ドキドキ新学期 2
本日、書籍4巻の発売日です!
どうぞよろしくお願いします;;
二階ホールは新入生と新二年生で溢れていて、あちこちから喜びではしゃぐ声や、友人とクラスが離れてしまったのか残念そうな声が聞こえてくる。
「うわ、俺4組だったわ」
「僕は3だったよ」
どうやら一定間隔に置かれている水晶の魔道具で、クラス分けをしているらしかった。
私もどきどきしながら、空いていた水晶の前に立ってみる。するとここで水晶の使い方がさっぱり分からないという、大問題が発生してしまった。
「こ、こう? うーん……」
周りの真似をして手をかざしてみたものの、一切反応はない。ユリウスに色々と聞いておけばよかったと思いながら、色々な角度から念じたりと試行錯誤してみる。
「……なぜ朝から間抜けな顔と動きをしているんだ」
「あっ吉田! おはよう!」
そんな中、困り果てている私の元へ現れたのは、大親友の吉田だった。助かったと、安堵の溜め息が漏れる。
「実はこの魔道具の使い方、よく分からなくて……」
「一年前に説明を受けて使っただろう。……ああ、そういやお前は記憶喪失だったな」
「そうそう、そんな感じでして」
納得した様子で頷くと、吉田は水晶の真上に手を翳しながら魔力を込めればいいと教えてくれた。
「あれ、反応しない……もしかして私、死んでる?」
けれど言われた通りにやってみても、水晶はしんと無反応のまま。自動ドアの前に立って挙動不審な動きをしてみても、一切開かない時の虚しさを思い出す。
「もっとこの辺りで、しっかり覆うように翳してみろ」
「なるほど、ありがとう!」
吉田は私の手を掴み、誘導してくれる。
そのままもう一度魔力を込めれば、水晶にはふわふわと「1」という数字が浮かび上がった。
「わっ、つまり私は1組ってことだよね?」
「ああ」
「お、おお……!」
友人たちのクラスが分からない以上、嬉しさも悲しさもなく反応に困っていると、不意に「あの先輩達、カップルかな?」なんて声がすぐ側から聞こえてくる。
どうやら吉田に手を掴まれたままの私を見て、新入生達はそう思ったらしい。
確かに二年生が使い方を知らないなんて思わないだろうし、今の状況は手を繋いで結果を見ているバカップルに見えてしまうのかもしれない。
「吉田、私達ってカップルに見えるみたい」
「最悪な新年度の始まりだな」
「どうしよう……急いで追いかけて肯定してくるね!」
「名誉毀損で訴えるぞ」
吉田は大きな溜め息を吐くと私から手を離し、諦めた顔のまま自身も水晶に手を翳す。
私はドキドキしながらその様子を至近距離で見守っていたけれど、やがて口からは大きな声が漏れた。
「ああああああ! ああああああ!」
「うるさい」
水晶から離れた吉田は「邪魔になるからさっさと行くぞ」と言い、歩き出す。その口ぶりから、改めて私達が向かう先が同じだと実感する。
「吉田と同じクラス、すっごく嬉しい! よろしくね」
「……ああ」
吉田と同じクラスになれたことにはしゃぎながら、私は軽い足取りで二年生の階へと向かった。
◇◇◇
「いやあ、すげえよ。本当にびっくりしたな」
昼休み、上位ランク専用の食堂で昼食をとりながら、ヴィリーの言葉に何度も頷く。
「まさか、こんなことがあるなんてね。驚いたわ」
「学園側は正気なのか?」
「でも、嬉しいよね。残りの二年間も楽しみだ」
「…………」
そう、なんと吉田と2年1組の教室に入ったところ、そこにはテレーゼ、ヴィリー、王子、ラインハルトの姿があったのだ。
まさかいつもの仲良しメンバー全員と同じクラスになれるとは思わず、驚いてしまった。
とは言え、これ以上に嬉しいことはなく、授業の合間の休憩時間も早速6人で集まってはお喋りをしていた。
ユッテちゃんは隣のクラスで残念だったけれど、お昼を一緒に食べたり遊びに行ったりする約束をしている。
「レーネちゃんと同じクラスになれるように、毎日神殿に通って祈った甲斐があったよ」
