狩猟大会 7
大きな音や衝撃が続き、私はひたすら目を閉じユリウスにしがみついていたけれど、やがて全てが止んだ。
恐る恐るゆっくり目を開ければ「大丈夫?」といつも通りの様子のユリウスと目が合って、胸を撫で下ろす。
「……し、死んだかと思った」
「まさか。俺がレーネを死なせるはずないよ」
ユリウスはあっさりとそう言ってのけたけれど、音だけでも人間が無事に生き延びられるような出来事ではなかったのは確かだ。
全てを魔法で跳ね返し続けたらしいけれど、私一人なら間違いなく生き埋めバッドエンドだっただろう。
すぐに辺りを見回せば、5人全員が無事のようで心底安堵した。吉田はミレーヌ様に少し助けられたようで、丁寧にお礼を言っている。
「…………?」
そして私は、先程から上手く言葉にはできない違和感を覚えていた。
雪ではっきり見えないものの、山の中はずっと似たような景色だったと言うのに、この辺りはこれまでいた場所と様子が違う気がする。それに少しだけ、息苦しい。
「色々と言いたいことはあるけど、まずは全員無事で良かったよ。……あー、さむ」
「ええ、でも困ったわね。急に吹雪いてきたわ」
そう、実は先程まですっきり快晴だったというのに、今や空は暗く猛吹雪に見舞われていた。少し先ですら、真っ白で何も見えない。
寒がりなユリウスには堪えるらしく、暖をとるように私を抱きしめている。
ミレーヌ様はポケットから何かを取り出すと、何か魔法を使い雪の中へと飛ばした。
「もしかして、これはもしかしなくても……」
「遭難だな」
「遭難しちゃったね」
吉田とアーノルドさんの声が見事に被る。
とは言え、ここにいるメンバーはみんな私以外、それはもうすごい魔法使いなのだ。たとえ猛吹雪の中でも、山を下るくらいはできるだろうと思っていたのに。
ミレーヌ様とユリウスは真顔のまま、何か考え込む様子を見せている。いつもの二人なら「寒いしさっさと帰ろう」くらい言うはずなのに、嫌な予感がしてしまう。
不安な気持ちのまま腰に回されている腕をぎゅっと掴むと、ユリウスは形の良い眉尻を下げた。
「ああ、ごめんね。不安にさせちゃった? これからどうすべきか考えていただけだから、大丈夫だよ。絶対にちゃんと家に帰れるようにする」
「……そんなに良くない状況なの?」
「んー、そこそこかな」
普段なら何でも「余裕」と言うユリウスがそう言うのだから、私からすれば超絶大ピンチな状況なのかもしれない。宿泊研修の際、ドラゴンと密室に閉じ込められた時ですら、余裕綽々だったのだから。
落ち着かなくなっていると、隣から声を掛けられた。
「お前、気づいていないのか?」
「えっ? 誰?」
「バカ、俺だ」
吹雪でメガネが使い物にならないらしく、吉田はノーメガネ&雪で髪も白くなっていて、一瞬誰かと思った。
そう言えば、さっきまでここにいたアーノルドさんが消えていることにも気付く。どこへ行ったのだろう。
「俺達は今、山頂の辺りにいるんだ」
「ええっ!?」
驚きすぎて大声が出てしまい、吉田に「うるさい」と怒られてしまう。けれど、驚くのも当然だ。
だって私達は先程、ベルマン山の中腹辺りにいて、そこから崩れ落ちた地面と共に落下したのだ。
それなのに頂上にいるなんて、間違いなくおかしい。けれどさっき感じた違和感の正体にも、納得した。
高い場所では高い木が生えなくなるというし、空気が薄いのも頷ける。何より標高が上がるほど気温は下がっていくため、ユリウスには辛いだろう。私も寒い。
「ど、どうしてそんな摩訶不思議なことに……」
「きっと魔物のテリトリーに引きずり込まれたのね」
「魔物って──あ!」
地面が崩れる瞬間、金色の目をした巨大な影を見たことを思い出す。あれがその魔物だったのだろう。
「あれって、何だったの……?」
「……分からないけど、相当な相手なのは確かだ」
ほんの一瞬、間があったことで、ユリウスは相手が何なのか予想はついているのかもしれないと思った。
そんな中、少し前に飛ばした鳥のようなものが戻ってきて、ミレーヌ様は大きな溜め息を吐いた。
「予想通り私達、閉じ込められているわ。下に向かって進んでも、いつの間にか元いた場所に戻されるみたい」
「えっ!?」
「ああ、やっぱり」
衝撃の事実を知らせてくれたミレーヌ様も、それを聞いたユリウスも平然とした様子でいる。
吉田は流石に少しだけ焦ったような顔をしていて、私の反応が正常なのだとほっとした。この二人が落ち着きすぎているのだ。
「ねえねえ、あっちに小屋があったよ」
どうやら近くを見回っていたらしいアーノルドさんが戻ってきて、東の方向を指差す。
「…………」
楽しい狩猟大会から一転、ベタな遭難、突然の吹雪、そして怪しい謎の山小屋。珍しく私のヒロインとしての勘が、これは非常に良くない展開だと言っている。
漫画やゲームで1億回は見た、人肌で温め合うというベッタベタの展開だけはやめてほしい。
とは言え、このままでは寒さで体力が消耗するだけだしと、ひとまず全員でその小屋へ向かうことにした。