16歳の誕生日 4
それからはみんなでお喋りをしながら、王城のシェフが作ってくれたというそれはもう美味しい昼食を食べ、一人一人からプレゼントをもらった。
「私とお揃いの鞄なの。使ってもらえたら嬉しいわ」
「もちろん、ずっとずっと大切に使うよ! テレーゼとお揃いなんて本当に嬉しい! ありがとう」
「ふふ、こちらこそありがとう」
「お前が前に気になるって言ってたケイシー冒険記の全巻セットと、何でも言うこと聞く券パート2だ」
「えっ、どっちもすごい嬉しい! 何でも言うこと聞く券には前回助けられたし……ありがとう!」
「レーネちゃんに似合うものを数ヶ月間、毎日朝から晩まで考えて、オーダーメイドした防御魔法効果のあるキーホルダーなんだ。良かったら付けてほしいな」
「あ、朝から晩まで……!? しかも超かわいい! 本当にありがとう、毎日使う学園用の鞄に付けるね!」
「女性の好きそうなものはよく分からなかった、気に入らなければ捨ててくれ」
「えっ……吉田がリ、リボンを……!? わあ、すっごく気に入ったよ! ありがとう、たくさんつけるね!」
「…………」
「王族と同じ枕!? そ、そんなにぐっすり眠れちゃうなんて……嬉しいです、今夜から早速使いますね! 本当にありがとうございます」
「はい、レーネちゃん。今女の子の間で流行ってるキャンドルだよ。魔力を込めると香りが変わるらしいから、好きなように色々変えてみて」
「お、おしゃれ……ありがとうございます! 女子力が上がりそうで助かります、大切に使いますね!」
どれも私のために一生懸命に選んでくれたのが伝わってきて、死ぬまで宝物にすることを誓った。死んだ後はお墓に入れてもらおうと思う。
何もかもが嬉しくて幸せでみんなが大好きで、もう泣きすぎて目も鼻も痛い。何度も何度もお礼を言うたび、みんなも笑顔になってくれて、やっぱり嬉しかった。
「でも、お城でパーティーなんて想像してなかったからびっくりしちゃった。本当に素敵だね」
「ウェインライト伯爵邸だと準備段階でレーネにバレてしまいそうだし……って悩んでいたらセオドア様が提案してくださったのよ」
「えっ、セオドア様が……!?」
驚いて王子へ視線を向ければこくりと頷いてくれる。私は王子の手を取ると、エメラルドの瞳を見つめた。
「本当にありがとうございます、嬉しいです!」
「……うん」
きゅっと手を握り返され、笑みがこぼれる。王子と出会った頃──いつも無視をされ、挨拶バカと呼ばれていた頃を思い出すと、こんなにも仲良くなれて本当に良かったと、心が温かくなった。
それからもみんなで全力ではしゃぎ、ヴィリーが吉田の飲み物に色々と混ぜ、怒られているのを見て笑っていたところ、ユリウスに声をかけられた。
「ねえ、少しだけ二人で外に出ない?」
「うん! もちろん」
ユリウスはずっと私達の様子を見守ってくれていて、あまり話せていなかったのだ。すぐに頷き、二人でバルコニーへと向かう。
「わあ、雪だ!」
外へ出ると既に日は沈み、黄金の月が浮かんでいた。はらはらと静かに雪が降っていて、とても幻想的だ。
王城から見える景色も美しく、隣には王子様のようなユリウスがいて、綺麗に着飾った私はまるでお姫様になったような気分になる。
「大丈夫? 寒くない?」
「少しだけね。もっとこっちに来て」
寒がりのユリウスを心配したところ、後ろからぎゅっと抱きしめられた。温かくてくすぐったくて、ドキドキするのに落ち着いて、不思議な気持ちになる。
「私ね、本当に今日1日幸せだった。ありがとう」
「どういたしまして。俺もレーネが泣くほど喜んでくれたから、嬉しかったよ」
──今日の集まりはユリウスがかなり前から計画し、みんなに声をかけて準備をしてくれていたという。
私はいつもユリウスの側にいたけれど、サプライズについてはさっぱり気付いていなかった。
『私はユリウスとかみんなと過ごせたら嬉しいな……あっでも忘れて、何でもない』
きっと私が以前何気なく言った言葉をユリウスは覚えてくれていて、実現してくれたのだ。
この世界に来て半年以上、一緒に過ごしてきて色々とユリウスのことを知ったけれど、こんな風にサプライズをするような性格じゃないことも知っている。
どちらかというとそういうことは面倒だとか、くだらないと言うようなタイプだったと思う。
それでも、私のためにそんならしくないことをしてくれたことが本当に嬉しくて、胸が締め付けられる。
「……うん、かわいい。俺はレーネをよく分かってる」
「えっ?」
