狩猟大会に向けて 3
「どうして俺も誘ってくれなかったの? ショックで食欲も失せるし冬休み中ずっと寝込みそうだよ」
「私達が狩猟大会に出ると話したら、朝からずっとこの調子なの。面倒で仕方ないわ」
アーノルドさんは本気で悲しんでいるようで、ユリウスに殴られた箇所をさすりながら、子犬みたいなまなざしを向けてくる。
困ったことにとても顔が良いため、通常の10倍くらいの罪悪感が押し寄せてきた。
「す、すみません……」
「いやお前、全然こういうの興味ないじゃん」
「俺はみんなと遊びたいんだよ」
ストレートなアーノルドさんの気持ちに、私は胸を打たれていた。仲良しメンバーのお出かけに誘われなかったら、私だって寂しくて悲しいはず。
「チームって絶対に四人までなの? アーノルドさんも一緒に参加できないのかな」
「登録は四人だね。一緒に行動しても問題はないけど」
「じゃあ俺、個人で参加して混ざろうかな」
「ぜひ! そうしましょう!」
「ま、好きにすれば」
そうしてアーノルドさんの参加も決まり、より楽しみになる。嬉しそうなアーノルドさんの笑顔の眩しさに目が痛みつつ、満更でもなさげなユリウスとミレーヌ様のツンデレぷりにも萌えた。
Sランクのアーノルドさんは戦闘能力も高く、一緒に行動してくれるだけで、とても心強い。
「こいつが一番友達いないから」
「えっ? 意外」
「酷いなあ。でも、冬休みは色々楽しみだね。狩猟大会もそうだし、レーネちゃんの──」
そう言いかけた途端、ユリウスとミレーヌ様が笑顔のまま、アーノルドさんをものすごい勢いで殴りつけた。
何故か吉田まで慌てた様子で、一体どうしたんだろうと困惑してしまう。絶対に今のは痛い。
「わ、私の……? 私がどうかしたんですか?」
「アーノルドったら嬉しすぎて、頭の中身が吹っ飛んでしまったみたい。いつものことだから気にしないで」
「うん、レーネは何も気にしなくていいよ」
よく分からないけれど「分かった」と言えば、何故かみんなはほっとした様子をみせた。
◇◇◇
ランク試験が終わってからは本当に日々があっという間で、勉強とユリウスと弓の練習を続けているうちに、冬休みまであと三日となった。
この世界にクリスマスやお正月はなく、冬のメインイベントがないと言うのはなんだか落ち着かない。とは言え、私は元々誕生日同様、寂しいクリスマスや年末年始を過ごしていたのだけれど。
ないなら作れば良いじゃないということで、冬休みにはクリスマスっぽいパーティーをすることにした。
「じゃあ、当日はみんなで鍋パと雪合戦しようね!」
「よく分かんねーけど、楽しそうだし全部やろうぜ」
「…………」
「僕はレーネちゃんがやりたいものをやりたいな」
色々と案を出してみたところ、この世界にはないイベントや遊びにみんな興味を持ってくれて嬉しい。
ついでに私は昔から、友人との鍋パやタコパ的なものに憧れていた。もちろんこの世界に鍋はないけれど、大鍋でそれっぽいものをすることは可能だろう。
あとは貴族であるみんなは雪合戦をやったこともないらしく、ルールを説明したところ、ヴィリーなんかはかなりワクワクした様子をみせた。
「吉田のメガネに当てたら得点倍な!」
「は?」
「ふふ、楽しみだな」
最高の友人達に恵まれ、私の転生当初の目標である「学生生活を楽しむ」は既に達成できている気がする。
後は恋だけれど──と考えたところでユリウスの顔が出てきて、私はぶんぶんと首を左右に振った。
「レーネといると、色々な楽しみができて嬉しいわ。いつも仲良くしてくれてありがとう」
「テ、テレーゼ……! 私こそありがとう、大好き!」
ミレーヌ様同様、高嶺の花であるテレーゼは近寄り難いせいか、貴族としての付き合いはあっても、友人と遊ぶことはあまりなかったという。
これからもみんなで毎日を楽しみ、たくさん思い出を作っていきたい。きっと学生時代の三年間なんて、本当に一瞬で過ぎ去っていってしまう。
「そうだ、ラインハルトは何かしたいこととかない? いつも私の意見を聞いてくれてるし」
「僕? 僕はいつかみんなで旅行に行きたいな。秋休みの吉田さんとヴィリーとの旅行、羨ましかったから」
「喜んで代わったが」
私が鼻血を出して気絶していた間、他校でコスプレをして一人で授業受けていた吉田の言葉は、重みが違う。
「旅行なら、国外に行くのも良さそうね」
「こ、国外……! すごく行ってみたい!」
「…………」
「えっ、そうなんですね! 流石セオドア様」
王子は立場上、他国に行く機会も多いらしい。知人も多いようで、とても頼りになる。
国外旅行となると大きな話になるため、来年の長期休暇に向けて予定を合わせ、計画を立てることになった。
どんどん楽しみな予定ができて、胸が弾む。その一方でやるべきこともしっかり頑張ろうと、気合を入れた。