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ミサンガ美沙子の人繋ぎ  作者: きういーさん
2/2

一話:綴 美沙子

えー、自己紹介が遅れた。


私の名前は綴 美沙子。


25歳、某有名自動車企業に去年入社した、まだまだ新人だ。


小学校時代、中学校時代の成績は中の中、


工業高校へ入学し、成績を中の上までどうにか上げ、


ちょっといい短期大学に入学、卒業までこぎつけた。


…非常に普通の人生だった。


「何故過去形なんだ」って?


だって…私は死んでしまったから。


しかも、誕生日の日に。


…いやまあここまでは前回の話…


問題はそこじゃない。


何故か、私の目の前には『私』がいる。


通り魔に刺され、どんどん血が流れ出している、


恐らくは現在進行形で、血液不足で意識を失っている『私』だ。


私を刺した通り魔は手に持った包丁で周りの人を脅している。


…私はどうしてしまったのだろうか。


しゃがんで、自分の…倒れている方の頬を触ってみる。


すると、触れたかに見えた指は頬を突き抜け、ついでに顔を貫通した。


なんとなく…分かっていたが、私は幽霊か何かになってしまったようだ。


…泣きたい気分だ。心の底から、涙が出てくるような。


でも、この状態では涙は出ないみたいだ。


家に帰ろう。今日は両親が私の誕生日を祝いに来てくれている。


…まだ、私の死が伝わっていないのだ。


1年ぶりの両親の笑顔を見ることは出来るはずだ。


そう考え、私はおぼつかない足取りでその場を離れた。


いや、その表現は正しくない。


離れ『ようとした』。


まるでコンクリートの壁にぶつかったような痛みと衝撃が全身を襲った。



「いったぁ…!!」



この身体になって初めて、私は声を出した。


響く、異様に響く。


私がぶつかったそこにそっと手を伸ばすと、


そこには見えない壁があるようで、


謎の力で押し返される。


困った、私はこの場から離れられないらしい。


テレビでよく見る幽体離脱は世界のどこでも飛んでいけると聞いたのに。


神様は私の最後の願いすら叶えてくれないようだ。


仕方なく私自身の身体の横にちょこんと座り、


その場でゆっくり待機することにした。



……10分後、


救急車が到着した。


割と早い方ではないだろうか、


通り魔はまだ逃げてない。しかも誰も刺してない。何故だ。


……11分後、


救急車に続いてパトカーが到着した。


通り魔は警官3人に取り押さえられて捕まった。


…愉快犯だったのだろうか?通り魔は最後まで笑っていた。


その後、警官たちは私の死体にブルーシートを被せて、


一般人を追い出していった。


…自分の身体が刑事事件として処理されていくのを見るのは…


正直気持ちが悪いというか、恐ろしいというか…


死体の位置を記録するチョークを引いた後、


私の死体はゆっくりと持ち上げられて


救急車の中へ運び込まれようとしたその時、


私は、自分の口から漏れた「うぇ」という怪音と共に


何故か後ろから『見えない壁』に押されて、


救急車の近くまで無理矢理立ち位置をズラされた。


なんなのだと思いながら、私はその場に立ち尽くす。


何故か見えない壁の位置が動いているようだ。


私がペタペタと壁を触って、それがどれほどのものか確かめていると、


救急車のエンジンがかかり、その扉が閉じられる。


いやな予感がした。


ゆったりと救急車は、その役割を果たすべく走り出す。


同時に見えない壁が私の背中を押し始める。


まるで救急車の中の私の身体に引き寄せられるように。


「えっ…ちょっちょっ!!!待って!!!!」


引き寄せられるというのは少し違う。


正確には、迫りくる壁が私の背を押している。


私は私の死体から離れられない、


なら当然、こういうことも起こる、ということか…


何故かは知らないが、地面の上をスケートの様に滑りながら、


私はその真実を、ゆっくりと確認した。




……………………………

………………………

…………………


救急車は、最寄りの病院へと、私の死体を搬送してきた。


…ここまで来れば、当然徒歩で…手術室?に運ばれるのだろう、


リアゲートが開き、私の死体が運び出されていく。


私はそれについて行くために、少々小走りで足を進めた。


ぶつかった。まただ、見えない壁だ。

         

何故だ。今まで『(お前)』は私に死体から離れるなと言って来たじゃないか。


今更なんで手の平を返すような真似をするのだ。


……そこからは早かった。


私は何故か、箱のようなものを持った救急隊員に引っ張られていった。


そして謎の宅急便と共に、両親の家まで運ばれていった。


……久しぶりに見た両親の顔は驚きと絶望と、涙に染まっていた。


……………


それは…置いておいて、結論から言おう。


私はどうやら、『遺品』から離れてはいけないらしい。


正確には『ミサンガ』だ。私が最期に付けていた『ミサンガ』。


…母がそれを握りしめて、泣いていた。


私が倒れた時の衝撃か、それとも通り魔が切ったのか?


