それぞれの初恋
あとがきにお知らせがあります(どきどき)
「実はですね、その、みんなにはどうでもいいことかもしれないんだけど」
一応の前置きをして、続ける。
「ユリウスに告白をして、付き合うことになったんだ」
緊張しながらそう告げた瞬間、ヴィリーとテレーゼの「えっ」という声が重なった。
吉田はティーカップを手に、ふっと口角を上げる。
「おっ、良かったな、上手くいったのか!」
「おめでとう! 素敵だわ」
「まあ、順当じゃないか」
「…………」
みんな口々にお祝いの言葉を言ってくれて、王子もぱちぱちと拍手してくれた。
ちゃんと報告して良かった、と胸を撫で下ろしたのも束の間、ラインハルトだけが俯いたまま口を閉ざしていることに気が付いた。
私だけでなくみんなも彼の様子に気付いたようで、場はしんと静まり返る。
「あー……そうだよな、そうなるよな」
ヴィリーが納得したような、どこか気まずそうな様子を見せ、ラインハルトの肩を叩く。
それでもラインハルトは黙ったままで、何かまずいことを言ってしまったかと不安になる。
「あの、ラインハルト」
「ごめん、僕もう行くね」
声をかけた途端、ラインハルトは立ち上がり、食堂を出て行ってしまう。
最後に見えた横顔はひどく哀しげなもので、戸惑いを隠せない。他のみんなも心配げな表情を浮かべている。
「私、追いかけてくるね!」
今の流れを思い返す限り、原因は私にあるはず。
とにかくラインハルトと話をしなければと、私は立ち上がると彼の後を追った。
急いで食堂を出たものの、既に廊下にはラインハルトの姿はなかった。
こんな時、ラインハルトの行きそうなところ、と考えた私は、まっすぐ裏庭に向かう。
「……ラインハルト」
そして予想通り、着いた先には膝を抱えて座るラインハルトの姿があった。
以前、誤解からラインハルトがヴィリーを攻撃した際、ここで二人で話をしたことを思い出す。
私が小さな声で名前を呼んだことに気付いたらしいラインハルトが、顔を上げる。
「レーネちゃん……」
淡いグレーの瞳は今にも泣き出しそうなくらい細められていて、胸が痛んだ。
私はそっと彼の側に向かうと、人ひとり分を空けて隣に腰を下ろした。
「…………」
「…………」
夏の香りがする爽やかな風が、私達の間を通り抜けていく。慌てて追いかけてはきたものの、こんな時どう切り出すべきか分からない。
そんな中、先に口を開いたのは彼の方だった。
「ごめんね、レーネちゃん」
「ううん、私は何も気にしてないよ! ただ、ラインハルトが心配で……」
ラインハルトは「ありがとう」と呟き、草原の上に置いていた私の手に自身の手を重ねた。
戸惑いがちに握り返すと、指先を絡められる。
「──僕ね、初めて会った日からずっとレーネちゃんが好きなんだ。これは恋愛の好きだよ」
突然の告白に、繋がれた手を見つめていた私ははっと顔を上げた。視線が絡んだラインハルトの瞳はひどく真剣なもので、その言葉が本当なのだと悟る。
そしてようやく彼がなぜあのタイミングで席を立ったのか、悲しげな顔をしたのかを理解した。
「…………っ」
そんなの、当たり前だ。
私も誰かを好きになる気持ちを今は分かっているし、もしも相手が他の誰かを好きだったなら、辛くて悲しくて、胸が張り裂けそうになるだろう。
知らなかったとはいえ、あんなにも浮かれて話をしてしまったことを心底悔やんだ。
「やっぱり、全然気付いてなかったんだね」
「……ごめん」
ラインハルトはいつも、まっすぐに好意を伝えてくれていた。
けれど私自身、吉田や友人達にいつも「大好き」と伝えていたし、ラインハルトの「好き」も同じものだと思い込んでいたのだ。
自分の恋心ですら気付いたのは少し前だし、他人の好意まで気付くことができるほど、私は恋愛というものを理解していなかった。
ラインハルトは首を左右に振り、形の良い唇を開く。
「レーネちゃんが謝る必要なんてないよ。むしろ気持ちを伝えずにいたくせに、素直におめでとうって言えなかった自分が嫌になる」
自嘲するような笑みを浮かべると、ラインハルトは長い睫毛を伏せた。
「……前に僕が『ユリウス様がレーネちゃんのお兄さんで良かった』って言ったの、覚えてる?」
確か一年生の体育祭の時、そう言われた記憶がある。
私が静かに頷くと、ラインハルトは眉尻を下げ、困ったように微笑んだ。
「絶対に一生、敵わないと思ったからそう言ったんだ。ユリウス様はすごい人だから」
ラインハルトはずっと、私を好きでいてくれたのに。どこまでも鈍感な自分に嫌気が差しながらも、嬉しいという気持ちもあった。
