたが、ドラマCDの視聴動画第2弾が公開中です!ドキドキシーンなのでぜひ><♡
ユリウスがレーネを甘やかすシーンの破壊力、本当にすごいです……(呼吸困難)あと王子が乙女ゲーの甘セリフを言わされる所も超心臓にきます……王子……;;