千切れて紐になっていたそれは、ゆらゆらと震えていた。


……この休息中に、私は自分が出来ることを確認した。


何故だか分からないが、私はミサンガから、


3メートル以上離れることが出来ない。


また、幽霊らしく空を飛ぶことも出来ない。


しかし、集中すると、『持ち主が欲しいモノ』を見つけることが出来る。


母が財布を探している時は、それを見つけることが出来た。


…まあ見つけても特に意味がないのだが。


…やることもないのに、寝ることも出来ない。


両親の顔を見ていても、悲しくなるだけなのに。


なんで私は、この世界にとどまっているのだろう。


そう思って、私は日々を過ごした。


両親は私の死の色々で忙しそうであった。


葬式の準備も着々と進められ、


2週間後、私の葬式は、都会のビルの中で行われた。


結局、私がこんなことになっている理由は、分からなかった。


……黒服を来た親戚たちが悲しそうな顔で、私の死体に花を手向ける。


結局、なんだったのだろう。


私は、何故地獄にも、天国へも行けなかったのだろう。


彼らの、見知った顔が悲しむのを見たいわけじゃなかった。


悲しまれて嬉しいだとか、


そんな感情は微塵も湧かない。


ただ、悔しい。もっと生きたかった。生きたかった。






「……生き……たかった」





…しばらく聞かなかったから、誰の声かと思ってしまった。


これは私の声だ。私自身の声だ。


ずっと、頭の中で反響する。響く、ただただ響く声。




「……美沙子…?」




…母が、私の方を向いた。


確かに、私の名前を呼んで。


…聞こえたのか…?私の声が…



「母さん…?」



「ねえ美沙子…?そこに、いるの…?」



「…いる、私、ここにいる」



母は、フラフラと私の元へ歩み寄ってきた。


…他の参列者は、それを不思議そうな目で見ていたが。



「……美沙子…」



母は私に、手を伸ばした。


確かに、見えているかのように。


だが、その手が私の肌に触れることは無かった。


するりとすり抜け、その手は、空を切った。



「………」



母は、肩を落とした。


気のせいだったのだ。と


母親は静かに、私の棺桶の前まで歩いていき、


花を一本置いた。


「私はここにいる」なんて声は、もう届かなかった。


一瞬の奇跡だったのか、


私は、声を届けられない、普通の幽霊へと戻った。



「美沙子、あんたは強い子じゃなかった」



母が、棺桶へと、言葉をかける。


「いつも、友達にいじめられたって言いつけてきて、

 その度に私が慰めてたよね」


「…あんたが受験するとき、『無理』って、いつも言ってた。

 バカな自分にはこんな夢実現できないって、それが口癖になってた」


「…だから、このミサンガを作ってあげたんだよね。

 あんたは子供っぽくて嫌だって言ってたけど、

 受験の日にはそれ付けて行ってくれて、私は嬉しかった」


「……親より、先に行っちゃってさ……」




止めてくれ、それ以上喋らないでくれ、



じゃなきゃ、私は泣いてしまう。



泣かないでくれ、泣かないでと慰めてくれたのは母さんだから。




「…………このミサンガ、持って行って、切れたから、

 きっと、次は…好きな…人生を送れる……から…」




そう言って、母は私のミサンガを棺桶の上の花の上に乗せた。


涙の雫が床に落ちて散った。




黒服の知り合いたちは、母の花と、私の遺影に手を合わせて行った。


それが終わって、坊主が、私の棺桶の前に座った。



坊主がお経を唱え始める。



同時に、温かい感触が身体中を包む。



これが昇天というモノか、


私の身体は、少しずつ薄れていった。



母さん、父さん、今まで育ててくれてありがとう。



そう言っても、その声は誰の耳にも届かなかった。



……最後まで、私は母の、父の笑顔を見れなかった。


残念だ。だが、昇天できるのならそれでいい。


私は消えるのだ。何をするか分からない第二の人生だったが、


無駄に長引く前に消えられて、良かった。



………いいのか、それで。



…最後に、彼らの笑顔を見るために足掻いちゃダメなのか。



……………………………



私は走り出した。『それ』を掴むために。


掴めるかは分からない。でも消える前に、やるだけ、やらなきゃ。


その使命感が、私の身体を動かした。



棺桶の上に転がる『それ』は、以外にも、私の手に収まってくれた。



…お願いだから、彼らを、母さんと、父さんを。



笑わせてくれ。



私は、大丈夫だから。



…そう願って、私は『ミサンガ』を、投げた。



目を閉じた人間しかいなかったためか、


宙を待ったそれに気付く者はいなかった。



ミサンガは綺麗な弧を描いて、母の手にかかった。



それに気付いた母は棺桶を見た。



「私は…大丈夫だから!!!」



だから……この声が届いてるのなら……



「 笑 っ て !!!!!」

今回は、ミサンガ美沙子の人繋ぎ、第一話を読んでくださってありがとうございます。

趣味での投稿となりますが、適当に付き合っていただければと思います。

それでは、また次回

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