第7話「巡る想いはコーヒーカップ。」
突如現れた、謎の金髪イケメン。
そして俺と同じ能力を使う、3人の男達。
その名も「エアーガンメン」・・・。
ここ最近、次々と起こる数々の事件に、正直俺は混乱していた。
思い返せば昨日の金髪美女。あれは一体なんだったんだ・・・!?
突然現れたかと思えば・・いきなり美味しいキスをしてきやがって。。。
とりあえず彼女と鉢合わせ無かったのが、唯一の救いだな・・・。
どうやらこの「能力」を持ったからこそ、こうして色んな事が起こっている事は確かみたいだ。
エアーガンメンとの死闘を終え、傷ついた身体を引きずりながらダンは、ふとパン子の事を思い出した。
飲み物を買ってくるにしては、さすがに時間が長すぎる。
ダンは「なんとなく」・・飲み物を買いに行っただけじゃない、「何か」を察していた。そして、その予感が的中するまでに、そう時間はかからなかった。
向こうから、「あの男」と談笑しながら歩いてくるパン子の姿を見つけ、驚愕する。そして驚きの次には、言い表せない嫉妬が、胸の内に渦巻いた。
単に他の男と居るからではない。
自分を敵視し、且つどんな目的を隠しているのか解らないけれど、明らかに不純な目的を持って彼女に近づいている事だけは確かな、この謎の男と今、まさに最愛の彼女が楽しげに歩いてくる。ついさっきまで、涙を浮かべ、沈み切っていた彼女の、今そこにある「笑顔」はダンの心を無条件に引き裂き、掻き毟った。
「おまたせ、ダンくん♪ごめんね、遅くなって!」
さっきまでの涙が、それこそ何事もなかったかのようにパン子は「いつも通り」の笑顔を浮かべて、小走りに向かってきた。その背後で、さわやかに笑っていた男が、一瞬、不吉な笑みを浮かべたのをダンは見逃さなかった。
そして、その手にはパン子とお揃いのジュースカップが握られていることも。
「って・・ダンくん、どうしたの!?」
近寄ってみれば、傷だらけになり、服もところどころ破れているダンの姿に気づくと、パン子は、手に持っていたジュースをダンに渡し、ポーチからハンカチを取り出した。ダンの傷を心配そうに見つめながら、まだ乾いていない頬の血をハンカチでおさえる。
『ああ、ちょっとこけちゃってね。』
「・・ったく。。ドジなんだから。。(笑)」
とっさに誤魔化したダンの言葉を素直に信じて、いつも通りのリアクションをするパン子に、ダンは、なんだか苛立ちを覚え、思わずムッとした表情になった。
「・・・痛い?お水で濡らしてくるから、ちょっと待ってて?」
『いいよ別に。』
「よくない。ちょっと待ってて?」
水道を探しにゆこうとするパン子に、レインが声をかけた。
「彼氏、どうしたの?ケガしたのかな?」
「あ・・うん。ちょっとハンカチを濡らしてくるから・・ちょっと待ってて下さい。」
「OK〜♪」
状況が状況とは言え、自分への紹介もしないまま、あの男と自然な会話をするパン子の姿がダンはすこぶる気に食わない。けれど、何故この男がパン子と一緒にいるのか?その理由は、パン子が席を外した今、おのずと解ってくる事をダンは容易に予測していた。その予想通り、ニヤリと笑って男がダンに近寄ってくる。
「痛そうだね、大丈夫かい?ダンくん。」
『・・うるさい。お前は・・一体誰だ?何の目的で彼女に近寄る!」
「まずは自己紹介だ。俺の名はレイン。レイン・アーモンド。ワケあってアメリカからやってきたのさ。」
『アメリカ・・!?』
「そうだ。アメリカだ。」
『アメリカから・・わざわざ、何をしに来た!』
「フ・・・。ワケあって、な。」
『ワケ?ワケってなんだ!』
「それは言えないな。」
『お、教えろ!気になって眠れないじゃないか!』
「ならば夜更かしをしろ。」
レインはジャケットの内側から、おもむろに銃を取り出すと
手慣れた手つきで、銃をくるっと一回転させた。
「この銃・・知ってるか?グロック17・・」
『・・・アメリカだからか。。』
ダンの的外れな感想を無視して、レインが更に続ける。
「銃には安全装置ってのがあってね。普通は銃身の側面に、レバーがついてる。それをロックした状態では引き金が引けないんだが・・・このグロックっていう銃は、その安全装置が引き金の部分についていてね。いわゆるトリガーセーフティーという奴だが・・・要するに、引き金を引くと同時に安全装置も解除される仕組みになってるのさ。とかく、実戦向きってことかな。」
『・・なんか解らないけども、要するに危ない銃ってことだろ。』
「まぁ、そういうことかな。そしてこのグロックは・・・」
再び銃をくるっと回して、ダンに照準を合わせ、肩目を瞑った。
「それの・・・BB弾だ。」
『び、BB弾!!』
「さすがに日本国内で実弾はヤバイからな。入管も面倒だ。」
『び、BB弾・・・。』
「おっと・・だが甘く見ると痛い目見るぜ。」
『・・アルミ缶チェック、何個分だ・・?』
「ひゅ〜。。驚いたぜ。お前も知っているとはな。」
解説しよう。「アルミ缶チェック」とは!
