きょうだい 3
本編を読む前にシャシャッとスクロールしてあとがきのイラストを見た後に読んでいただくと1000000000倍楽しめると思います。
散々大泣きして落ち着いた後は、命の恩人であるユリウスに何度もお礼を言った。
ルカと今日話をするつもりだというのは昨日話していたから、心配して探してくれたらしい。
鞄につけていた水晶は位置を知らせるためのもので、これがなければこの塔までは辿り着けなかったと、ユリウスは安堵の溜め息を吐いていた。
「……助かった」
「お前のためじゃなくて、レーネのためだけどね。あとお前のこと、俺は許してないから」
少し目元の赤いルカのお礼はやはり素直じゃなくて、笑みがこぼれる。そんなルカにユリウスが向ける眼差しは、言葉とは裏腹に優しいものだった。
その様子からは伯爵の行いに対して、罪悪感を抱いていることが窺える。私もユリウスも悪くないと分かっていても、自責の念にかられる気持ちは分かってしまう。
それからは、保健室で腕の治療をしてもらった。
「本当に二人で大丈夫?」
「うん、ありがとう。帰ったらすぐに会いに行くね」
そしてルカとゆっくり話をするため、ユリウスと別れて学生寮のルカの部屋へ移動する。
ユリウスはまだ心配していたけれど、ルカがもう私に危害を加えることはないという、確信があった。
「部屋に入るまで声は出さないで」
こくりと頷くと、ルカは私を抱きしめるように抱え、風魔法を使って窓から忍び込む。
本来、女子生徒が男子寮に入るのは固く禁止されているものの、みんな隠れていつも連れ込んでいるから平気なんだとか。非常に不純だ。
「おじゃまします」
「何もないけど、その辺に座って」
ルカの部屋はベッドと勉強机のみで本当に最低限のものしかなく、綺麗に整頓されていた。
勧められたベッドの上に、ルカと並んで腰を下ろす。
私は膝の上に置かれているルカの右手に自身の左手を重ねると、静かに「ごめんね」と告げた。
「何で姉さんが謝んの」
「ルカが一番困っている時に、何もできなかったから」
「……どういう意味?」
「ルカが送ってくれた手紙は全部、私の手元に届けられてなかったんだ」
そう告げると、ルカの目が大きく見開かれた。
──昨日の夜、ユリウスが持ってきてくれたのは、ルカがレーネへ宛てた手紙だった。
ウェインライト伯爵の書斎に隠されていたものを、探し出してきてくれたのだという。
『レーネが家に戻りたいと言い出さないように、前の家族に関わるものは隠していたんだろうね』
『そんな……!』
数年前、私宛ての手紙を伯爵が回収するところを、ユリウスは見たことがあったという。
当時のユリウスはレーネと他人同然で、伯爵とも最低限の関わりしか持ちたくなかったため、見てみぬ振りをしたらしい。そのことを思い出し、気になって今回の行動に出たそうだ。
手紙には父が大きな事故に遭い命の危機にあること、治療費も工面できず生活ができないほど困窮していること、どうか助けてほしいということが綴られていた。
『…………っ』
他の数通も同様のことが書かれていて、父の痛み止めすら買えない、まともに食事にありつけない、必死に助けてほしいと縋るルカの手紙に、涙が止まらなかった。
どれほどルカや父が辛い思いをしていたのか、私には想像もつかない。日付を見る限りレーネの母が亡くなった後で、レーネしか頼れる人がいなかったようだった。
平民と貴族の金銭感覚は桁違いで、私が当たり前のように毎月与えられるお小遣いで解決できたに違いない。
けれど、愚かなウェインライト伯爵のせいでこの手紙がレーネの手に渡ることはなかったのだ。
──ルカはレーネがウェインライト伯爵家でどんな扱いを受けていたのか、知る由もない。
自分とは違い、貴族として幸せに贅沢な暮らしをしているのを想像していたはず。
だからこそルカがレーネに見捨てられ、許せないと思うことにも納得がいった。
『本当にごめんね』
『ううん、ユリウスは悪くないよ! ありがとう』
ユリウスも手紙に書かれていたルカの名前やその内容を見て、私達の関係など全てを察したようだった。
何より全て悪いのは伯爵だ。どうしようもない人間なのは知っていたけれど、ここまでとは思わなかった。
『本当にひどい……絶対に許せない……』
『俺が必ず復讐するから、もう少しだけ待ってて。レーネは良くないことなんて考えなくていいからね』
ユリウスはそう言って、私の涙を拭ってくれた。
「……はっ、なんだよそれ」
私が知る限りのことを伝えると、ルカは自嘲するような笑みを浮かべ、くしゃりと前髪を掴んだ。
「何も知らなかったなんて……それなのに、俺は……姉さんが死にかけた父さんを見捨てたと思って……」
もしもルカの事情を知っていたなら、きっとレーネだって何とかしようとしたはず。
何故ならユリウスから渡された手紙の中に、レーネがルカに宛てた手紙もあったからだ。
そこには短い文章且つ控えめながらも、ルカや父は元気に暮らしているか、何かあったらいつでも連絡してほしいという言葉が綴られていた。
