脱出への道 2
明日からのすべきことも明確に決まり、脱出への希望も見えたことで、その日の晩はそわそわしてなかなか寝付けなかった。
布団とはとても呼べない薄い布ごしに土の凹凸を感じながら、目を閉じる。
「……ユリウスに会いたいな」
昼間の作業中やみんなとお喋りをしている時は平気だけれど、一人でじっとしているとユリウスのことばかりを考えてしまう。
どれほど心配してくれているのか想像するだけで、じくじくと胸が痛む。
恐ろしい悪い想像だって、色々としてしまっているに違いない。吉田たちと仲良く前向きに時々ふざけながら頑張っているなんて、知る由もないのだから。
「やっぱり一日でも早くここから脱出して、元気だったよって伝えなきゃ」
そうしたらきっと、いつものように「なんでこんなことに巻き込まれるわけ」と言いながらも、きつく抱きしめてくれるはず。
今感じている冷たくて硬い土の感触とは真逆の、温かくて優しい温もりが恋しくなった。こうして離れていると、どれほど大切で大きな存在なのか改めて実感する。
無事に帰ったら普段の照れや遠慮なんかは捨てて、目一杯ユリウスに甘えようと思った。
◇◇◇
それからまた、五日が経過した。
貴重すぎる夏休みをこんな場所で二週間以上消費していると思うと、心底やるせない気持ちになる。
一生に一度しかない二年生の夏休みを台無しにされたのだから、絶対にこの組織の人間には全てを悔いるほどの罰を与えてもらわなければ気が済まない。
「おらおら、さっさと拾え! 早くしないとお前らの昼食を抜きにするぞ」
「…………」
今日もDBはどこまでも最低最悪な奴で、わざとカゴの中に入っていた鉱石を床にぶちまけ、吉田や王子に拾い集めさせていた。
私やルカが手伝おうとしても、関係ない人々が手を出しては罰を与えるという。
苛立ちを押さえてその様子を見守ることしかできないのが、歯痒くて腹立たしくて仕方ない。
「ああ、また手が滑ってしまったわ」
ようやく全て拾い集めて渡すと、DBは再びわざとカゴを地面にひっくり返す。
思わず文句を言いそうになったけれど、王子も吉田も耐えてもう一度拾い始めた姿を見て、踏みとどまった。
「……あいつ、本当に無理なんだけど」
けれど隣に立つルカは本気でキレていて、私はその腕をきゅっと掴んだ。
「私だって絶対に許せないけど、ここは堪えよう。あと少しで脱出できそうだし、ここでトラブルを起こして監視の目が厳しくなったら困るから。ね?」
耳元で宥めるように囁くと、ルカはぐっと唇を噛んで我慢してくれたようだった。
すぐに堪えることができたのも、吉田と王子が虐げられている姿を見て自分のことのように怒っていたのも、かなりの成長だと思う。
やがてDBも今回の嫌がらせはもう飽きたのか、再度カゴを渡した後、もうわざとひっくり返すことはしなかったけれど、今度は大声で吉田を怒鳴りつけた。
「おい、そこにまだ落ちているだろう! お前らなんかよりよっぽど価値があるものだぞ!」
その太い指が差す先には、ギリギリ目視できるかどうかレベルの小さな鉱石の欠片があった。
意地悪な姑もびっくりなレベルのケチの付け方に、ドン引きしてしまう。
「ったく、お前のその眼鏡は飾りか?」
「は? 吉田のメガネには度が入ってますけど! 失礼なことを言わないでください!」
「なぜそこでキレるんだ」
つい拳を握りしめた私を、吉田は羽交い締めにした。
そしてずるずるとホーム(牢)へと連れていく。いつものように四人が中に入ったところでガシャンと鍵が閉まり、私はようやく我に返った。
「ごめんね。吉田の眼鏡を悪く言われるのだけは、どうしても許せなくて……」
「俺の眼鏡に命を救われたことでもあるのか?」
相変わらずDBは腹立たしいものの、なんとかトラブルは回避できてほっとする。
「ルカは我慢できてえらかったね」
「うん。いいこいいこして」
「うっ……」
先程まで人を殺しそうな勢いだったとは思えないほど、ルカは愛らしい顔で甘えてくる。
あざとさに心臓が爆散しそうになりながら、ルカが健やかならもう何でもいいと心から思った。
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