体育祭はラブチャンス 6
二年生の代表リレーでは、吉田やテレーゼの大活躍により、我が1組は見事に一位という結果を残した。
「レーネちゃん、やったね」
「うん! みんな本当にすごかったもん」
「お前も頑張ってたじゃん」
同時に優勝も確定し、抱き合って喜びを分かち合う。
みんなで楽しく参加することに意義があるものの、やはり結果に繋がるのは嬉しい。そして体育祭の結果は次のランク試験で加点されるため、とても助かった。
「吉田、泣かないで」
「これは汗だ、バカ」
そう言いながらもタオルを受け取ってくれる吉田の走る姿は、すごく格好良かった。
周りにいた女子生徒もみんな黄色い声を上げていて、何故か私が誇らしい気持ちになる。
最後の三年生の代表リレーでは全校生徒が見守る中、ユリウスはアンカーとして走り、二位と圧倒的な大差をつけて一位でゴールした。
本当にユリウスはどこまでも眩しくて、私よりもよっぽど主人公みたいだと思う。
「……本当、ずるいなあ」
そんなユリウスがゴールした瞬間、私の方を見て微笑むものだから、珍しくピンチ以外の場面で自分がヒロインみたいだと思ってしまった。
◇◇◇
優勝を祝う打ち上げは後日行おうと約束して、帰路についた。体育祭は新しいクラスメートとも距離を縮めるきっかけになり、本当に楽しかった。
お風呂に入って汗を流した後、私はいつものようにユリウスの部屋を訪れていた。
「ユリウス、大活躍だったね。本当に格好よかった!」
結局フェンシングも個人優勝しており、できないことがあるのかと本気で思ったくらいだ。
ちなみにミレーヌ様も女子フェンシングで華麗に活躍し優勝していて、憧れる気持ちが止まらなくなった。
「本当? 実はレーネに良いところを見せたくて出たんだけど、正解だったな」
その思惑通り、今回の体育祭はユリウスへの恋心が大きくなったイベントだったように思う。
あとは誕生日の告白を成功させるだけだと思うと、なんだか緊張してくる。
「来年に備えて、私も何か練習しておこうかな」
「剣術なんかは二年後期の授業でも役に立つからね。来年の体育祭もちゃんと見に行くよ」
見に行くよというどこか他人事な言葉に引っ掛かりを覚えた私は、気付いてしまう。
「……そっか。来年、ユリウス達はいないんだ」
当たり前のことだというのに、いつまでもこんな日々が続く気がしていた。
ユリウスたち三年生が卒業するのを想像するだけで、寂しくて目頭がつんと熱くなる。
「どうしよう、卒業しないでほしい」
「いいよ。留年するから来年は同級生になれるね」
「ごめんやっぱり卒業はして」
ユリウスなら本気でやりかねないから怖い。
けれど私自身、この学園での生活はあと一年と数ヶ月しかない。そう思うと寂しくて、まだ先のことだというのにやはり泣きそうになってしまう。
それくらい私にとって、この学園生活はかけがえのないものになっている。転生した当初の目標であるキラキラ学園生活だって、とっくに達成していた。
「何か考えごと?」
「最終回みたいな気分になっちゃって……」
「あはは、何それ」
それでも私の学園生活も恋も、まだまだこれから──とまで考えたところで、余計に打ち切りみたいになってしまい、慌てて首を左右に振る。
とにかく今はバッドエンドを回避して無事に卒業するという、目標どころか使命があるのだ。
これからも努力を重ねながら、大好きな友人やユリウスとの日々を一日一日大切に過ごしていきたい。
「でも、これでしばらくイベントはないよね?」
去年は体育祭の後に宿泊研修があったけれど、一年生に限る。ユリウスの誕生日パーティーを終えれば、後は夏休みまで大きなイベントはない。
秋の音楽祭や学園祭までは勉強に専念できるはず、と思っていたのに。
「今年は音楽祭の代わりに夏休み明け、パーフェクト学園との交流会があるよ」
「交流会……はっ」
以前、パーフェクト学園に通う俺様な従兄弟のセシルから、そんな話を聞いた記憶がある。
二年に一回ハートフル学園にて、魔法の技術を競い合うんだとか。そしてその交流会が行われるのは私達が二年生の年──つまり今年だったことを思い出す。
「つまり、セシルやアンナさんがハートフル学園に来るってこと……?」
すっかり油断していたところで、とんでもないカロリーのイベントが待ち受けていたとは。
「セシルは確実に来るだろうね」
「そういえば、首席入学でSランクだもんね」
交流会に出場するのは各学年の成績上位者と、ランダムで選ばれた一部の生徒だけだという。
成績上位者だけではない謎のシステムなあたり、なんちゃってヒロインの私も参加することになりそうで、既に嫌な予感しかしない。
夏休みが明けるとすぐに出場者が決められて練習も始まり、忙しくなるらしい。
センチメンタルな気分になっている暇もない相変わらずのイベント大渋滞っぷりに、笑ってしまう。
「まあ、今日はゆっくり休んで。一緒に寝る?」
「結構です」
──それでも大好きなユリウスや友人達と一緒なら、何だって絶対に楽しいものになる。
そんな確信を抱きながら、私はこれからの先の日々に胸を弾ませた。