やっぱり情報量が多すぎる
「えっ……ええっ!?」
アンナさんからの手紙を読み始めてすぐ、私は思わず大きな声を上げていた。
「こ、このゲーム『マイラブリン』って略称なの!?」
そう、手紙には何気なく「それで『マイラブリン』についてだけど〜」と書かれており、この流れは間違いなく私達が転生した乙女ゲームの略称だろう。
正式名称は未だに分からないものの、とてつもなくダサいのは伝わってくる。マイラブリン。
ハートフル学園、パーフェクト学園という学園名を知った時から期待は全くしていなかったけれど、かなりやばいオーラを感じながら、手紙を読み進めていく。
「ふむふむ……やっぱりターン制の作業ゲーだから、好感度は関わる回数で変わるんだ。」
けれどアンナさんからの手紙には、本来のゲームはそうであっても、実際は違う気がすると綴られている。
ゲームのようにただ声を掛ければ良いというわけではなく、やはり普通の人と人との関わりと同じく、私達自身の言動によって好感度が変わるのだと。
かなり関わっている攻略対象の中に、アンナさんを嫌っている相手もいるらしい。確かにセシルもアンナさんと割と関わっている中で、好いている様子はなかった。
「……よかったあ」
私一人の考えだけでなくアンナさんの意見も聞けたことで、予想は確信へと変わる。
そして同時に、私は心底安堵していた。友人達やユリウスが向けてくれる好意が、ゲームシステムのせいではないと改めて実感できたからだ。
「あ、ルート分岐は一年の冬なんだ。でも好感度も関係ないなら、これもあまり気にしなくて良いかも」
この世界の人々が自分の意思や気持ちから動いているとすると、ゲームのようにルート分岐後、大きな変化が起こるとは思えない。
私が本来のストーリーやイベントを知らないから分からないだけで、これまでも思い切り本来のゲーム展開と違っていた可能性がある。
ちなみにルート分岐前でも、魔力量は一番親密な相手の好感度に比例するらしい。となると、私の今の魔力量はユリウスの好感度次第なのかもしれない。
「アーノルドさんは……逆パケ詐欺!?」
そしてアーノルドさんはパッケージイラストが作画崩壊しているらしく、実際とはほぼ別人らしい。
見た目どストライクなのに、当時の私が全く反応しなかったことにも納得がいく。アンナさんは不憫なところも含めて推しらしく、今度会いたいと書いてあった。
驚きと予想外の事実の連続に、ドキドキしてしまう。
「ええと、もうすぐ怖くて──……」
そんな中、ラスト2行になった手紙を読み進める。
【もうすぐ怖くて大変なイベントがあると思うけど、頑張ってね♡ 杏奈は最初そこで何度も失敗して、ロード繰り返したなあ。それじゃ、またね♡】
「いやいやいや、そこってどこ? あの、一番大事な説明が思いっきり抜けてるんですけど」
ただ恐ろしいことが起こるという予言だけされ、無情にも手紙は終わってしまった。
傾向と対策も示されず、ただ恐怖だけが残り、これなら何も聞かなかった方が良かった気さえする。アンナさんの手紙は毎回、大きな爆弾を落としてくれていた。
「……と、とにかく前進のみ! おー!」
色々と気になることはあるものの、とにかく目の前のすべきことを一生懸命頑張り、周りの人達を大切にすることに変わりはない。気合を入れ、片手を突き上げる。
あまり頻度が高いと負担になるだろうし、数ヶ月後にまたアンナさんに手紙を出そうと決める。
レアアイテムらしいぴったり嵌まったままの指輪についてなど、まだまだ聞きたいことはあるのだ。
そう言えば、二年に一回行われるという2校の交流会が私達が2年生の時にあるらしいし、そこでゆっくり話ができたりするかもしれない。
アンナさんからの手紙は誰かに見られては困るため、クローゼットの中の小箱にそっとしまう。その際、レーネの母からの手紙が目に入り、私は手を止めた。
「す、少しだけ、失礼します……」
この手紙を読めば、この歪な家やレーネとユリウスについて、少しは分かるかもしれない。そう思い、今回は上から二通目の手紙をそっと開いてみる。
やはり病院からの手紙のようで、近況報告やレーネを気遣う優しい言葉の数々に胸が温かくなった。
今の両親である伯爵夫妻は最低最悪ではあるものの、レーネは母から深い愛情を受けていたのだと知り、何故か嬉しいような安堵するような気持ちになる。
そして感動している最中、私の口からは「えっ」という間の抜けた声が漏れてしまう。
「えっ……ええっ!? ええええええ!?」
本日一の驚きに、思わず手紙を落としそうになる。
「デイビッド──あなたの本当のお父さんから連絡があったけれど、レーネは元気かと心配していたわ」
呆然としながらも、なんとか手紙を音読する。
確かにユリウスとは血が繋がっていないし、伯爵の子ではないレーネには、実の父親が存在するはずだ。勝手に死別だと思っていたものの、円満離婚だったらしい。
心臓がばくばくと大きな音を立て、早鐘を打つ。
「それと、ルカーシュも元気そうで安心したわ。あんなに小さかったのに今では身長も伸びて、レーネお姉ちゃんに会いたいと言っているみたい……よ……」
そこまで読んだ私の手からは手紙が滑り落ち、はらはらと床の上を滑っていく。本当に待ってほしい。
「……わ、私……弟がいるの……!?」
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