──自分は伯爵家で上手くやっているから、なんて悲しくて優しい嘘までついて。
「こんな頼み、断られても仕方ないとは思ってたんだ。でも『私には二度と関わらないでほしい』『平民とはもう住む世界が違う、恥ずかしい過去』って手紙を送りつけてきたのも、姉さんじゃないの?」
「えっ? 絶対にそんなことはしてないよ!」
レーネはそんなことをしていないだろうし、まさか伯爵がそこまでしていたなんてと頭を抱えた。
一番苦しんでいる時に追い討ちをかけるような手紙が送られてくるなんて、ルカがレーネに対して恨みを抱くのも当然だ。
むしろルカの私に対しての復讐が、可愛らしいものに思えてくる。本来ならばもっと手酷いものをされたとしても、おかしくはなかった。
「……俺、バカみてえじゃん。何も悪くない姉さんに復讐なんてしてさ」
「ううん、ルカは悪くないよ! 本当に、ごめん……」
「それを言うなら、姉さんだって悪くないだろ」
呆れたように笑うルカは、私の手をきゅっと握る。
「……ごめんなさい、姉さん」
そして、消え入りそうな声でぽつりと呟いた。私は涙がこぼれそうになるのを必死に我慢して、ぶんぶんと首を左右に振る。
ユリウスや友人達にもちゃんと謝ると言ってくれて、思わずルカをぎゅっと抱きしめていた。
それでもルカはされるがままで、より愛おしくなる。これからは一切の誤解もしがらみもなく、改めてルカと良い関係を築いていきたい。
「そうだ、お父さんは大丈夫だったの? それに、どうやって大変な時期を……」
「父さんは今は元気だよ。俺も生きるために何でもしたしね。犯罪まがいの仕事もしたし、犬の餌以下の残飯だって食った。まあ、まともに暮らせるようになった今となっては笑い話だけどさ」
ルカはそう言って笑ったけれど、心には大きな傷として残っているはず。
胸が痛み、もう二度とそんな思いはさせない、私にできることは何でもしたいと固く誓った。
「あと、ちなみに俺と姉さん、姉さんが思ってるほどは仲良くなかったから。父さんとは仲良かったけど」
「……はい?」
「悪くもないけど、あんなベタベタしたことないし。姉さんに対して俺は無って感じ?」
ぴしりと固まる私を他所に、ルカは繋いでいない方の手で私の毛先をくるくると指に絡めている。
本当に待ってほしい。流石にそれだけは真実だと思っていたため、かなりの衝撃だった。
「だ、だって、お父さんからお母さんへの手紙に、ルカがお姉ちゃんに会いたいって……」
「手紙を書いてる父さんに一言ないかって言われて、適当にそれっぽいこと言っただけ」
「…………」
「社交辞令ってやつ?」
正直、ものすごく複雑な気持ちだった。
良かった、姉に会えず寂しがるルカはいなかったんだとほっとする気持ちもあり、今の私がルカが求めていた姉ではないことに対する罪悪感も薄れた、けれど。
「お姉ちゃんが大好きなルカはいなかったんだね……」
つい勝手にショックを受けてしまう。それが顔に出てしまっていたのか、ルカはふっと口角を上げた。
「そうでもないよ」
「えっ?」
「俺、今の姉さんは好きだから」
ルカはにっこり微笑むと、私の顔に整いすぎた顔を近付けてくる。
「……バカみたいにお人好しで優しくて、こんな俺も見捨てないでいてくれた姉さんが好きだよ」
じっと同じ桃色の瞳で見つめてくるルカの「好き」には、嘘がないのが伝わってくる。
「酷いことをして本当にごめんね。これからちゃんと償っていくし良い子にするから、仲良くしてほしいな」
「こ、こちらこそ……!」
そんなお願いを、ブラコンにすでに片足どころか両足を突っ込んでいる私が断れるはずもなく。
その上に、反射でこくこくと頷く私の頬にルカは唇を押し当てるものだから、私は供給過多によりその場に崩れ落ちてしまったのだった。
いつもありがとうございます。お知らせです!
9月15日にコミックス3巻、
9月20日に書籍5巻が発売&本日予約開始です!
う、うわあああ圧倒的””学園もの””感……!!!!!!
とっても可愛いレーネとかっこよすぎるユリウス、そしてあざとくて美少年すぎるルカが目印です!(王子と吉田もいます)
今回もくまのみ鮭先生が口絵、挿絵含めて神イラストを描いてくださっています(;;)♡♡♡
(Twitter @kotokoto25640 では画質の良いイラストたちが見れますのでぜひ)
そして!!!!なんと!!!!今回!!!!
ユリウス&吉田の香水2種類も発売です!!!!
吉田とユリウスの香りが……香水になりました……!!
目を閉じると””いる””んですよ……( Ꙭ )♡♡♡
そして香水イラスト、神すぎません……????
※正式なデザインは後日公開です。
ユリウスの色気、メガネoffの吉田……こんなの彼女視点じゃん……彼女しか見れない光景じゃん……(感涙)
こちらのイラストの箱パッケージはもちろん、香りも瓶もしっかり私が選んでこだわらせていただきました!!
本当に可愛くて最高の神アイテムですし、
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