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脱出への道 1



 深夜、みんなが寝静まった後。なかなか寝付けず寝返りを打つと、同じくまだ起きていたルカと目が合った。


「ルカもまだ眠れてなかったんだね。眠くなるまで少しお喋りしよっか」

「うん、やった」


 薄い布を二人で頭から被り、今日もDBは腹立たしかったとか、変な化石が出てきたとか、他愛のない話をこしょこしょと囁き合う。


 そして話題はやがて、王子と吉田の喧嘩に移った。


「今日、すごく驚いたんだ」

「驚いた?」

「うん。これまで喧嘩なんて数え切れないくらいしてきたけど、あんなのは初めて見たから。俺が知る喧嘩は、どちらかが無抵抗になるまで殴るか、殴られるかみたいなものだったし」


 ルカの過去についても、私は詳しく知らない。けれど過酷な環境にいたルカにとって、暴力による喧嘩だって生きる術のひとつだったのかもしれない。


「それに家族以外にも、あんな風に誰かを大切に思うことがあるんだと思って」


 その声音からは純粋な驚きや戸惑いが感じられて、ルカにも心の変化があったようだった。


 ──まだルカとの付き合いは短いけれど、ルカが心を許している相手はお父さんと私、家族二人だけのような気がしていた。


 それ以外の誰も信じられないような環境にいたことに心が痛みながらも、これから先はルカの世界も良い方向に広がっていくはず。


 少し口も態度も悪い時はあるけれど、根は優しくて素直な良い子だということも知っている。


「いつかルカにもきっと、そんな友達ができるからね」

「ないない、絶対にありえない」

「ふふ、そう言ってられるのも今のうちだよ」

「なにそれ、なんかやなんだけど」


 拗ねたように頬を膨らませるルカの頭をよしよしと頭を撫でながら、ルカの未来が明るくて幸せなものでありますようにと、祈らずにはいられなかった。



 ◇◇◇


 翌日の晩も私たちは布団と呼べるか怪しい布の上で寝転がりながら顔を寄せ合い、脱出作戦について話し合っていた。


「本日はばっちり地上の偵察をしてきました!」

「お疲れ様、姉さん。どうだった?」


 実は今日、地上へのルートを偵察するため、私は地上での農作業を担当してきた。


 元々女性は地上での農作業が基本で、身体の不調を訴えて地上での農作業を希望したところ、すんなりとOKされたのだ。


 男性と違い抵抗をする可能性も少ないと思われているのか、見張りはまばらにいるものの、地上ではかなり自由に動くことができた。


「地上にさえ出てしまえば、こっちのものだと思う」

「なるほどな」


 仕事内容も雑草抜きや水やりという簡単な畑作業だけで、男性たちの地下労働に比べるとかなり楽なものだ。


 途中から雑草抜きが楽しく感じられ、ついつい熱くなってしまった。


『よいしょ、よいしょ……そういえばこの葉っぱ、なんなんですか?』


 やけに大事に大量に育てられているものが、普通の葉っぱにしか見えない。つい気になり、近くで手慣れたように作業していた人に尋ねてみる。


 私は植物に詳しくないため、てっきり地中に野菜でも埋まっているのかと思ったのだけれど。


『ああ、これ? 麻薬の元になるのよ』

『えっ』


 返ってきたとんでもない答えに、思わずぽとりと小さなシャベルを落としてしまった。この広い畑に生えている草の全てが麻薬になるなんてと、ぞっとしてしまう。


 それを三人にも話すと、全員が眉を顰めていた。


「やはり早急に組織を取り締まらないといけないな」

「うん、そのためにも私たちが絶対に脱出しなきゃ」


 これだけやりたい放題をしておきながら何年間も捕まっていないのは、この場所が相当うまく隠されているからなのだろう。


 そんな中、王子が静かに口を開いた。


「発掘した鉱物を見る限り、ここは隣国と接しているバステル帝国だと思う」

「えっ?」


 驚く私たちに、王子は紺色の作業着のポケットから、美しい小さな金色の宝石の欠片を取り出してみせた。


「とっても綺麗ですね。これ、なんなんですか?」

「サラピル」


 なんとこの綺麗な石はバストル帝国でしか採れないものらしく、場所が分かったのだとか。


 ここが隣国ですらなく、さらに別の国へ運ばれていたなんて想像もしていなかった。


「なるほど、だからなかなか捕まっていないんだ」


 国を跨いだ犯罪というのはとても厄介で、法の違いはもちろん他国での武力行為に関しても色々な制約があるため、捕まえるのが困難だと聞いたことがある。


「ちなみにサラピルは、魔法陣を描く際に使うインクの元になっている魔法石だ」

「ああ、だからなんとなく見覚えがあったんだね」


 眩い金色の輝きには既視感があったものの、見慣れていたものとは形状が全く違うため、すぐに思い至ることができなかった。


 ──この世界では、魔法陣を描かずとも魔法を使うことができる。けれど魔法陣を描いた場合は魔力を増幅したり、魔法効果を強くしたりすることができるはず。


 とはいえ、魔法が使えない今の状況では関係のないことだと思っていたのに。


「実は今もほんの少しなら、魔法が使える」

「ええっ」


 王子の突然の告白に、私だけでなくルカや吉田も更なる驚きを隠せずにいるようだった。


 以前聞いたところ王子の魔力量は87で、普通の人の数倍以上のものだ。この魔道具は質が良くないため、全ての魔力を抑えきれていないのだろうと王子は話してくれた。


「逃げ出す際に助けになるほどではないが、魔法陣を描いて一瞬でも魔力を増幅させられれば、このブレスレットを壊すことくらいはできると思う」

「す、すごい……!」


 ブレスレットを壊して魔法さえ使えるようになれば、どんな場所だろうと逃げ切れる気がする。


 私以外は全員Sランクという、エリートの集まりなのだ。私もみんなに迷惑をかけないよう、必死に頑張らなければ。


「じゃあサラピルをもっと集めて十分な量のインクを作れば、脱出できるってこと?」

「いや、サラピルを集めたところで、魔法陣はここでは描けないだろうな」


 吉田は魔法陣というのは正確さが鍵になるため、凹凸のある地面では効果が半減すると教えてくれた。確かに地下は基本土でぼこぼことしていて、適さないだろう。


 DBたちが過ごしている場所に関しては違う気もするけれど、その辺りは常に彼らの仲間や見張りがいるし、見つかってしまう可能性がある。


「どこか平らな良い場所を探さなきゃいけないんだ」

「ああ。とはいえ、サラピルを砕いて水に溶かしてインクを作るには相当な数が必要だろう。まずは集めながら作戦を立てるのが良いんじゃないか」

「ですね。四人で必死に集めればなんとかなりそうだ」


 岩を掘る姿勢さえ見せていればサボっていると思われないだろうし、他の鉱物を発掘できなかったとしても、無能だとDBからの嫌がらせを受けるくらいだろう。いつものことだ。


 それにこんな小さな鉱物であれば、こっそり隠し持っていてもバレることはないはず。


「じゃあ、明日からはとにかくサラピルを集めるのを頑張らないとね!」


 初めて脱出への道のりが具体的になり、すごく前向きになれるのを感じる。


 そうして、サラピルを集めながら地上への脱出作戦を立てることが決まったのだった。



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【公爵様、悪妻の私はもう放っておいてください】

新連載もよろしくお願いします!

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