体育祭 3
剣術で華麗に勝利した吉田師匠の大活躍を見て奮い立たされた私は、気合いを入れ直した。
そして吉田を見つめる女子の多さにも、驚いてしまった。どうやら彼はモテるらしい。けれどイケメンだし、何より面倒見が良くて優しいのだ。当たり前なのかもしれない。
いざ始まった剣術一回戦の私の相手は、未経験且つやる気のない女子生徒で、すんなりと勝つことができた。それでもやはり、吉田との練習があったからだろうと感謝した。
「レーネやるじゃん。お前、大活躍だな」
「ヴィリーこそ」
「まあな。どの競技も調子いいみたいだし、うちのクラスの優勝も見えそうだよな。筆記試験ナシとかにならねえかな」
「意外と強欲だね」
私の試合を見てくれていたらしいヴィリーは、間違いなくクラスで一番の活躍をしていた。出場競技も最多で、どれも首位という結果を収めている超人だ。
クラスに一人はいる運動の出来る、リア充モテ男枠である彼に、女の子たちもタオルを渡したり声を掛けに行っていったりしているのをよく見る。イベントマジックだろう。
そこで私は気付いてしまった。競技に集中しすぎて、完全にそういったことが頭からすっ飛んでいることに。
恋愛は今世の最大の目標でもあるというのに、なんたる不覚。せめて「〇〇くん格好いいよね」「私は〇〇くんがタイプだな」みたいな会話をしてみたい。友人の応援がない時には、少し周りに目を向けなければ。
テレーゼは全く興味がないようだから、後でユッテちゃんに付き合ってもらおうと決め、私は待機場へと向かった。
◇◇◇
あっという間に昼休みになり、私は一般の食堂にてテレーゼとラインハルト、そして吉田と共に昼食をとっている。
膝が汚れている私を見て転んだのかと心配する友人達に、私は先ほどのジェニー達とのことを話すことにした。
「それでね、男好きだとか汚らわしいって言われちゃって」
「酷いわ。許せない」
「本当に許せないね。レーネちゃん、可哀想に」
「兄妹のユリウスにまで色目使ってるって言われて、笑っちゃった。マクシミリアンって誰って感じだし」
「俺だが」
すると私の向かいに座る吉田が、当たり前のようにそう言って。私は思わずフォークを落としそうになってしまった。
「…………なんて?」
「俺がマクシミリアンだ」
思わぬ形で告げられた吉田の本名に、戸惑いを隠せない。
「マクシミリアン……吉田……!?」
あまりの驚きで言葉が途切れ、お笑い芸人のようになってしまった。吉田がしっくりきすぎていたせいで、本名を尋ねるという当たり前のことすら頭から抜けていたのだ。
ラインハルトは「えっ、吉田さんって変わった名前だとは思っていましたが、偽名だったんですか?」と驚いている。
「マクシミリアン・スタイナーが俺の名だ」
「そ、そうだったんだ……すごく格好いい名前だね」
正直しっくり来ないけれど、教えてもらった以上はそう呼ばなければ。彼のご両親が付けた素敵な名前なのだから。
「あの、マクシミリアンくん」
「……吉田でいい」
「えっ?」
「呼びづらいと顔に書いてある」
どうやらバレていたらしい。呆れたように口角を上げた彼は「バカめ」と言い、続けた。
「お前が今更そう呼んでも気持ち悪いだけだ。好きにしろ」
「よ、吉田……!」
そんな吉田の優しさに甘え、今後もそう呼ばせてもらうことにする。そして私のことも好きに呼んでいいよ、と言おうとしたところ、ふと気が付いてしまった。
「そういえば私、吉田に名前呼ばれたことないよね」
「……まあ」
「レーネ・ウェインライトって言うんだけど」
「知っている」
「レーネでいいよ」
そう言ったものの、なんだか反応がいまいちで。もしかすると、呼びたくないのかなとも思っていたのだけれど。
「……女性の名前を、呼んだことがないんだ」
「えっ」
照れたようにそう呟いた吉田に、胸が締め付けられた。かわいすぎる。いい加減にして欲しい。好きだ。
「そのうち、気が向いたら呼んでね」
「ああ」
いつか呼んでくれたら嬉しいと思いながら、にやにやと吉田を見つめていると、ラインハルトがじっとこちらを見つめていることに気が付いた。
「どうかした?」
「吉田さんが羨ましいなと思って」
「うん? 私はラインハルトに、レーネちゃんって呼ばれるのすごく好きだよ」
「……嬉しい。僕もレーネちゃんが好きだよ」
なんだか主語を間違えているような気もするけれど、頬を赤く染めふにゃりと微笑むラインハルトの姿は、思わず両手を合わせそうになるくらいに眼福だった。
そもそもこのテーブルに着いている友人達は皆、美男美女すぎて目に良すぎる。視力が上がりそうだ。
「午後最初の競技は、代表リレーだよね。テレーゼもユリウスも吉田も出るし、絶対応援しなきゃ」
そのあとはすぐに、私も剣術の二回戦がある。午後も頑張ろうと気合を入れ、食堂を出ようとした時だった。
「あの、ウェインライトさん。少しいいかな?」
そんな声に振り向けば、見知らぬ男子生徒が照れたような戸惑ったような様子で、私を見つめていた。
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