きょうだい 2
みしみしと嫌な音を立て続ける右腕には気付かないフリをして、無理やり笑顔を作る。
「私、バカだし鈍いけど、気付いたよ。ルカだって、わざと私が気付くように、してたよね……?」
科学準備室の件だってルカの名前を使わず、呼び出すことだってできたはず。
『なんかルカーシュがさ、お前が俺らを悪く言ってたって言うんだよ。まあ、お前の言葉選びがヘタクソだっただけだろうけどさ』
それ以外にも、引っかかることはこれまでにいくつもあった。ルカは賢い子だ。だからこそ、もっと足がつかないように上手くやることもできたはず。
それでもそうしなかったのはきっと、レーネに気付いてほしかったからだ。
気付いて自分の行いを悔いてほしい、謝ってほしい、そんな気持ちがあったからに違いない。
「それなら、なんで俺から距離を置かないんだよ」
「だって、家族、だから」
私は家族について人よりも詳しくないけれど、きっとそんな簡単に見捨てられるようなものじゃない。
最初は復讐心から近づいたとしても、一緒に過ごした時間の全てが嘘だったとは思えなかった。
──何より私は、なぜルカがこんな風になってしまったのかを知ってしまったから。
「……何だよ、それ」
「私ね、ルカに謝りたいことも、話したいことも……たくさんある、んだ。だから、一緒に、助からないと」
痛みに耐えながら、必死に言葉を紡ぐ。
崩れた部分の尖った部分が腕に刺さっているらしく、腕からは血が流れ出ていた。
腕を伝って流れた血が指先からぽたぽたと垂れて、ルカの制服を濡らしていく。
既に腕の感覚はなく、一瞬でも気を緩めれば、ずるりとルカの手を離してしまいそうになる。
「いいから離せ、っ離してくれ!」
「……っく……」
「俺と一緒に死ぬ気かよ! 離せよ!」
「手を離すくらいなら、一緒に落ちた方がいい!」
そう叫ぶと、ルカの目がさらに見開かれた。
やがて淡い桃色が泣きそうに細められ「本当、バカじゃねえの」と、今にも消え入りそうな声で呟く。
「……う、っ……」
「もういい、罰が当たったんだよ」
「よく、ない……!」
それでも確実に私の限界は近づいていて、ルカもそれを察したのだろう。
ふっと口元を緩めると、諦めた表情を浮かべる。
「ごめんね、姉さん」
ルカはそう言って、思い切り私の手を振り払った。
必死に再び掴もうとしても、現状維持すら限界だった手にはもう、力が入らない。
「ルカ!!!!」
ルカの手がすり抜けていき、もうだめだと悟る。
いっそこのまま私も飛び降りて、ルカを抱きしめたまま落ちようと身を乗り出す。
その瞬間、視界の端から手が伸びてきて、ルカの腕をぐっと掴んだ。
「──え」
ふわりと大好きな香りが鼻を掠めて、すぐに何が起きたのかを理解する。
「……流石に、こんな状況は想像してなかったな」
困ったように笑う横顔が、涙でぼやけていく。
「遅くなってごめんね」
やっぱり私を助けてくれるのはユリウスで、私は首を左右に振りながら、様々な感情で胸がいっぱいになっていくのを感じていた。
ユリウスはルカを屋上に引き上げてくれ、すぐに身体を起こした私は呆然とするルカに抱きついた。
「ほ、本当に、無事で良かった……」
ルカはそんな私を振り払うことなく、されるがまま。
ぽすりと力が抜けたように私の肩に顔を埋めたルカの身体は、小さく震えている。
「…………っ」
「う、うわあん……うああ……」
やがて声を押し殺して静かに泣き出したルカを抱きしめながら、私も子供みたいに泣いてしまった。
明日のお昼に告知と更新にきます!!!!!
よろしくお願いします(´;ω;`)