恋を知る 6
帰宅後、ユリウスは私の部屋の前まで送ってくれ、私は深く頭を下げてお礼を告げた。
「ユリウス、今日は本当にありがとう! すごく楽しかったし、色々と助かりました」
「どういたしまして、俺も楽しかったよ。後で早速魔法付与の練習もしよっか」
とことん優しいユリウスに最後の最後まで恐ろしさを感じながら自室へ入り、私の後に続きメイド達が買ってきた荷物を運んできてくれる。
結局ユリウスは魔道具店に行った後、私のドレスやアクセサリーも大量に購入してくれたのだ。
ちなみに魔道具の弓はユリウスの勧めで、既製品ではなく私の体型や魔法属性に合わせ、オーダーメイドのものを作ってもらうことにした。
ユリウスが注文しているのを側で見ていたけれど、魔法付与された宝石などオプションを山盛りにしており、最終的な金額を見た瞬間、腰を抜かしそうになった。
前世の私の年収の数年分で必死に止めたものの、さらに高額な剣の代金と共にさっと払ってしまった。
『だ、代金は一生かけて返します……』
『代金なんていらないから、一生の方をちょうだい』
ユリウスはそんなことを笑って言い、その後も色々と爆買いしていたのだから恐ろしい。
どうやってそんなにもお金を稼いでいるのかと尋ねたところ、仲間と投資や事業をしたり、割の良い仕事をしているという答えが返ってきた。
仲間というのは学園外の人らしく、悪影響を及ぼすため私には絶対に会わせたくないという。
「私、やっぱりユリウスのこと全然知らないのかも」
ぽつりと一人になった部屋で、そう呟く。家族のことも過去の事情も、仕事も何もかも。
そしてそれがとても寂しく、もどかしく感じてしまうことにも気付いていた。
「……本当、怖いなあ」
どんどん自分の中でユリウスの存在が大きくなっていくのを感じながら、私は煩悩を捨てようと着替えもそこそこにして、机に向かった。
◇◇◇
週明けの放課後、私はいつものように図書室の自習スペースにてテレーゼとヴィリー、吉田と共に仲良く勉強をしていた。
ランク試験まで残り二週間を切り、自習スペースもかなり賑わっている。やはり相対評価のカースト制度なんてふざけたものがあるため、みんな必死なのだろう。
特にFランクの生徒はもう後がない。私としてもやはり他人事ではなく、背筋が伸びる思いがした。
「えーと……ニュシア草とリママヤ……ん? リマムアルーヤの花の実を……」
前回、筆記試験のせいでランクが下がったヴィリーも珍しく少しは焦りを覚えているようで、うんうん唸りながら真面目に机に向かっている。
「その辺りの薬草は名前が似ていて、ひっかけ問題が出るって兄が言っていたわ」
「まじかよ……こんなの覚えて何の役に立つんだ?」
「魔法薬学の授業で私が被害を被らなくなる」
「さ、勉強頑張っちゃおうかなー」
調子の良いヴィリーの横で、私の向かいに座る吉田は
黙々と問題を解いている。
じっとその姿を見つめていると、私の視線に気が付いたようで「何だ」と口を開いた。
「実は私、吉田くんに話があって……」
「嫌な予感しかしないな」
失礼な吉田はペンを握る手を止め、顔を上げる。
「ユリウスと狩猟大会に出ようと思うんだけど、吉田も一緒にグループ参加はどうかなって」
「ああ、いいぞ」
「そうだよね、やっぱりダメ──ええっ!?」
想像の1億倍あっさりとOKされ、戸惑ってしまう。驚く私の前で、吉田はくいと眼鏡を押し上げた。
「本当にいいの? お父様と一緒に出なくて大丈夫?」
「俺は結局、父達の足手まといでしかなかったからな。俺に気を遣って共に行動してくれていたが、友人と参加すると言えば父も安心して存分に腕を振るえるだろう」
なるほどと吉田の事情を理解しつつ、当然のように友人と言われたことで、ついつい口角が緩んだ。
とにかく吉田も一緒に参加できるようで、胸が弾む。ミレーヌ様はユリウスが声を掛けてくれる手筈になっているため、後で結果を聞くのがドキドキだ。
「へー、いいな! 俺もいつか出たいと思ってたし、毎年参加してる兄ちゃんに聞いてみるかな」
「私も予定が合えば見に行きたいわ」
ヴィリーとテレーゼも興味があるようで、みんなも一緒ならもっと楽しみになりそうだと、笑みが溢れた。
「吉田って、マイソードはあるの?」
「何だその呼び方は、もちろんあるが」
「うわあ、楽しみ」
ユリウスだけでなく、剣を使って戦う吉田の姿を見られるのも楽しみで仕方ない。
前回スパルタで辛かったけれど、機会があればぜひまた剣術も教えてもらいたい。
「よし、まずはランク試験を倒さないと!」
「うわっ……ワクワクしてた気持ち秒で吹っ飛んだわ」
がっくりと肩を落とすヴィリーを励ましつつ、私は元気に教科書を再び開いたのだった。