TKG 2
「う、うわあ……! すっごくかっこいい!」
ユリウスが開封すると、白と金の弓が姿を見せた。
様々な大粒の宝石が埋め込まれており、それぞれ攻撃力の上昇や防御魔法などの効果があるらしい。
一言で言えば、美しかった。綺麗で格好よくて洗練されていて、これが自分の弓だと思うと胸が弾む。
「あれ、そう言えば矢は?」
「レーネの魔力から作られるよ」
「えっ、超すごい」
あまりのファンタジーっぷりや便利さに、素で驚いてしまった。魔力を込めて弦を引くと矢が生成されるらしく、魔力切れするまでは矢を射ることができるという。
各属性魔法を上手く扱えるようになれば、矢に火や水などの魔法効果を付与することもできるんだとか。可能性が無限に広がり、わくわくしてくる。
目を輝かせて弓を見つめていると、ユリウスとミレーヌ様が困惑した表情を浮かべていることに気が付いた。
「……これ、本当に普通の弓なの?」
「多分。店主がレーネをやけに気に入ってはいたけど」
「どう見ても並の品じゃないわ。何でできているの?」
「龍骨とは聞いてるけど、詳しくは聞いてなかったな。それにしても、鳥肌が立つくらいの魔力だね」
二人はこの弓から何かを感じ取ったらしく、顔を見合わせている。
これはあれだ、バトル漫画でよくある〝強者だけに分かる感覚〟というやつなのだろう。
「確かに桁違いだよね……」
もちろんへっぽこ魔法使いの私にはさっぱり凄さが分からないものの、場の雰囲気に合わせて腕を組み、神妙な顔でそれっぽいセリフを言っておく。
何が桁違いなのかも謎だけれど、悪い意味で私の魔法における偏差値が二人と桁違いなのは確かだ。
「とにかく、一度手に持ってみなよ。俺の剣を取りに行く時に詳しく聞いておくから」
「うん、ありがとう!」
ドキドキしながら、差し出された弓を受け取った。
見た目は大きめでしっかりしているものの、魔法で軽量化されているようで、簡単に持つことができる。
不思議と昔から知っているような、手に馴染むような感覚があった。
──これが、私のための武器。この弓に見合うような実力を身につけたいと、やる気が溢れてくる。
「そうそう、名前をつけるといいわ。弓に魔力を込めながら念じるの」
どうやら名前を付けた方が武器との親和性が高くなるらしいものの、悩んでしまう。
「うーん……どうしよう……全然思いつかないです」
「難しく考えなくていいのよ。この弓を見て感じたものや連想したもの、好きなものとか。私は赤い槍を使っているんだけど、ガーネットと名付けたわ」
「か、かっこいい……!」
名前もそうだけれど、槍で戦うミレーヌ様を想像するだけで胸がときめく。間違いなくその姿は、戦場に舞い降りた女神のように美しいはず。
そして実は、この白と金のコントラストの色合い、何かに似ているとずっと感じていたのだ。
「あ、そうだ、卵かけごはんみたいな──あっ!?」
思わずそう呟いた瞬間、弓はぱあっと明るく光った。何が起きたのか分からず呆然とする私の手元を、ユリウスは覗き込む。
「名前、決まったみたいだね」
「え…………?」
今の光はなんと武器が名前を認識した証らしく、冷や汗が止まらなくなる。
何ということだろう。この超絶かっこいい素敵な弓の名前は「卵かけごはん」になってしまった。
このままではシリアスな戦闘シーンも、ぶち壊しになってしまう。慌ててやり直せないか尋ねたものの、もう無理だと言われてしまった。
「それで、どんな名前にしたの?」
「ええと……TKGです……」
略すと少しだけマシになった気がする。
「かっこいい名前ね。どういう意味なのかしら」
「その……私の好きなものです……」
「うん。強そうだ」
なぜか二人からは高評価で、戸惑いを隠せない。
この世界に卵かけごはんが存在しないことに心底感謝しながら、私はTKGに「よろしくね」と声をかけた。
この先一緒に頑張っていく相棒なのだ。大切にしなければ。何より卵かけごはんは大好きだし、良しとする。
「ユリウス、本当にありがとう!」
「どういたしまして。後で練習してみようか」
「うん、お願いします」
ひとまずTKGはベッドの上に大切に寝かせておき、メイドにユリウスの分のお茶を頼むと、再び着席した。
実はこの三人で過ごすのは初めてのため、以前から気になっていたことを尋ねてみる。
「そう言えば、お二人はいつから仲が良いんですか?」
「全然良くないけど、付き合いは長いわよ。初めて会ったのは8歳くらいの頃かしら」
「そうだね。公爵家の集まりで、ミレーヌが顔だけで俺をエスコートに選んだ時からかな」
やはり貴族令息令嬢は幼い頃から両親に連れられ、色々な場に顔を出す機会が多々あるらしい。