表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

181/319

きょうだい 2



 みしみしと嫌な音を立て続ける右腕には気付かないフリをして、無理やり笑顔を作る。


「私、バカだし鈍いけど、気付いたよ。ルカだって、わざと私が気付くように、してたよね……?」


 科学準備室の件だってルカの名前を使わず、呼び出すことだってできたはず。


『なんかルカーシュがさ、お前が俺らを悪く言ってたって言うんだよ。まあ、お前の言葉選びがヘタクソだっただけだろうけどさ』


 それ以外にも、引っかかることはこれまでにいくつもあった。ルカは賢い子だ。だからこそ、もっと足がつかないように上手くやることもできたはず。


 それでもそうしなかったのはきっと、レーネに気付いてほしかったからだ。


 気付いて自分の行いを悔いてほしい、謝ってほしい、そんな気持ちがあったからに違いない。


「それなら、なんで俺から距離を置かないんだよ」

「だって、家族、だから」


 私は家族について人よりも詳しくないけれど、きっとそんな簡単に見捨てられるようなものじゃない。


 最初は復讐心から近づいたとしても、一緒に過ごした時間の全てが嘘だったとは思えなかった。


 ──何より私は、なぜルカがこんな風になってしまったのかを知ってしまったから。


「……何だよ、それ」

「私ね、ルカに謝りたいことも、話したいことも……たくさんある、んだ。だから、一緒に、助からないと」


 痛みに耐えながら、必死に言葉を紡ぐ。


 崩れた部分の尖った部分が腕に刺さっているらしく、腕からは血が流れ出ていた。


 腕を伝って流れた血が指先からぽたぽたと垂れて、ルカの制服を濡らしていく。


 既に腕の感覚はなく、一瞬でも気を緩めれば、ずるりとルカの手を離してしまいそうになる。


「いいから離せ、っ離してくれ!」

「……っく……」

「俺と一緒に死ぬ気かよ! 離せよ!」

「手を離すくらいなら、一緒に落ちた方がいい!」


 そう叫ぶと、ルカの目がさらに見開かれた。


 やがて淡い桃色が泣きそうに細められ「本当、バカじゃねえの」と、今にも消え入りそうな声で呟く。


「……う、っ……」

「もういい、罰が当たったんだよ」

「よく、ない……!」


 それでも確実に私の限界は近づいていて、ルカもそれを察したのだろう。


 ふっと口元を緩めると、諦めた表情を浮かべる。



「ごめんね、姉さん」



 ルカはそう言って、思い切り私の手を振り払った。


 必死に再び掴もうとしても、現状維持すら限界だった手にはもう、力が入らない。


「ルカ!!!!」


 ルカの手がすり抜けていき、もうだめだと悟る。


 いっそこのまま私も飛び降りて、ルカを抱きしめたまま落ちようと身を乗り出す。


 その瞬間、視界の端から手が伸びてきて、ルカの腕をぐっと掴んだ。


「──え」


 ふわりと大好きな香りが鼻を掠めて、すぐに何が起きたのかを理解する。


「……流石に、こんな状況は想像してなかったな」


 困ったように笑う横顔が、涙でぼやけていく。


「遅くなってごめんね」


 やっぱり私を助けてくれるのはユリウスで、私は首を左右に振りながら、様々な感情で胸がいっぱいになっていくのを感じていた。


 ユリウスはルカを屋上に引き上げてくれ、すぐに身体を起こした私は呆然とするルカに抱きついた。


「ほ、本当に、無事で良かった……」


 ルカはそんな私を振り払うことなく、されるがまま。


 ぽすりと力が抜けたように私の肩に顔を埋めたルカの身体は、小さく震えている。


「…………っ」

「う、うわあん……うああ……」


 やがて声を押し殺して静かに泣き出したルカを抱きしめながら、私も子供みたいに泣いてしまった。



明日のお昼に告知と更新にきます!!!!!

よろしくお願いします(´;ω;`)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

【公爵様、悪妻の私はもう放っておいてください】

新連載もよろしくお願いします!

― 新着の感想 ―
[良い点] ルカぁ……涙止まらん 気づいて欲しかったんだよね レーネがちゃんと気づいて向き合ってくれて良かった 「ごめんね、姉さん」が切なすぎる。 レーネのこと憎んでたのに困らせたこと謝罪して、レー…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