学祭準備 4
翌日、私は授業の合間を縫ってみんなに出来立ての計画書を渡して回り、放課後には再び集まれるメンバーで話し合いをすることとなった。
そして今はユリウスとアーノルドさん、王子、吉田、ラインハルトと私、ミレーヌ様で前回と同じ空き教室に集合している。
やはり11人が毎回集まるのは厳しいだろうし、しっかり報連相をしていきたいところだ。
「レーネちゃん、すごいね。1日でこんなにまとめて来てくれるなんて。えらいえらい」
「ありがとうございます、アーノルドさん。ユリウスが手伝ってくれたお蔭です」
「俺は何もしてないよ、レーネが頑張っただけで。つーか勝手に触んないでくれる?」
私の頭を撫でるアーノルドさんの手を思い切り払うユリウスは、今日も強火シスコンだった。
みんな計画書の内容にOKしてくれ、この通りに活動を進めていくことが決まってほっとする。
「じゃあ、ひとまず私達がすべきなのは接客の練習、メニューの考案と試作くらいかな。内装については私とユリウスの方で進めます」
「私も飲み物のメニューを考えてくるわ」
「ミレーヌ様……! ありがとうございます、決まった後は調理室を借りて練習したいですね」
これなら学園祭の直前まで、週に2回ほど放課後に集まって準備をするくらいでいいだろう。
毎日放課後残って活動する多忙な日々を想像していたけれど、思っていたよりも余裕がありそうだ。
「でも、これくらいの忙しさでよかったかも。冬のランク試験の勉強もあるし」
「準備のない放課後は一緒に勉強しようね」
「うん、一緒に頑張ろう! ね、吉田」
「なぜ当然の如く俺も入っているんだ」
「よかったらセオドア様も一緒に勉強しませんか?」
「うん」
「あっ、ありがとうございます!」
明日の放課後は学園祭の準備はないため、ラインハルトと吉田、王子と共に勉強会を開くことになった。テレーゼ達も誘ってみようと思う。
とにかく、1日1日を大切にしなければ。
そして3日後の放課後には、第1回接客練習をすることとなった。一緒にお茶をするだけとは言え、やはり多少の練習は必要だろう。彼らはもちろんバイト経験などないし、普段はもてなされる側なのだ。
それからは今後のスケジュールなどについても話し合い、そろそろお開きにしようということになった。
「ねえ、レーネちゃんは学園祭、誰と回るか決めた?」
筆記用具を鞄にしまっていたところ、不意にラインハルトにそう尋ねられ、顔を上げる。
「ううん、まだ何も決めてないよ」
学園祭は二日間あり、出店は常にやっているもののシフトを組み、それぞれ自由時間を作るつもりでいた。
私自身もその間、しっかりお客さんとして他の出店を楽しみたいと思っている。
「時間が合ったら、一緒に回りたいな」
「もちろん! そうしよう」
「ありがとう、嬉しいな。よかったら後夜祭も──」
「ストップ」
ラインハルトがそこまで言いかけたところで、ユリウスが言葉を遮るように口を開いた。
「うちのレーネは俺と一緒に後夜祭の花火を見ることになってるんだ、ごめんね?」
「いや全然そんな約束してないけど」
「酷いな、レーネちゃん。俺との約束は嘘だったんだ」
「アーノルドさんも悪ノリしないでください」
勝手なことを言うユリウスやアーノルドさんに即突っ込むと、私達の会話を聞いていたらしいミレーヌ様がくすりと笑う。
「ふふ、レーネは大人気ね。それで後夜祭は結局、誰と一緒に過ごすの?」
「普通にみんなで仲良く花火を見たいです」
「だめよ、そんなの。折角の学園祭なんだから、一人の男性に絞らないと」
ミレーヌ様にはっきりそう言われ困っていると、「それならさ」とユリウスが口を開いた。
「出店で一番売り上げたやつでいいんじゃない?」
「えっ?」
「あら、すごくいいじゃない! モチベーションにもなるでしょうし、5人でしっかり争いなさい」
「ちょっ……ええっ?」
ユリウスの言葉に、やけに笑顔のミレーヌ様は両手を合わせて同意している。もしかしなくてもこれは、他人事だと思って楽しんでいる顔だ。
「──じゃあ、ナンバーワンを取った人がレーネちゃんと後夜祭の花火を見る権利を得られる、ってことでいいんですね?」
「うんうん、俺も燃えてきちゃったな」
「…………」
「もしかしなくても俺もカウントされていないか?」
「あの……ええっ?」
やけに乗り気なラインハルトとアーノルドさん、そして何故かこくりと頷く王子。まさかのまさかで、王子も私と花火を見たいと思ってくれているのだろうか。
安定の巻き込まれ吉田と私だけが戸惑う中、完全にその方向で話が進んでしまっている。
「お前らが俺に勝てるとでも思ってんの?」
そんな中、驚くほど自信満々なユリウスは私の肩に腕を置き、鼻で笑ってみせた。顔面偏差値が5億くらいある兄が言うと、ものすごい貫禄がある。
それにしても、まるで乙女ゲームのヒロインに起こるような展開だ。とは言え、なんちゃってヒロインの私でも誰かのやる気になるのなら、良いのかもしれない。
そもそも私以外、このメンバーにランク試験の加点を切実に欲している人間などいないのだから。
「ふふっ、誰が勝つのか当日が楽しみね?」
「そ、そうですね……」
するりとミレーヌ様に腕を絡められた私は、うっかりドキドキしてしまいながらも頷く。
こうしてナンバーワンホストの座──そして私と後夜祭を過ごす権、という割としょうもない権利を巡る戦いの火蓋が切られてしまったのだった。