違和感のはじまり 3
「もう、ちゃんとしてよね。ウェインライトさんのせいで私まで怒られたんだから」
「ご、ごめんね……」
ふんと鼻を鳴らして教室を後にするクラスメートを見送り、ふうと溜め息を吐く。
なんだかここ最近、誤解で周りから怒られたり文句を言われたりすることが増えた。
新しいクラスメートとはまだ関係が浅いせいで、何かの間違いだと言ってもなかなか信じてもらえずにいる。
「レーネ、また何かあったの?」
「うん。私が頼まれたはずの用事を放置したせいで先生に怒られた、って言われちゃって」
もちろん私には全く身に覚えがないし、一体何がどうなっているんだろう。
最初はただの勘違いや誤解だと思っていたけれど、こんなにも連続で続くと流石におかしい気がしてくる。
「本当に酷いし腹が立つよ。レーネちゃんはそんな無責任な人じゃないのに」
「ええ、みんな分かってくれるといいんだけれど……」
「ありがとう、二人が信じてくれるだけで嬉しいよ」
テレーゼとラインハルトの言葉に、救われた気持ちになる。これまで通りに過ごしていれば、きっといつか他の人達も分かってくれると信じたい。
それにしてもやっぱりおかしいと、首を傾げながら帰り支度をしていた時だった。
「あ、レーネちゃん。ルカーシュくんが来て、科学準備室で待ってるって言ってたわ」
「ルカが? ありがとう」
クラスメートにそう告げられ、教科書を詰め込んだ鞄を持って科学準備室へと向かう。ルカに呼ばれるのは初めてではないけれど、なぜ科学準備室なのだろう。
三階の一番端で人気がない場所だし、何か二人きりで話したいことがあるのかもしれない。
「ルカ? いる?」
ドアを開けて中を覗いてもカーテンは締め切られ灯りはついておらず、真っ暗で何も見えない。
まだルカは来ていないようで、ひとまずカーテンを開けようと、中へ足を踏み入れた。
そうして窓際へ向かうと教室の奥に人の気配がして、視線を向ける。
「──ルカ?」
声をかけてみても反応はなく、もう一度名前を呼んだ瞬間、棚をひっくり返したようなぱりん、がしゃん、というガラスが割れるような音が次々と室内に響く。
「えっ……えええええ……!?」
何が起きたのか分からず呆然としているうちに、耳をつんざくような爆発音が響き、暗闇の中で熱風と炎が押し寄せてくる。
割れた瓶から薬液が漏れたらしく、引火してはまた炎が上がる。花火大会のラストかというくらいドンドンバンバン連続し、大盛り上がりで爆発していく。
「う、うわあ……」
私はキャンプファイヤーみたいだと思いながら、その光景を呆然と眺めていた。人はとんでもない出来事に遭遇した時、一周回って悲鳴すら出てこないのだと知る。
やがて煙も充満し始めて薬液が混ざったのか、吸ってはいけない感じの匂いまでし始めた。
「ど、どうしよう、火事の時は、お、おはし……おかしだっけ……?」
火事の時の対応なんて、子供の頃の学校でした避難訓練程度の知識しかなかい。
押さない、かけない──走らない、どっちもあったなあなんて考えながら、炎から逃げ惑う。
「……あ」
ようやくドアに辿り着いて手をかけたところで、その向こうに人だかりができていることに気が付く。
これだけドンドンバンバン爆発大騒ぎをしていれば、人が集まってくるのも当然だろう。
私はあまり科学とか得意ではないけれど、密室状態で色々な煙やガスが溜まっている状態から、いきなりドアを開けて大丈夫なものなのだろうか。ものすごい大爆発とかが起きたとしても、おかしくはない。
「ど、どうしよう……」
このまま待っていれば騒ぎを聞きつけて先生が助けに来てくれるかもと思ったけれど、既に火の手はドアの前にいる私のすぐ近くまで迫ってきている。あまり時間はなさそうだ。
半端に水をかけては炎が爆発的に広がるという話も聞いたことがあるし、私のへっぽこ水魔法では余計なことをしない方がいいだろう。
そんな中、足元で小さな爆発が起き、膝下がぶわっと炎に包まれる。
「うわあああ、あっつ──くない……?」
反射的に悲鳴を上げたけれど、何故か足は無事な上に熱さも痛みも感じない。
もしや私は既に最初の爆発で死んでいて、霊体に……という本当にありそうな怖い話を想像したけれど、自分で足をつねってみるとちゃんと痛くて安心した。
ほっとしたのも束の間、今度は近くにあった大きな棚がぐらりと傾く。
「──っ」
もう避けられそうになく、これは本当にまずいかもしれないと思った時だった。
目の前できらっと何かが輝いて、その向こうで棚が反対方向に吹き飛んでいくのが見えた。
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