体育祭はラブチャンス 1
あっという間に迎えた体育祭当日、私は気合を入れてツインテールにして登校した。
ユリウスは何度も「かわいい」と言ってくれており、もしかすると好みなのかもしれない。今後もさりげなく取り入れていこうと思う。
「お互い頑張ろうね! 応援もちゃんと行くから」
「今年は見に来ないでって言わないんだ?」
「あれは家族とかに見られてたら緊張するし、恥ずかしかったからでして……」
「あはは、それなのに見に行ってごめんね」
今年は言うなればお遊びのような競技もあるし、去年よりずっと気が軽い。アーチェリーもTKGとそれなりに練習したし、どちらの競技も一位を狙っていきたい。
ユリウスと別れた後はまっすぐ更衣室に向かい、体育着に着替える。去年の緑とは違い、早速ランク試験の結果の通り青いラインが入っていて、口元が緩んだ。
教室へ入るとすぐに、金色のラインが眩しい体育着を身に纏った吉田に出会した。
「おはよう! 今日の私は吉田推しスタイルだよ!」
そう、実は体育着の色に合わせてリボンも青色にしてきた。言うなれば青髪青メガネの吉田推しカラーだ。
心の中では常に、青色のペンライトを振っている。
「正直ルカもかわいすぎて心が揺らいだけど、私の人生の最推しは吉田だから安心して」
「そうか、ぜひ乗り換えてくれ」
そんな素っ気ない返事をしながらも、着替えの際に曲がってしまったらしい髪のリボンを結び直してくれるツンデレの吉田、好きだ。
それからはグラウンドに移動し、開会式が行われた。
「今年も良い天気で良かったね」
「ええ。でも雨の場合も、先生方が学園全体に雨避けの魔法シールドを張って決行するらしいわ」
「なんてファンタジー」
私が出場する借り物競走は午前中、アーチェリーは午後一番の予定だ。
プログラムを開くと、まずは去年私が見せ物になった障害馬術からだった。ラインハルトが出場するため、みんなで応援に向かうことにしたのだけれど。
結果、障害馬術はラインハルトの圧勝だった。
他の追随を許さない猛スピードで駆け抜けていき、あっという間にゴールしたのだ。ラインハルトの馬は鬼気迫った様子で、何かに怯えているようにも見えた。
もしかすると気が弱いとかで他の馬が怖くて、逃げるような気持ちだったのかもしれない。
「ラインハルト、すごかったよ。一位おめでとう!」
「ありがとう。絶対に負けられないから頼むねって強めにお願いしたら、頑張ってくれたんだ」
強めにお願いという言葉の意味はよく分からなかったけれど、笑顔のラインハルトも去年の私とミシェルのように、馬との信頼関係が芽生えていたのかもしれない。
「君も頑張ってくれてありがとうね」
ラインハルトによしよしと撫でられた馬も、歓喜で大きく震えている。
とにかくラインハルトのお蔭で、我がクラスは好調な滑り出しをすることができた。
そして次の種目は、私が出場する借り物競走だった。
「よし、頑張ってくるね!」
「ええ。みんなで応援してるわ」
クラスメート達に見送られ、王子と共にグラウンドの中心へと向かう。実は体育祭を体調不良で欠席した生徒の代わりに、急遽王子も出ることになった。
正直、一番想像していなかった組み合わせで、目が離せない展開になりそうだ。
「いいお題を引けるといいですね」
「…………」
ほぼ運ゲーとは言え、いざとなると自分の出番はやはり緊張してしまう。
借り物競走のルールは元の世界でもよくある、私の知るものと全く同じだった。一斉にスタートし、少し先のテーブルの上にあるお題の入った箱から紙を引き、そこに書かれたものを探してきてゴールするだけ。
簡単なお題を引くことができれば、運動神経の良くない私でも一位を取れる可能性がある。
メガネをかけたツンデレだとか、どうか簡単に見つけられるお題であってほしい。
「えっ? 出席番号26番の人……?」
「誰か、俺のことが好みの女子はいませんかー!?」
やがて競技が始まり、お題を引いた生徒たちが必死に当てはまる人を探して叫び、グラウンドを駆け回る。
ふざけたお題の数々に、会場からは笑い声が上がる。けれどいざ出場する側の私は、自分もそんなお題を引いてしまう可能性があるため、冷や汗が止まらない。
「セオドア様、頑張ってくださいね!」
そんな中、王子の出番がやってきて声を掛けると、こくりと頷いてくれた。
やがてスタートし王子は走る姿も美しいなと思いながら応援していると、お題箱から紙を引いて開いた途端、何故かこちらへと戻ってくる。
そして私の目の前で足を止め、手を差し出した。
「もしかして、私ですか?」
王子はこくりと頷き、どうやら王子が引いたお題に私が当てはまるようだった。
戸惑っている暇はないため、差し出された手を掴んで立ち上がり、ゴールに向かって走り出す。
けれど反対方向からも既にゴールへ向かっている生徒がおり、このままでは向こうの方が先にゴールしてしまいそうだ。
必死に走りながらも、私の足がもっと早ければ……と申し訳なく思っていた時だった。
「──すまない」
耳元でそんな声が聞こえたかと思うと、突如私の身体がふわりと浮いた。