ランク試験(一年冬) 1
本日2話目の更新です。
この世界に来て初めて雪が降った朝、私はローザに高い位置で髪をひとつに結んでもらい、気合を入れた。
実は髪を結んでいるリボンには「必勝!」と手縫いで書いてあり、ハチマキ代わりにしている。
「いよいよランク試験ですね。頑張ってください」
「ありがとう、全力で頑張ってくるね!」
お礼を言って食堂へと向かうと、そこには既に両親とユリウス、ジェニーの姿があった。
ジェニーはウェーブがかった金髪を私同様ひとつに結んでおり、私の姿を見た瞬間、形の良い眉を寄せる。
「ジェニーと今日、髪型お揃いだね」
「は? 気のせいじゃないですか」
そう言うなりジェニーは一瞬にして髪を結んでいたリボンを解き、長い髪を背中に流した。あまりにも酷い。
今日も妙な清々しさを感じながら、私も席に着く。
「今日はランク試験だろう、三人とも頑張りなさい」
「頑張ります」
「はい」
父の言葉に対し私とジェニーは返事をしたものの、ユリウスは何も言わず飄々とした様子だった。
「ユリウス、聞いているのか」
「俺が今回Sランクじゃなければ、勘当してくれて構いませんよ」
ユリウスはコーヒーの入ったカップ片手に余裕の笑みを浮かべ、そう言ってのける。父もそれ以上は何も言えないようで「そうか」とだけ呟いた。
──前回のランク試験の結果のせいで、ユリウスが酷く叱られたと知ったのはいつだっただろうか。
全て私とジェニーのせいで胸が痛んだものの、謝ってもユリウスは困るだけだと思い、謝罪の言葉を呑み込んで「いつもありがとう」とだけ伝えた。
するとユリウスはいきなりどうしたの? なんて言って笑い、頭を撫でてくれた覚えがある。
「レーネも最近頑張っているな。期待しているぞ」
「えっ? あっ、ハイ……」
父にそんな風に声を掛けられたのは初めてで、驚き動揺してしまう。それは私だけでなく母やジェニーも同じだったようで、二人も目を見開いていた。
てっきり私なんてどうでもよく、ジェニーだけを可愛がっていると思っていたものの、父が可愛いのは「魔法に長けた娘」なのかもしれない。
魔法至上主義とは聞いていたけれど、ここまで分かりやすいとは思っていなかった。
とは言え、ウェインライト家の闇の9割は間違いなく父のせいなのだし、当然な気もする。諸悪の根源だ。
なんだか嫌な空気の中で朝食を終えた後、戻って支度をして部屋を出ると、ユリウスが待ってくれていた。
高そうなコートだけでなく、今日は暖かそうなマフラーまでしており、防寒対策はばっちりらしい。それにしてもどんなものでも似合うなと、感心してしまった。
口元が隠れているマフラー姿は正直、あざと可愛い。
「朝から散々だったね。行こっか」
「本当にね」
顔を見合わせて苦笑いしつつ、馬車へ向かう。玄関を出た瞬間、冷たい風が頬を撫でていく。
はらはらと雪が少しだけ降っていて、少しだけテンションが上がってしまう。積もった後は子供の頃できなかった雪合戦なんかも、ヴィリー達を誘ってしてみたい。
「……さむ」
「そんなに? 大丈夫?」
一方、ユリウスは小さく頷くと、私にくっついた。繋がれた手はコートのポケットの中に入れられ、温かい。
「俺、寒さに弱いんだよね。あっためて」
「だからそんなに厚着なんだ」
「そ」
ユリウスにも苦手なものがあったようで、申し訳ないけれど少しだけ嬉しくなって笑うと、怒られた。
「レーネはあったかいね。子供みたい」
「それ、褒めてる?」
「もちろん」
馬車の中は暖房代わりの魔道具のお蔭で外よりも温かいけれど、ユリウスはぴったりと隣に座っている。
時折小さくふるっと震えていて、どうやら本当に寒さに弱いらしい。少しでも温かくなるようにぎゅっと手を握り返せば、ユリウスが小さく笑った気がした。
「……ふう」
やれることは全てやってきたつもりだけれど、当日はどうしても緊張してしまう。何度か深呼吸を繰り返していると、ユリウスが口を開いた。
「Dランクくらい大丈夫だよ、学園祭の加点もあるし」
「人というのは大変欲深いもので、もしかするとCランクもギリギリいけるかなって夢を見てしまい……余計に緊張してしております……」
「いい緊張感じゃん。俺は絶対いけると思うけどな」
やはり頑張った分、期待してしまうのも事実で。私はありがとうとお礼を言うと、過去効果があった試しはないものの、手のひらに「人」と3回書いて飲み込んだ。
「ま、良い結果で終わらせて狩猟大会に備えようか」
「そうだね! 冬休みも楽しみがたくさんだし、明るい嬉しい気持ちで迎えたいな」
そう、もうすぐ冬休みがやってくるのだ。夏休み同様ユリウスや友人達と、楽しく過ごしたいと思っている。
ちなみにミレーヌ様も狩猟大会へのグループ参加を快諾してくれ、より楽しみになっている。
なんと私に、使っていない狩猟服もくださるらしい。防寒のための魔法がかかっているものは薄着でも暖かいけれど、貴重な上にお値段もとんでもないんだとか。
ミレーヌ様は超絶スタイル抜群のため、色々と控えめなこの体型で大丈夫かという不安が多少はあるけれど、とても嬉しい。やはりお姉様と呼ばせていただきたい。
窓の外へ視線を向けると学園が近づいて来ており、私は慌ててポケットからとあるアイテムを取り出した。
少しだけ緊張しながら、ユリウスに差し出す。
「こちらつまらないものですが、良かったらどうぞ」
「……これは?」