お姉ちゃんとお兄ちゃん
3巻の電子特典用に書いたものの、お蔵入りした短編です!4巻イラストなどはあとがきにて( ˘人˘ )
昼休み、図書室でとある本を借りた私はいそいそと中庭へ向かっていた。
とても天気がいいため、残りの時間は木陰のベンチで読書をしようと思っている。
「あら、レーネじゃない」
「はっ……ミレーヌ様、こんにちは!」
するとそこには、ユリウスのクラスメイトであり超絶美女のミレーヌ様の姿があった。視界に捉えるだけで息を呑んでしまうほど、今日も美しい。
以前から顔見知りではあったけれど、学園祭準備を通してかなり親しくなったように思う。
公爵令嬢という身分やその美しさから雲の上の人というイメージがあり、以前は挨拶をするだけで緊張していた。けれど今では気さくで優しいミレーヌ様のお蔭で、最近は楽しくお喋りさせてもらっている。
「どうしたの? こんなところで」
「天気が良いので、外で読書でもしようかなと」
ミレーヌ様は先ほど告白で呼び出され、あっさり振って今に至るらしい。私も「ちょっとここで告白されてね……フフ」とか言ってみたい人生だった。
やがてミレーヌ様は、私の手元の本へ視線を向ける。
「まあ、レーネって恋愛小説を読むのね」
「お恥ずかしいのですが、こういう感じのラブに憧れておりまして……」
そう、今日の私はロマンス小説を読もうとしていた。恋愛について学びたかったからだ。
「良いじゃない。私はこういうのあまり読まないから、興味があるわ」
そして何故かミレーヌ様と一緒に、ロマンス小説『愛と欲望の果て』を読むこととなった。
「じゃあ、私が音読するわね」
「はい!」
なんだか読み聞かせみたいで、胸が弾む。ミレーヌ様はお声までそれはもう美しいのだ。お金を払いたい。
「どうしたの? そんなにニコニコして」
「お姉さんに憧れていたので、嬉しくて」
「いつでもうちの子になってくれて良いのよ」
よしよしと頭を撫でられ、照れてしまう。それからはミレーヌ様と共に仲良く本を読み始めた、けれど。
「あら、すごいわね」
「う、うわあ……」
激しいキスシーンなんかがあり、本当にこんな内容の小説を学園の図書館に置いて良いのか、と突っ込みたくなるレベルだった。
そしてそれを誰かと一緒に読むというのは、恥ずかしいものがある。けれどそわそわする私とは違い、ミレーヌ様は興味津々という様子で堂々と読み進めていた。
「女性同士のシーンもあるわ」
「ほ、本当ですね」
なんとヒロインに迫る美女まで現れ、小説はカオスな展開になっていく。美女にぴったりとくっ付かれながらこんな話を読むなんて、なかなかドキドキしてしまう。
「顔が赤いけど、どうかした?」
「い、いえ……」
「もしかして、意識しちゃった? 私もレーネみたいなかわいい子ならいけそうだけど」
「ええっ」
妖艶に微笑むミレーヌ様に顎クイをされ、美しすぎるお顔が近づく。本当に待ってほしい。
甘い花のような恐ろしく良い香りがして、心臓が高鳴り、きつく目を閉じた時だった。
「あのさ、レーネで遊ばないでくれる?」
不意にそんなユリウスの声が聞こえてきて、ぐいと身体が後ろに引かれる。目を開ければ、やはり呆れたような顔をして私を抱きしめるユリウスの姿があった。
どうやら遠目で私達の姿を見つけ、急いで駆け寄ってきたらしい。ユリウスはミレーヌ様を軽く睨むと、私を抱きしめる腕に力を込める。
「本当にお前、悪趣味だよね。女に興味なんて一切ないくせに訳のわかんないこと言ってさ」
「だって、戸惑うレーネが本当にかわいいんだもの。あなたよりは好きよ」
楽しそうに微笑むミレーヌ様は立ち上がると、私の頬に触れる。
同時に、耳元でユリウスの舌打ちが聞こえてきた。
「また遊びましょうね」
「ハ、ハイ……」
それだけ言うと長く美しい金髪を靡かせ、ミレーヌ様は去っていく。
どうやら戸惑う私で遊んでいたようだったけれど、もはや遊んでいただいたくらいの気持ちになってしまう。圧倒的な美女というのはすごい。
一方、ユリウスは私を抱きしめたまま、大きな溜め息を吐いた。
「ムカつくんだけど」
「えっ?」
「本気でときめいちゃった、みたいな顔してさ」
「いやいやいや、不可抗力ですよあんなの」
同性といえどあんな美女に迫られて、ドキドキするなという方が無理がある。
拗ねた顔すら美形のユリウスはむすっとした顔を近づけてくるため、心臓は休みなく悲鳴を上げ続けていた。
「俺にはそういう顔、全然してくれないのに」
「そ、そんなこともなく……」
そう、最近の私はユリウスにこそドキドキしてしまうのだ。拗ねる必要なんてないくらいには。
「本当に?」
「はい! なので少しばかり離れていただきたく……」
今まさにその状況だと察してくれたのか、ユリウスは綺麗に口角を上げてみせた。
「あ、本当だ。顔、赤くなっててかわいい」
「……っ」
そんな風に言われては、余計にドキドキしてしまう。
こういうことをさらりと言えるユリウスは、すごくずるいと思う。
「ということで、解散しませんか」
「俺以外にドキドキしないって約束したらいいよ」
「そ、それはちょっと……」
男性にときめくことはあまりないけれど、私は美女に弱いと先ほど判明してしまったため、全然約束できそうにない。
するとユリウスは「浮気者」と言い、先ほどのミレーヌ様のように私の顎を掴んでみせた。
「俺はレーネ以外にドキドキしないのに、酷いね」
「ミレーヌ様みたいなお姉様、誰でも憧れるよ」
「お前さ、お兄ちゃんもお姉ちゃんもほしいとか贅沢すぎない?」
「す、すみません……」
確かに贅沢を言っていると思い謝ると、ユリウスは「それなら」と続ける。
「俺がヨシダくんを弟にするってベタベタしてたら、レーネはどう思う?」
「えっ……?」
予想外の問いに、私は言葉を失ってしまう。
ユリウスからすれば似たような状況だったのかもしれないけれど、だってそんなの──……
「正直すごい見たい」
「は?」
──その後はめちゃくちゃ怒られた後、男女ともに必要以上に近づかないことを約束させられた。
ついでにユリウスが吉田に告げ口をし、しばらく吉田に口を聞いてもらえなくなったのは、また別の話。
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皆さまがたくさんの応援をしてくださるお陰で、チート兄シリーズはここから更に色々盛り上がっていく予定です。
今後ともどうぞよろしくお願いいたします!