最初で最後の告白を 3
そんな話をすると、ユリウスは楽しげに笑った。
「ありがとう」
「うん。私もこれから先、ダンスを踊れないと困るし」
「でも、俺以外とは踊らないでね」
「いやでも、付き合いで必要だってテレーゼが……」
「踊らないでね」
「ハイ」
猛特訓のお蔭でミスもなく楽しむ余裕ができ、ユリウスはダンスまで恐ろしく上手いんだなと実感した。
踊っている姿は王子様みたいで、誰もが見惚れているのが分かる。
そうして無事に、ユリウスの十八歳の誕生日パーティーは幕を閉じたのだった。
◇◇◇
しかしながら、私にとっての本番はここからで。招待客の見送りを終えたユリウスを別館の三階バルコニーに呼び出していた。
美しい夜景も星空もよく見えて、シチュエーションとしては完璧だろう。
「こんなところに呼び出して、どうしたの?」
「二人で話がしたくて。今日はお疲れさま」
「こちらこそ。レーネがいてくれたお蔭で、憂鬱なパーティーも楽しめたよ」
そう言ってもらえたことに安堵しつつ、私は深呼吸をひとつすると、ユリウスに向き直った。
「ユリウス、誕生日おめでとう」
「改まって言われると、少し照れるね」
「分かる」
顔を見合わせて笑い合い、私は用意していたプレゼントである小さな箱を取り出す。
そしてユリウスに差し出した。
「これ、誕生日プレゼントです」
「ありがとう、嬉しいな。開けてもいい?」
「どうぞ」
私が頷くと、ユリウスは小箱を開ける。そしてその中身を見た瞬間、形の良い唇からは笑みが消えた。
「──え」
ユリウスの視線の先には、ダイヤのついた同じデザインの二つの指輪が並んでいる。
指輪を見たまま黙り込むユリウスに、私は続けた。
「それね、ユリウスと私のお揃いなんだ。一緒につけたいなって思って」
プレゼントは本当に本当に、たくさん悩んだ。
ユリウスが一番喜ぶものは何だろうと必死に考えて、その結果がペアリングだった。デザインも宝石も私が選んだオーダー品で、世界にこの二つしかないものだ。
ぎゅっと手のひらをきつく握りしめ、唇を噛んでユリウスの反応を待つ。ユリウスにまで聞こえてしまうのではないかというくらい、心臓は早鐘を打っている。
「……こんなの、勘違いするんだけど」
少しの後、聞こえてきたユリウスの声は、彼らしくない小さな掠れたものだった。
──流石の私だってお揃いの指輪を贈ることが特別だってことくらい、分かっている。
だからこそ、これを選んだのだから。
もう一度だけ深呼吸をすると、小箱を持つユリウスの手を両手で包み、ユリウスを見上げた。
「ユリウス、大好きだよ」
アイスブルーの瞳が、揺れる。
どうかこの胸の中にある私の気持ちが少しでも伝わりますようにと、大切に言葉を紡ぐ。
「この好きは、ユリウスと同じ好きだよ。一人の男の人として、私はユリウスが好き」
最初は何を考えているか分からなくて、ただの意地悪な兄だと思っていた。
けれど少しずつ少しずつユリウスのことを知って、優しさや愛情に触れて、ユリウス・ウェインライトという兄を私は家族として好きになっていた。
けれど家族愛はいつしか恋情に変わり、今ではその気持ちがこんなにも大きくなっている。
『好きだよ、レーネ』
『俺の一世一代の告白だよ。俺は一生、レーネ以外を好きにならない』
『レーネだけが特別で、大切なんだ』
ユリウスから貰った言葉や気持ちを、私も返したい。
けれど私はきっとユリウスみたいに上手く言えないから、指輪にも思いを込めた。生半可な気持ちで告白したわけじゃないと、伝えたかった。
「私、人生で一度きりの告白のつもりなんだ。指輪を誰かに贈るのだって、最初で最後だよ」
もはやプロポーズだと思いながらも、この気持ちに嘘はない。
そんな想いを胸にユリウスをまっすぐ見つめると、ユリウスは唇をぐっと噛む。
「────」
そして気が付けば、ユリウスに抱き寄せられていた。