「げほ、ごほっ……ええっ!?」
ラインハルトの言葉に、お茶を吹き出してしまう。
まさかユッテちゃん以外に異世界版御百度参りをする人がいるとは思わなかった。もちろん気持ちは嬉しい。
そして何やら効果がありそうで、私も今度お願いごとができた時にはやってみることにした。
「体育祭もこのメンバーなら優勝できそうだよな」
「確かに。問題は得意な種目に出られるかだけど……って私以外はみんな、何に出ても問題なさそうだよね」
友人達は何でも簡単にこなせてしまう、超絶ハイスペック集団だったことを思い出す。
去年の私は未経験の障害馬術と剣術という恐ろしい組み合わせで、アーノルドさんと吉田に弟子入りして天国と地獄を見た記憶がある。
「でも、まずはランク試験を頑張らないと」
「なあレーネ、今日から毎日残って勉強しようぜ」
「えっ……」
ヴィリーの口からとんでもない言葉が飛び出し、私の手からはカランと音を立ててフォークが床に落ちた。
私だけでなくこの場にいた全員が驚いたらしく、先程まで楽しくお喋りをして盛り上がっていたテーブルが、一瞬としてしんと静まり返ってしまう。
ヴィリー本人だけは「ん?」と首を傾げている。
「だ、誰……?」
「は?」
「私の知っているヴィリーは絶対にそんなことは言わないので、ヴィリーの身体を返してください」
「怖いこと言うなよ」
勉強が大嫌いで十分座っているだけで落ち着かない、叫び出したくなる、といつも話すヴィリーとは思えない発言に恐怖を抱いてしまう。新手の乗っ取りだろうか。
「俺だって勉強なんてしたくねえんだけど、騎士団って強えだけじゃダメで筆記試験もあるって知ったんだ。ついでに在学中のランクまで見られるらしくてさ、このままじゃやべえってことになって」
「確かにヴィリーの筆記、学年最下位レベルだもんね」
「それで、俺一人じゃ机に向かってられないし。お前と吉田と頑張ろうと思ったんだ」
「え、えらいよ! 三人で一緒に頑張っていこう」
「なぜ俺も当たり前のようにカウントしているんだ」
ランクというのは積み重ねが大事で、どんなに好成績をとってもいきなりFランクがSランクになることはないと言われている。流石のヴィリーも危機感を覚えたようで、一緒に頑張ろうと約束した。
他のみんなも高ランクではあるものの、予定が合う日は一緒に勉強すると言ってくれて心強い。早速今日の放課後、残れるメンバーで勉強する約束をした。
「私、新しいフォークとってくるね」
そしてフォークを落としてしまったことを思い出し、まだ食事の途中だったため席を立つ。
「…………あ」
そうして新たなものを取りに行った先にいたのは、今朝玄関で目があったピンク髪の超絶美少年だった。
その胸元では、金色のブローチが輝いている。
いつもありがとうございます。いよいよ本日、4巻の発売日です!!(どきどき)(緊張で腹痛)
とにかくくまのみ鮭先生のイラストが美麗で最高なので……皆さまが見たいと思ってくださっているシーンにも挿絵が絶対絶対あると思います( ˘人˘ )♡♡
口絵は不思議の国のアリスパロです! 全員解釈一致で超絶かわいくてかっこよくて最高です;;
書籍の巻末書き下ろしは
『不思議の国のレーネ』 口絵に合わせたお話です。
『クリスマスっぽいパーティー』いつものメンバーで鍋や雪合戦をするわちゃわちゃしたお話です。
(こちら2本の書き下ろしで1万字あります)
電子書籍の書き下ろしは
『目指せ女子力アップ』ユリウスの好みに近づきたいと思ったレーネが奮闘するお話です。
オンラインストア特典は
『二人を繋ぐもの(物理)』へんてこ手錠魔道具でユリウスと繋がれてしまったレーネの24時間のお話です。
皆さまのお陰でチート兄は続けることができております、本当に本当にありがとうございます;;♡♡
今後とも応援よろしくお願いいたします(;;)
(あっ!!Twitterでくまのみ先生が超絶かわいい書き下ろしイラストを公開してくださっています!!)