「だから、納得もしてるんだ。ユリウス様なら必ずレーネちゃんを幸せにできるって」
「ラインハルト……」
心から私のことを大切に想ってくれているのが、言葉や表情、声音の全てから伝わってくる。
涙がこぼれそうになって、堪えるように繋いでいない方の手をきつく握った。
「おめでとう。僕はレーネちゃんが幸せになってくれるのが、何よりも嬉しい」
「…………っ」
「さっきはすぐに言えなくてごめんね」
けれど、そんな言葉にどうしようもなく胸を打たれて、目尻に涙が浮かんでいくのが分かった。
ラインハルトは本当に優しくて、優しすぎて、泣きたくなる。
「僕の世界を変えてくれたレーネちゃんのことが、僕は色々な意味で大好きなんだ。恋愛感情はその一部でしかないし、これからも友達として側にいたいと思ってる」
私だって、ラインハルトにどれほど救われてきたか分からなかった。
同じFランクという立場で共に努力を重ねたことも、嫌がらせをされた時、誰よりも怒ってくれたことも。いつだって私を肯定して励ましてくれたことも。
何度お礼を言っても足りないくらい感謝しているし、私もラインハルトのことが大好きだった。
私はラインハルトの手を取ると、両手で包み込んだ。
「……私のことを好きになってくれて、本当に本当にありがとう。すごく嬉しかった」
これまでの彼との思い出を思い出しながら、正直な言葉を紡いでいく。
「私もラインハルトのことが大切で、大好きだよ。これからも一緒に過ごしていきたい」
心からの気持ちを伝えると、ラインハルトは私の手を握り返し、もちろんと微笑んでくれる。
そんな彼の瞳も潤み、揺れていた。
「ありがとう、レーネちゃん。これからもよろしくね」
「うん! こちらこそ」
ラインハルトと今後も友人として、たくさんの楽しい思い出を作っていきたい。
「ごめんね、そろそろ戻ろうか」
「うん」
みんなも心配しているだろうし、戻ろうと二人で立ち上がった。なんだかくすぐったくなって、お互いに泣きそうな顔を見合わせて笑う。
ラインハルトのことが大好きだと、改めて思う。
「好きの形は変わっても、これからもレーネちゃんが大好きって気持ちは変わらないよ。レーネちゃんに何かあった時、守れるように、消せるように強くなるからね」
「う、うん……?」
笑顔のラインハルトは一体、何を消してくれるつもりなのだろう。先程までの雰囲気はどこへやら、突然不穏な空気が流れ出す。
それでもラインハルトがどこかすっきりしたような顔をしていて、つられて笑みがこぼれた。
◇◇◇
既に昼休みは終わりかけで慌てて教室に戻ると、心配げな表情で待つ友人達の姿があった。
「みんな、心配かけてごめんね。もう大丈夫だから」
ラインハルトの言葉と繋がれたままの手を見て、みんなほっとした表情になるのが分かった。
「そうか、良かったな! じゃ、夏休みの計画でも立てようぜ。セオドアが手配してくれるから、隣国あたりがいいよなって話してたんだ」
「えっ、いいんですか?」
「…………」
「僕、この国を出たことがないから楽しみだな」
「俺はもうお前たちと同じ部屋は勘弁だ」
──大好きな友人達のお蔭で毎日が、これから先の未来が楽しみで仕方ない。
ふと見上げると隣のラインハルトも笑顔で、これからも優しい彼を、彼と過ごしていく日々を大切にしたいと強く思った。
いつもありがとうございます。このシーン、書くのちょっと辛かったのですが書籍ではめちゃくちゃ素敵な挿絵があって感動するのでぜひ……!!!!!
また、サイン本セットのたくさんのご予約、本当に本当にありがとうございます;;♡
作品の寿命が伸び、今後もグッズを色々と出していただけそうです……!サイン大事にさせていただきます;;
そしてここで!!!!
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5巻のとっても可愛い書影が公開です。
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レーネが!ユリウスが!吉田が!みんなが!超豪華声優の皆さまによって喋ります!!!!!
ずっとみんなの声を聞きたいと思っていたので本当に本当に嬉しいです(´;ω;`)♡♡
大ボリューム&私も脚本をたくさん書き下ろさせていただいたのでめちゃくちゃ楽しみにして頂きたいです!
書籍5巻とコミックス3巻の発売日も近づいてきたので、こちらもすごくすごくよろしくお願いします!




