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楽しい夏休み(地獄パート)1



「──さん、姉さん、起きて」

「はっ」


 悲しげな声がして目を開けると、泣きそうな顔をしているルカで視界がいっぱいになった。


 慌てて身体を起こしたものの少し目眩がして、すかさずルカが支えてくれる。


「大丈夫? まだ具合悪い?」

「ごめんね、ちょっと目眩がしただけだから大丈夫……って、ここどこ?」

「それは俺たちも聞きたいところだ」


 深い深い溜め息を吐いた吉田の後ろの背景は、なぜか土壁で。慌てて辺りを見回すと、なんと壁以外の一部には太い鉄格子が嵌められている。


 ひどく簡素な牢屋という感じだ。そして両手はなんとびっくり、鉄製のごつい手錠で拘束されていた。


 私だけでなく王子も吉田もルカも同様で、どこからどう見ても捕まっている。


「えっ……えええ……?」


 先程までお洒落な船に乗っていたのに、どうしてこんなことになったのかさっぱり分からない。


 呆然としながら救いを求めて吉田へ視線を向けると、吉田は手錠の着いた手で前髪をくしゃりと掴んだ。


 じゃらじゃらという、手錠の鎖の無機質な音が狭い牢の中に響く。


「そもそもお前だけ三時間ほど目が覚めなかったから、心配したんだぞ」


 普通こういうのは、みんな同時に目が覚めるのではないだろうか。


 心配をかけてごめんねと謝りつつ、未だに状況がさっぱり理解できない私に吉田は続けた。


「どうやら俺たちはあの船の中で催眠ガスによって眠らされた末に、この場所に攫われてきたらしい」

「う、うそでしょ……」


 状況的には間違いなくそうなのだと分かっていても、全く現実味がない。それでも冷たい地面や硬い手枷の感触がリアルで、冷や汗が背中を伝っていく。


「俺たち以外にも捕まっている人間はいるみたいだね」


 ルカが指差す方向へ視線を向けると、鉄格子の向こうには私たちが今いるような簡易的な牢に閉じ込められている人々が大勢いるようだった。全体はよく見えないけれど、この空間はかなり広いことが窺える。


「本当になんなの、ここ……」


 見る限り貴族だけでなく平民らしい人々も多く、私たちくらいの年齢の男女が多い。先程、船内で見かけた若者の姿もあり、声を上げて泣いている女性もいる。


 なぜ連れてこられたのか分からず困惑していると、牢の外からコツコツという足音が近づいてきた。


「お、全員目が覚めたか。明日の朝からは早速働いてもらうから、今のうちに休んでおけよ」


 鉄格子の向こうに現れたのは、でっぷりとしていてやけに豪華な装いをした、四十後半くらいの男性だった。


 くるんとした髭を撫で、肉に埋もれた両目をいやらしく細めていて、絵に描いたような悪役姿をしている。間違いなく私たちをここへ攫ってきた犯人の一味だろう。


「どういうことだ」


 吉田の問いに、男はふっと意地悪く口角を上げる。


「お前らは地下強制労働施設に攫われてきたんだよ」

「ち、地下強制労働施設……!?」


 とんでもないワードが飛び出し、復唱してしまう。


「ああ、この鉱山ではオリハルコンやミスリルが採れるんだ。お前らはこの場所で一生、無償で働くことになるのだよ。運が悪かったな、ワハハハハ!」

「嘘だろう……おい、待て!」


 嫌味たらしく大声で笑い、吉田の制止もむなしく男は去っていく。


「…………」

「…………」

「…………」

「…………」


 再び静かになった牢の中で、私たち四人は無言で顔を見合わせる。言葉の意味は分かっていても頭では理解できない──否、したくなかった。


「つ、つまり私たち、夏休みに隣国で楽しくバカンスをするはずが、拉致されて地下強制労働施設で働かされることになったってこと……!?」


 口に出してみると、改めてとんでもない展開すぎて理解が追いつかない。


 バカンスをするつもりが地下強制労働施設で働かされるという文章、意味が分からなすぎる。


 一生のうちこの展開を経験する人間は私たち以外存在しないに違いない。


「……一体どうしてこんなことになるんだ」

「…………」


 吉田は肩を落とし、溜め息を吐き続けている。


 王子はいつも通りの様子で、じっと私の顔を見つめていた。少し泥汚れがあっても眩しい。


「ふうん? 最近、隣国で地下労働ビジネスが流行ってるって本当だったんだね」

「えっ?」


 一方、納得した様子のルカは、土壁に背を預けてぐっと両腕を伸ばした。



皆さま良いクリスマスを〜!!!!

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【公爵様、悪妻の私はもう放っておいてください】

新連載もよろしくお願いします!

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