そんな中、ユリウスは満足げに微笑み、その視線は私の首元へと向けられていた。
何のことだろうと視線の先を辿れば、そこには先程までなかったネックレスが輝いている。
シンプルながら洗練された一粒ダイヤのデザインで、宝石に全く詳しくない私でも輝きが普通のものとは格段に違うのが分かった。
「こ、これ……」
「俺からの誕生日プレゼント」
朝からたくさんの物をもらい、たくさんお祝いしてもらったというのに、まだこんな素敵なプレゼントが残っていたなんてと驚いてしまう。
指先でそっとネックレスを撫でると、全身に多幸感が広がっていく。
「すっごく素敵! 絶対、肌身離さず毎日つけるね」
「気に入ってくれたなら良かった。ネックレスには、束縛したいとか色々意味があるんだって」
「重いよ」
「あはは、まあ俺は他の意味がメインだけど」
他には一体どんな意味があるんだろう、後で調べてみようと思いながら、振り返る。そうしてユリウスと向かい合う形になった私は、思い切り抱きついた。
「ユリウス、本当にありがとう」
「どういたしまして」
ユリウスと触れ合うと、悲しくもないのに泣きたくなって、胸が苦しいくらいに締め付けられる。それなのに不思議と心地良い、この感情の名前を私はもうとっくに知っていた。
気付かないフリなんてもうできないくらい、この気持ちは大きくなり、しっかりと私の中で形作られている。
初恋を自覚した私は、じっとユリウスを見上げた。
「どうしたの? そんなに俺の顔を見て」
「私、ユリウスが大好き」
そう告げればユリウスは微笑み、いつものように「ありがとう」と、さらにきつく抱きしめてくれた。
今の「大好き」は一人の男性としてのユリウスへ向けたものだったけれど、これまで私は何度も好きだと伝えていたし、家族愛だと受け取られたようだった。
「……ふふ」
「どうかした?」
「なんでもない! 寒くなってきたし、中に戻ろう」
「そうだね」
いきなり告白を失敗してしまい、なんだか私らしいと思いつつ、今日はこれで良かったのかもしれない。
そうして大広間へ戻ろうとしたところで、ユリウスは不意に足を止め「そうだ」と私の耳元に口を寄せる。
「俺の方がずっと好きだよ」
「…………っ」
「来年の今日も一緒に過ごそうね」
本当に、ユリウスはずるい。そう思いながらも、いつの間にか繋がれていた手を握り返す。こういうところも全部含めて、私はユリウスが好きなのだから。
大好きな人達に祝ってもらえた初めての誕生日は、本当に幸せで、一生忘れられない大切な1日となった。
◇◇◇
冬休みが明けてからは勉強に明け暮れつつ、友人達と学園生活を楽しみ、あっという間に時間は過ぎ──……
私はこの世界に来て、二度目の春を迎えていた。
「おはよう、ユリウス。いよいよ新学期だね!」
「おはよ。レーネはクラス替えがあるんだっけ」
「うん、ドキドキしてお腹ねじれそう」
そう、2年の進級時はクラス替えがあり、3年生も同じクラスで固定のため、かなり重要だ。
仲の良いみんなと同じクラスになれたらいいなと思いながら、ユリウスと馬車に揺られ、学園へ向かう。
「あー、なんか春って眠くなるよね」
「分かる。でも、あっという間にランク試験だろうし、気を抜かないようにしないと」
次の試験からはもう、確実にひとつずつランクを上げていかなければならないのだ。
そして2年春のランク試験で無事にCランクになった暁には、改めてユリウスに告白しようと思っていた。
自分で言うのも何だけれど、現時点での告白の成功率は100パーセントだろう。つまり、ユリウスと恋人なんかになってしまう可能性がある。
そうなれば愚かな私は絶対に浮かれてしまうし、勉強も手につかなくなってしまう気がしてならない。だからこそ、ランク試験を終えた後に伝えようと決めていた。
「レーネは本当に頑張り屋さんでえらいね。俺にできることがあればいつでも頼って」
「うん、ありがとう!」
頭を撫でれられ、口元が緩む。好きだと自覚してからというもの、気持ちは大きくなるばかりだった。
──好きだと伝えたら、ユリウスはどんな顔をするのだろうか。そんなことを考えながら、私は春色でいっぱいの窓の外へと視線を向けた。
「……へえ、ここが姉さんのいるハートフル学園か」
何だかんだ既に浮かれていた私は、出会いという名のトラブルが待ち受けているのを、まだ知る由もない。
これにて9章も終わりです!4巻の書下ろしは1年生組のクリスマスっぽいパーティーやユリウスとの甘めのお話の予定なので、よろしくお願いします( ˘人˘ )♡♡