エアーガンの威力をチェックする為に、空になったアルミ缶を使って行う。
空き缶に銃口を付け(或いは少しの距離をあけて)弾を発射し、その凹み方などで威力を確認する、エアーガンマニア御用達の威力チェック方法である。
通常売られているエアーガン(通称BB弾)の初期威力はせいぜい、アルミ缶の表面が軽く陥没する程度だが、銃内部のパーツなどに改造を加えてゆくことにより、その威力は格段に上がってゆく。
基本は、マガジン内部にある「バルブ」という、いわゆるガスを噴射する金属パーツの噴射口をヤスリなどで削って広げ、一度に噴射するガス量を上げることにより、単純に発射力を増加する方法などがあるが、調子に乗って削りすぎると、今度はガス漏れなどの不具合が起きてしまう。
且つ、マズル(弾が通る筒の部分)との相性も考えて威力調節をしなければならず、素人が簡単に出来る改造ではない。
いわゆる「バルブ削り」は、長年の経験を持つ職人技であり、素人ならば迷わず市販の「パワーアップバルブ」などを購入することをお勧めする。
かくして、様々な改造の上に威力を上げたエアーガンは、重ねて並べた複数のアルミ缶を貫通するほどの威力を持つのである。
エアーガンには、大きく分けてブローバック(発射時に銃の上部がスライドするアクション)するものと、ブローバックしないものとがあるが、威力のみに関して言えば「ブローバックしない」方が構造的に威力が上で、実銃のリアリティーを満足させるブローバック銃は、あくまでその構造性質上、威力は落ちてしまうものである。
けれども、そこで様々な内部パーツを改造し、最高の組み合わせ(相性を含む)を見出す事により、たとえばライフル型のエアーガンであれば、予想を上回ってアルミ缶3〜4つを貫通する上に、更に偶然その向こう側にあった食べ残しのコンビニ弁当の容器すらも破壊して驚くこともあるが、このレインの持つグロックのように、いわゆる「ハンドガン」であれば、アルミ缶2つを貫通すれば、それはかなりの威力と言える。
ちなみに余談ではあるが、この「アルミ缶チェック」の他にも、同じく威力のチェック方法として「MA-1チェック」や「みかんチェック」というものもある。
横須賀のどぶ板通りなどではお馴染みの、MA-1ジャンパーを着た友人の背中を、
およそ10メートルほど離れた距離から撃ち、その悲鳴で威力をチェックする方式である。
このチェック方式は、射撃する友人との信頼関係のみならず、その友人の射撃技術にも左右されるので非常に危険が付きまとうチェック方式である。だから良い子はやってはいけない。(例:「いてっ」…威力小。「きたぁ!!」…威力中。「・・!!(息が止まる)」威力大。など)
「みかんチェック」は、その名の通りミカンを的にして射撃するものである。
ミカンなどの柑橘類の皮は非常に固く、且つ内部に弾力があるため、貫通しづらい。その特性を利用したチェック方法ではあるが、食べ物を粗末にしている罪悪感が伴うので、基本的にこのチェック方法を試す事は稀であるから、良い子はやってはいけない。
チェックした後は、ちゃんと食べること、すなわち、エアーガンユーザーは、
その危険性をよく把握した上で、無関係の人や動物に危害を加えず、常に安全を心掛け(ゴーグル必須など)マナーをしっかりと守って遊ぶことが大原則である。
「・・・3つ貫通さ。」
『・・3つ!!』
思わず目を見開いたダンを、レインはフンと鼻で笑うと、銃を懐に戻した。
と、同時にパン子が戻ってきて、濡れたハンカチでダンの頬をぬぐいながら、
レインの方をチラリと見て、またニコっと笑った。
「紹介するね、彼はレインさんって言って・・」
『うん、今、彼から聞いたよ。』
「あ、うん。さっき、そこで会ってね・・」
「よろしく、彼氏さん☆」
『・・・・・・・。』
あからさまに不機嫌な態度を見せるダンに、パン子が珍しく眉をしかめた。
そんなパン子のリアクションが、ダンにもすぐに解って、尚更おもしろくない。
そんな二人の空気を読んだかのように、レインが口を開いた。
「・・おっと、お邪魔だね☆それじゃ僕はこれで・・」
「あっ・・じゃあ、また今度メールしますっ・・」
「・・・。OK、待ってるよ。それじゃ☆」
『・・・メール、、教えたの・・!?』
