告白に向けて 1
ランク試験を終え、週末はひたすらゆっくり休んだ私は月曜日、元気に学園に登校していた。
クラスメイトの誤解もルカやみんなのお陰で解け、平和な日常を過ごしている。
「そっか、もう体育祭の時期なんだ」
去年同様、夏のランク試験を終えた後はすぐに体育祭モードになる。
今年は競技が大きく変わり、フェンシングや射撃といった貴族らしいもの、そして何故か借り物競走や仮装競走といった、ファンタジー感ぶち壊しの現代日本でよく見るものが加わっていた。
「ねえ、射撃とか仮装競走とかおかしくない? とんでもない食い合わせすぎない?」
「そうか? 色々あって面白そうじゃん」
けれどみんなはすんなり受け入れていて、違和感を覚える私がおかしい気がしてくる。
とは言え、この世界観へのこだわりや情熱が一切感じられない安定のクソゲー感に、妙な安心感を覚えてしまうのが悔しい。
そして立候補やくじ引きをしたところ、私は借り物競走とアーチェリーに出ることが決まった。
ちなみに去年、剣術の試合に出て負けてしまった私が「来年は必ず勝たせてやる」という、吉田師匠の言葉に涙する感動的なシーンがあった。
今年はその伏線を完璧に回収する予定だったのにと、残念な気持ちになる。
けれど去年とは違い練習に明け暮れる必要はなさそうな競技で、ほっとしたのも事実だった。
「ま、今年も俺らが優勝だな」
「そうね、頑張りましょう」
ヴィリーとテレーゼ、吉田が代表リレーに出場し、王子はフェンシング、ラインハルトは障害馬術といった、みんなそれぞれ得意競技メインで出ることになった。
私はみんなの活躍の傍ら、借り物競走で良いくじが引けるように神殿に祈りに行こうと思う。
去年は他クラスの吉田達はライバルだったけれど、今年はみんな仲間なのだ。
今年もたくさん楽しい思い出を作りたいと、一ヶ月後の体育祭に胸を弾ませた。
◇◇◇
そんなこんなで放課後を迎えた私は、カフェテリアにやってきていた。
丸いテーブルの上に両肘を突き、指を組んだ上に顎を乗せる。そしてまっすぐに前を見つめ真剣な表情を浮かべると、私は静かに口を開いた。
「──それでですね、ユリウスに告白をしたいんです」
私はランク試験の前に浮かれて勉強が疎かになることがないよう、ユリウスへの告白を先延ばしにしていた。
無事にCランクになったこともあり、いよいよ行動に出ようと思っている。
けれどこれまで恋愛経験もなく、誕生日の告白も失敗してしまった私は、今回こそしっかり作戦を練って成功させたいと思い、友人達に相談することにした。
そして、今に至る──けれど。
「あのさ、相談するメンバー間違えてねえ?」
ストローでオレンジジュースを啜りながら、ヴィリーは首を傾げている。
「レーネちゃん、このケーキ一口食べる?」
その隣に座るアーノルドさんは、切り分けたケーキを差したフォークをこちらへ差し出していた。
「ごめん、全然聞こえなかった」
最後の一人であるルカは椅子の背に体重を預け、足を組んでいる。ちなみに絶対聞こえていないふりだ。
みんなそれぞれ用事があり、今日集まってくれたのはこの三人だった。相談に乗ってくれるのは大変ありがたいものの、ヴィリーの言う通り、世の中には適材適所、量才録用といった言葉があることを思い出す。
「つーかお前、兄ちゃんのこと好きだったんだな。あ、もう兄ちゃんじゃないんだっけ」
「レーネちゃん、ユリウスじゃなくて俺にしない?」
「姉さん、男の趣味悪くない? 告白なんてやめなよ」
今回の相談において、三人が的確なアドバイスをしてくれそうかというと、正直なんとも言えない。
むしろもう既に雲行きが怪しい。とは言え、意外と良い意見が出るかもしれないと、私は続けた。
「どういう雰囲気だと本気って伝わるかな?」
「んー、告白っぽい感じとかじゃね?」
「はっ……なるほど……!」
確かにザ・告白というシチュエーションの中で好きだと伝えれば、信頼度は上がる気がする。
いざ好きだと伝えてもこの間みたいに伝わらず、慌てて恋愛の好きだと説明するような雰囲気ぶち壊しの告白は避けたかった。
「それでいて、雰囲気のあるシチュエーション……やっぱりイベントとか?」
「なるほどね。じゃあユリウスの誕生日はどうかな?」
「そ、それです!」
アーノルドさんの意見に、私は両手を合わせた。
ユリウスの誕生日は体育祭の二週間後で、少し先にはなるものの、遅すぎることもない。
私の誕生日はユリウスのお蔭で最高に幸せなものになったし、しっかり準備をしてユリウスに喜んでもらった上で、告白も成功させれば完璧なのではないだろうか。
「毎年ユリウスの誕生日は伯爵邸の別館のホールで行われるから、告白する場所は夜景のよく見える別館のバルコニーとかがいいかな……」
あっという間に、告白プランが決まっていく。当初、このメンバーに相談することに不安を抱いてしまったことを反省し、心の中で深く謝罪した。
あとはプレゼントをどうするかと、告白のセリフだけれど、後者は自分で考えるべきだろう。
そんなことを考えていると、不意にルカが私の肩に顎を乗せた。私を上目遣いで見上げる表情も含め、全ての仕草があざとかわいくて、自分の武器を最大限に理解していることが窺える。もっとやってほしい。
「つーか、そんなの気にする必要あんの? あいつ、どう見たって姉さんのこと好きだし、絶対に失敗なんてしないじゃん」
「……それはそうかもしれないけど、少しでも思い出に残るものにしたいなって」
──私自身、ユリウスが学園祭の後夜祭の花火の中で告白してくれた時のことは、一生忘れないと思う。
あの時の美しい光景も、音も、何もかもが脳裏に焼き付いている。
ユリウスにもそんな思い出になってもらえたらいいなと思うのは、欲張りだろうか。