新たな変化 2
終業式まで三日となった今日、昼休みにみんなで昼食を取りながら旅行の計画を立てていた。
「再来週から隣国に一週間滞在か。楽しみだな!」
「ええ。家族以外と国外旅行なんて初めてだわ」
「トゥーマ王国は海が綺麗らしいから、見てみたいな」
私だけでなくみんなも楽しみにしているようで、つられて笑みがこぼれる。
隣国・トゥーマ王国への七泊八日の旅に関しては、王子が手配をしてくれることになっている。
プライベートジェットならぬプラベートゲートなるもので移動できるらしい。ゲートは以前、吉田とヴィリーと第二都市エレパレスへ行った際に使ったけれど、一瞬で別の場所へ移動できてしまう優れものだ。
「移動時間もかからないから一週間まるまる遊べるなんてすごいね! セオドア様、ありがとうございます」
「…………」
こくりと頷いてくれた王子は公務で何度も隣国に行ったことがあるそうで、色々と案内してくれるという。食べ物もとても美味しいらしく、胸が弾む。
「日頃みんな頑張っている分、ゆっくりのんびりして身体を休めるのもいいよね」
「観光して美味いもん食って、海行ってだらだらするって感じか。最高だな」
「時間はたっぷりあるし、きっちり予定を立てずに行動するのもいいかもしれないわ」
「そうだね。みんなの行きたい場所をまとめておくよ」
確かに旅行先でびっしりスケジュールを立てた結果、その消化を必死にしようとして、疲れてしまうのはあるあるだろう。
その日の気分で行く場所を決めるのも、プライベートの旅行ならではですごく良い気がする。
「じゃあ私がルカと三年生組に伝えておくね」
「お前達とゆっくりのんびりできるとは思えないがな」
「もう吉田ってば、フラグ立てないでよ」
このこの〜! と吉田の頬を指先でツンツンつついたところ、思いきり頭を叩かれたけど好きだ。
──そして吉田の言葉がとんでもないフラグとなり、ゆっくりのんびりとは正反対すぎる地獄の日々になることを、この時の私はまだ知る由もない。
◇◇◇
昼食後、午後の授業は屋外で魔法の実践演習だった。
まだまだファンタジー世界と魔法が楽しくて仕方ない私にとっては、楽しみな授業の一つだ。
「本日は攻撃魔法と防御魔法の演習です。怪我や事故のないようにしましょうね」
先生の声に従い、クラスメートはペアを組んでいく。
普段なら真っ先にテレーゼを誘うところだけれど、私はテレーゼに事情を説明しにいった後、青メガネと体育着の金色ラインが輝く吉田の元へ駆け出した。
「吉田、一緒にやろう!」
「なぜ俺なんだ」
「へっぽこ魔法といえども愛するテレーゼに全力で攻撃魔法を打てる気がしないし、吉田なら私のすべてを受け止めてくれると思って」
「全くの勘違いだが」
とはいえ、九割の優しさと一割のツンでできている吉田が私を見捨てることはなく、ペアを組んでくれた。
軽く準備運動としてストレッチをしながら、私はいつものように吉田に声をかけ続ける。
「旅行、楽しみだね! それ以外はどう過ごすの?」
「いつも通り家族で過ごすんじゃないか。お前は?」
「私もまずは家族で領地に行くだろうし、その後はみんなと旅行に行って……あっ、夏休みの恒例行事でありメインイベントの吉田邸への訪問もあるかな」
「いつ恒例行事になったんだ」
そう言いながらも吉田姉であるアレクシアさんにも会いたいと話すと、すんなり受け入れてくれた。好きだ。
我が家にもぜひ遊びに来てほしいと告げたところ「そうだな」と頷いてくれた。
「よし、じゃあ私が防御からやってもいい?」
「ああ」
私は腕を伸ばして両手をかざして集中し、魔力でシールドを張るイメージをする。
すると青白い光が眼前に広がり、やがて私を守るように前方を覆う──どころか、なぜか辺り一体を覆う勢いで魔力の膜は広がっていく。
「あれ……あの? えっ?」
「痛ってえ! なんだ?」
そして魔力でできたシールドは近くにいたヴィリーの元にまで及び、ヴィリーを思い切り吹っ飛ばした。
なんと防御魔法で友人を攻撃するという、斬新で最悪な展開になっている。
「ごめん、本っ当にごめん! えっ、どうしよう」
慌てて魔力を抑えようとしてもうまくいかず、シールドは広がり続けていく。
防御魔法を使うのはもちろん初めてではないし、以前はこんなことなどなかったのに。
「何をしているんだ、早く魔力を抑えろ!」
「よ、吉田……実は全力でやってるんだけど、上手くできなくて……すっごい助けてほしい」
「とにかく一度落ち着いて深呼吸をして、手のひらから魔力を身体に戻すイメージをするんだ」
「分かった!」
吉田の言う通りにすると、だんだんシールドは小さくなっていき、やがて通常の大きさである私一人分を守れるほどのサイズで落ち着いた。
ほっと息を吐いたものの、初めて魔法を使った頃のような魔力が全くコントロールの効かない感覚に、内心冷や汗が止まらない。
ヴィリーにもう一度謝った後は、吉田に向き直った。
「ひとまず弱めのものから行くぞ」
「ありがとう、お願いします!」
ひとまず吉田は私が怪我をしないよう、弱い攻撃魔法から順に放ってくれる。
意外と耐久性には問題がないらしく、吉田の得意な氷魔法にも耐えることができていた。
「強度には問題ないどころか、かなり強いものだろう」
「よ、良かった……」
先程のは単なる不調だったのだろうか。
いよいよ次はBランクという高い壁を目指さなければならないのに、このまま成績落下の一途を辿ったらどうしようと、ずっと冷や汗がだらっだらだった。
「じゃあ次はお前が攻撃してこい。先程のこともあるから、まずは水魔法がいいだろう」
「了解です!」
私が一番得意なのは火魔法だけれど、先程のように上手くコントロールできなかった場合、危険が伴う。水魔法なら失敗しても水浸しになる程度で終わるはず。
吉田に向かって再び両手をかざし、いつものように水魔法を放つ。私程度の攻撃なら全力でも、Sランクの吉田は軽々と跳ね除けるだろうと思っていたのに。
「えっ」
「は」
次の瞬間、滝のような勢いの水が噴き出して吉田へと向かっていき、なんと防御魔法ごと吉田は吹き飛んだ。