「あ・・うん。彼ね、とってもいい人でね・・?」
あの男の本当の姿も知らず、無邪気に「いいひと」と言うパン子の言葉を遮るようにダンは、頬を拭ってくれていたパン子の手を、少し乱暴に振り払い、これは単なる嫉妬なんかじゃない・・と、何故だかダンは、瞬時に自分に言い聞かせた。
手を振り払われたパン子も、ダンに対して何かを察した様子ではあったが、気がつけば、さっきまでの暗く沈んだ気持ちに戻ってしまった。
ダンは、それも気に食わなかった。
明らかにレインと話す時と、自分への対応との態度が違うのだ。
ダンの大好きな「笑顔」。いつでもニコニコしていて、ただその笑顔を見ているだけでどんな悲しみも、悩みも、ちっぽけに思えてくる・・そんな、勇気の源。
それが、最近はなんだか、自分のせいで曇らせている。
そのうえ突如現れた、いけすかない男に、その笑顔を奪われてしまったように思えた。
パン子に罪はないことなど頭では解っていても、生まれて初めて感じる苛立ちに、ダンは普段の素直さを見失っていた。
二人はベンチに腰掛けると、目の前で回転するコーヒーカップを、ただ、ぼんやりと眺め・・・
どれくらいの時間が経っただろう。しばらくして、パン子から口を開いた。
「ダンくん・・・」
『・・・ん?』
「・・私のこと、好き?」
普段なら、即座に「好きだよ」と返したはずだったけれど、思わず黙り込んでしまったのは、ダンの予想以上に、パン子の口調が深刻だったせいもある。
昨日は、ここまで思いつめた様子がなかったのを、ダンは直感的に理解していた。
それが、つい今、パン子の口から突いて出た深刻な「質問」は、答え方いかんでは、即座に何かしらの悲劇を上塗りしかねない雰囲気を、ひしひしと伝える。
そんなダンの沈黙の中の思考を打ち消すように、パン子の口から言葉がこぼれた。
「私のこと・・本当に好きなのかな・・。」
既に単なる質問ではないことは明白だった。
ただ「好き?」と聞かれるのと、「本当に」という言葉が混ざった場合とでは、
その真意がいかなるものであろうとも、少なくともダンにとって「危機」と呼べるものに直面している事は確かだ。
ダンは尚のこと答えづらくなった。こう聞かれた後では、ただ「好きだよ」と返す言葉に、大した効力は持たない。
思考をフル回転させて、パン子の求めるものを埋める、適切な言葉を探す。
「・・・ねぇ。どうして黙ってるの・・?」
膝の上で両手を組みながら、ただ足元を見つめ黙ったままのダンの横顔を、パン子はとても心配そうな表情で覗き込み、そしてまたコーヒーカップに視線を移すと
一人の女がクルクルとカップの中で回転しながら、こっちを見ていた。
忘れもしない、真っ赤なドレスに身を包んだブロンドヘアの美人だ。
(ダァン・・ダァン・・ダァン・・)
「・・・そうよね。。答えられるわけないよね。。」
即座に昨夜のファミレスでの光景が蘇り、透き通るような色白の頬を紅潮させたパン子が、少し自嘲気味に悲しく笑うと同時に、とめどもなく溢れる涙を拭おうともせずに立ち上がった。
『答えられるよ。・・本当に好きだ。大好きだよ。』
俯いたまま、そう答えたあと・・パン子の顔を見上げて思わず言葉を失った。
パン子の泣いている顔を見る驚きというよりも・・あまりにも、あまりにも悲しい顔だったからだ。とても悲しい顔をしているのに、こんなに悲しい顔をさせてしまったのに、その瞳から涙を溢れさせる彼女の顔を、とても綺麗だと思った。
「うそ・・ 信じられない。。」
『本当に好きだよ。ごめん、さっきは変なヤキモチ焼いたんだ。」
「・・・うそ。。うそよ。」
『うそじゃないよ、本当に好・・
「だって・・!」
ダンの言葉を遮ると、更に溢れだす涙を一度、手のひらでぬぐった。
「ダンくん・・一度も私のこと呼んでくれたことない!!」
突き刺すような潤んだ瞳に、ダンは絶句するしかなかった。
つづく!
■次回予告■
ダンでーす・・・。かなり凹んだ。。
かなり凹んだよ。。いや、ほんとに・・・・。
だからちょっと今回は予告とかする元気ないから・・・。
ごめん、悪いけどちょっとほっといて・・・・。
次回、エアーガンマン・・・。
【あなたの秘密は私の秘密☆発見、愛の秘密基地!?(仮)】
・・・・・・・・。