「好き」の理由
学園祭が終わり、1年冬のランク試験まで1ヶ月を切った。私は朝から晩までひたすら、勉強に励んでいる。
今日も放課後、吉田に泣きついてお願いし、二人で仲良く空き教室で勉強をしていた。
「ねえ吉田、この問題ってこれであってる?」
「正解だ」
「ありがとう。こっちもこの術式であってる?」
「ああ、正解だ」
「それと私って、結婚したいくらい魅力的かな?」
「間違いなく不正解だ」
「ちょっと」
とは言え、勉強しながらもやはりユリウスの告白という名のプロポーズが、時折頭をよぎって集中できない。
そんな中、質問ついでに吉田にそう尋ねてみたところ表情ひとつ変えず、不正解だと言われてしまった。
吉田は溜め息を吐き、参考書から顔を上げる。
「一生お前の面倒を見たい奇特な人間がいるのか?」
「それがそうみたいなんですよ」
失礼な吉田に対し、学園祭前後のユリウスとの出来事をありのまま話したものの、吉田は驚く様子ひとつ見せずに「そうか」と呟いた。
「まあ、そんな気はしていた」
「そうなの?」
「ああ。お前に近づく男がいたら追い払うよう、常日頃言われていたからな。俺だけは信用できると」
「ええっ……さ、さすが吉田……」
ユリウスからの信頼度が高すぎる。いつの間にそんなお願いをされていたのだろうか。恥ずかしい。
「それほどお前のことが好きなんだろう」
「吉田……私のナイトになってくれていたなんて……」
「いや、俺は何もしていないが」
とは言え、普通に何もしていなかったらしい。私が全くモテていなかったからだ。恥ずかしい。
「で、何が言いたいんだ」
「なんというか私がユリウスみたいなハイスペックな人に好かれるのって、すごく不思議で」
そう、私はヒロインであり、ユリウスは攻略対象の一人なのだ。万が一、ゲームの強制力なんかで私のことを好きになっていたとしたら、恐ろしすぎる。
だからこそ、周りの男性陣で唯一攻略対象ではない吉田にあんな質問をしてみたのだ。
吉田は器用にペンを手の上でくるりと一回まわし、再び溜め息を吐いてみせる。
「……お前を好きになる理由なんて、いくらでもあるんじゃないか。底抜けに明るい所やバカみたいに一生懸命な所に、救われている人間は多数いると思うが」
私は吉田の言葉を聞きながら、じわじわと胸の奥が温かくなっていくのを感じていた。
「それに俺だって暇じゃないんだ。誰にでもこんな風に付き合ってやったりしない」
「よ、吉田……!」
「お前に恋愛感情を抱くことは一生ないがな」
私はとてつもなくポジティブで脳天気でメンタルが強い自信はあるけれど、色々と上手くいかなかった前世のこともあり、自己評価が高いわけではない。
けれど嘘を吐かず、人を見る目がある吉田にそう言ってもらえるのは何よりも嬉しくて、自信になった。
そもそもゲーム世界とは言え、誰かの気持ちを疑うのは良くないし、もう二度と気にしないことにする。
「本当にありがとう! 吉田の告白、嬉しかった」
「俺の話を聞いていたか?」
「吉田!!!! 大好き!!!!!!!」
「うるさい、触るなバカ」
ペンを放り投げて吉田に抱きつくと、思い切り顔面をぐいぐいと手で押し退けられた。本当に女子への扱いではないけれど、好きだ。
「私ね、嬉しいことがあった時に最初に報告したいなって思うのも、一番何でも話せるのも、吉田だから!」
「……フン」
吉田はそれだけ言うと、私から顔を背ける。もしや照れているのかと尋ねたところ、めちゃくちゃ怒られた。
ユリウスも今すぐ返事を欲しい訳ではなかったし、ゆっくり自分の気持ちと向き合っていこうと思う。
「ちなみにこの先の問い、全部間違えているぞ」
「えっ…………」
そして今、一番心配すべきはランク試験だった。
悩みも解決し普通にやばいと焦り出した私は、今度こそ集中して勉強を再開したのだった。
その後、帰宅すると庭先でユリウスに出会した。勉強の気分転換に散歩をしていたらしい。
ユリウスはいつだって、努力を欠かさない。そういうところにも、私は尊敬の念を抱いていた。
「おかえり。遅かったね」
「ただいま! 吉田と友情を深めてきたんだ」
「あはは、それは良かった」
それからは当然のように二人で並び、歩いていく。肩と肩が触れ合いそうな距離に、少しだけドキドキする。
「ねえ、後で魔法付与について教えてもらっていい?」
「もちろん。夕食が終わったら部屋に行くね」
「ありがとう!」
そうして約束をし、部屋の前まで送ってもらった私はテーブルの上に可愛らしい封筒があることに気が付く。
私宛の郵便物らしく、手に取ってみる。
「はっ、これは……アンナさんからの手紙……!」
先日、好感度についてやルート分岐のタイミング、実は気になっていたアーノルドさんに見覚えがなかった件についてなど、アンナさんへのいくつかの質問を手紙に認め、セシルに送ったことを思い出す。
どうやらセシルがしっかり取り次いでくれたらしく、今度改めてお礼をしなければ。
「……よし」
そして私はドキドキしながら、ピンク色の花が描かれた封筒をそっと開封した。
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