恋を知る 5
「男の人達が狩りをしている間、女の人達はどこで何をして過ごすの? 外で待機?」
「まさか。離れた温かい場所でお茶とお菓子を囲んで、のんびりお喋りして過ごすらしいよ」
「わあ、えらい差」
この世界では割と普通のことらしいけれど、驚いてしまう。ユリウスが雪の中で危険を伴う狩りをしているというのに、私だけぬくぬくとお喋りをしていると言うのも、なんだか落ち着かなさそうだ。
「あと、少しだけど女性も参加するよ。ミレーヌも去年は大物を仕留めたって聞いたな」
「さ、流石ミレーヌ様……痺れる憧れる……!」
学園祭でも大変お世話になった超絶美女であるSランク公爵令嬢ミレーヌ様は、やはり流石だ。狩猟服姿もさぞ美しいのだろうと、想像するだけで笑顔になった。
「学生も参加できるものなんだね」
「うん。主催のシアースミス家は筆頭公爵家だし、色々とアピールしたい学生は多いと思うよ。公爵家の騎士団なんかもエリートコースだし」
「なるほど、みんな頑張り屋だ」
同世代の学生が将来のために頑張っていると聞くと、私も将来を見据えていかなければという気持ちになる。
前世のようにお金に釣られてブラック会社に就職し、何の興味もない誰にでもできるような作業を朝から深夜まで延々とするようなことだけは、絶対に避けたい。
思い出しただけでも涙が出そうだ。
「私もいつか参加できるくらい、強くなりたいな」
「なに? レーネも出たいの?」
「かっこいいなと思っただけで、今の私にはその辺で雪玉を作るくらいしかできないし」
「兎一匹くらいなら狩れると思うよ。一緒に出る?」
なんと狩猟大会は個人とグループで分かれており、後者は四人一組だという。
グループの方は個人と比べてお遊び感が強いようで、私が出ても何の問題もないらしい。
「少しでもレーネに出たい気持ちがあるのなら、一緒に出ようよ。いい思い出になりそうだし」
「私、絶対に超足手まといだよ? 本当にいいの?」
「俺はレーネと出れるだけでいいから」
「うっ……」
ユリウスはそう言って、綺麗に口角を上げてみせる。
そんな風に言われて嬉しくないはずなんてないし、断れるはずがない。ユリウスの口から「思い出」という言葉が出たことに対しても、内心嬉しく感じていた。
何より私自身、ユリウスと様々な場所に行って色々なことに挑戦して楽しんで、たくさんの思い出を作りたいと思っている。こくりと頷くと、私は顔を上げた。
「ありがとう、不束者ですがよろしくお願いします!」
「うん。ランク試験が終わったら、狩り用の魔法の練習をしよっか。レーネ、弓は扱えるんだっけ」
「あ、普通に魔法を使うよりは正確かもしれない」
私は前世で少しアーチェリーをかじっており、体育祭でも土壇場で出場し、なんとか優勝した過去がある。
命中率の低いへっぽこ魔法より、的中率が高そうだ。
「この先レーネの強みになるかもしれないし、弓の魔道具も用意しておこうか。二年からは魔物との戦闘実習もあるし、三年の卒業試験ではメインになるから」
「な、なんですって……!?」
どうやら私の命運がかかった三年の卒業試験では、自ら対戦相手の魔物のランクを選び、倒せるかどうかという戦闘シミュレーションが技術試験にあたるらしい。
Sランクを目指す私としては、できる限り強い魔物を倒せるようになっておかなければならない。まだまだやるべきことは尽きないようで、逆に燃えてくる。
「マイ武器、すごく欲しい!」
「俺も剣を新調したかったし、この後見に行こうか」
食事を終えた後は魔道具店に行くことになり、ファンタジー感があってワクワクしてくる。この世界にはまだまだ私の知らないことや初めてがあって、胸が弾む。
そしてさりげなくユリウスは剣と言っていたけれど、間違いなく剣を振るう姿はかっこいいだろうと、また恐ろしくなった。底が見えなすぎる。
「グループで出るならあと二人一緒に参加するメンバーが必要になるけど、どうしようか」
「吉田とミレーヌ様、誘ったら参加してくれるかな?」
「ミレーヌは毎年付き合いで嫌々参加してるから、喜んで誘いに乗ると思うな。ヨシダくんは真剣に個人で出てる可能性もあるし、聞いてみるのが良さそうだね」
「うん、そうする!」
吉田は学園内外問わず私のお世話係と監視係をし続けているため、そろそろ断られてもおかしくはない。
パーフェクト学園行きも、必死に縋り付いて同行してもらったのだ。今回は断られた場合、大人しく諦めようと決め、週明け二人を誘ってみることにした。