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第5話「貴方と私のセピア色」

川の向こう側に、でっかい夕陽が落ちてゆく。

茜色に染まった空と、紫色に染められた雲。

工場から突き出た3本の煙突から吹き出した煙が、ゆっくりと風に流れては、

傍にかかった大きな赤い橋の欄干の上を通り越してゆく。

その橋を行き交う車も、なんだかのんびりと行き来して見える。


穏やかな風が吹く、河川敷。

学生服の男が二人、夕陽に向かって、まぶしそうな顔で佇む。

向かって右の若者は、とてもいい体格をしていて、胸板も厚く、いかにも熱血漢といった風貌をしている。

ただでさえ大きな背で凛々しく胸を張っているせいもあり、更にひと際、大きく見える。


もう一人の若者は、一般的に言っても背は低いほうで、見るからに小柄な体格だが、やはり背筋をピっと伸ばしていて、カジュアルなメガネがどことなくインテリっぽさを感じさせる。

ふと、メガネを指で眉間に戻すと、隣に立つ大柄な男に向かって声をかけた。


「やるか!タカシ。」


その声に対して、今度は大柄な男がすかさず応える。


「おし。負けないぜ、ヨシヒロ。」


そう言うと二人はおもむろにズボンのチャックを下ろし、同時に用を足しだした。


「おりゃおりゃおりゃぁ〜!」


「そりゃそりゃそりゃぁ〜!」


ほとばしる2本の龍が、夕陽に照らされキラキラと輝きながら地面を叩き、虹を描いた。


「おい、ヨシヒロ!ちゃんと手でおさえろって!」


「おりゃおりゃ〜!」


「ばか、こっちに飛ばすなよ!わっはっは!」


「こうやって両手を広げて仁王立ちしながらやるのがいいんだよ!ほら、用を足しながらメガネも直せる。」


「手放し運転はあぶないぞ!」


「ははははは!」


「わっはっはっは!」


「タカシくぅ〜ん!ヨシヒロくぅ〜ん!」


二人は同時に首だけで振り向いた。

両手をメガホンのように口元にあてた一人の少女が、土手の下に立っている。

三つ編みにした綺麗な黒髪が、両肩から胸にかけて揺れ、ブルーのリボンが印象的なセーラー服が、見るからに清楚で、まぶしい。


「コロネちゃん!」


タカシとヨシヒロは声を揃えると、急いでズボンのチャックを上げた。


「二人とも、なにしてるの〜?」


ニコニコしながら二人の元に歩み寄ってきて二人の足元を指差して、とても嬉しそうに笑う。


「あ♪二人とも、見て見て!虹が出てる♪綺麗〜♪」


「ほ、ほんとだぁ♪」


「き、きれいだぁ♪」


「ね〜♪本当に、綺麗ね♪」


「う、うんうん〜!」


「コ、コロネちゃん、今帰り?」


「うん♪良かったら一緒に帰りましょう?」


彼女は終始ニコニコとしていて、いつでも笑顔を絶やさない。

タカシとヨシヒロは、そんな彼女の笑顔がとても好きだった。二人共、密かに恋心を抱いているのを互いに解ってはいたが、そこは幼い頃から親友同士の二人で、決してぬけがけなどはしようと思わなかった。


「二人とも、来週のテストのお勉強・・ちゃんとしてる?」


「俺はバッチリしてるよ。俺は。タカシはどうだか知らないけどなぁ?」


「ぐ。。俺だってちゃんとやってるよ!」


「テストに野球の問題は出ないぞ?」


「うるせぇ!」


「ははははは!」


「あははは♪」


「わっはっはっはっは!」


3人は右手に川のせせらぎを聞きながら、ゆっくりと歩いている。

そんな時だった、偶然にもイタズラな風・・いわゆるイタズラウィンドが背後から吹き抜けた。


「きゃっ」


「!!」


「!!」


「いやぁん・・二人とも、見たでしょー?」


二人は揃って首を強く横に振った。


「ほんとに〜?」


今度は強く縦に振る。


「そっか、良かったぁ♪」


その晩、タカシもヨシヒロも、目に焼きついた水玉模様のせいで、なかなか寝付けなかった。








3人が通う学校のすぐ裏に、今は誰も住んでいない小さなオンボロの民家があって、タカシとヨシヒロは、よくその場所で色んな話をした。

生徒達の殆どは幽霊屋敷と呼んで恐れていたから、二人以外には誰も入ることのない、いわば二人の秘密基地みたいな場所だった。

何枚かの窓ガラスは殆どが割れているか、テープでつぎはぎに補修された跡がある。床にはゴミや壊れた家財道具などもいくつか散乱していたが、それをどけて寝転んで話が出来るように、ダンボールを拾って来て寝床のようなものを作った。



ある日の放課後、いつものように二人で寝転んで話をしながら、なんとなく天井の埃やクモの巣を眺めていたヨシヒロが、呟いた。


「最近、俺、なんか変なんだよ。」


「・・・変って?顔がか?」


タカシがイタズラっぽく言うと、ヨシヒロは飛び起きて、珍しく怒鳴った。


「真面目に聞けよ!」


「す、すまん。。何が変なんだって?」


寝転んでいたタカシもすぐさま起き上がり、姿勢を正した。

そんなタカシを睨んだが、あまりに申し訳なさそうな様子がありありと伝わってきて、ヨシヒロは黙ったまますぐに窓ガラスの方へ視線を移した。


「見てろよ?」


「・・・・?」


ヨシヒロが右手の人差し指を窓ガラスに向け、小さな声で「パン!」と言うと同時に、パリンと破片が飛び散った。


「・・・見たか?」


「・・・お前、今、なにやったんだ??」


そんなタカシの問いに、ヨシヒロは答えないまま俯き、黙りこんだ。

このなんとも言えない沈黙に、タカシも無意味に座り直したりしている。

しばらくしてヨシヒロがインテリっぽいメガネを指先で直すと、静かに口を開いた。


「タカシ。・・・これから話すことは、俺達だけの秘密にしておいてくれ。」


「・・・ああ、もちろんだ。」


「コロネちゃんには、絶対言わないでくれよ。」


「・・・・うん。わかった。」


割れた窓ガラスに映る夕暮れが、ぼんやりと辺りをセピア色に染めていた。













その日、ダンはいつもよりも少しだけ早く起きて、手早く身支度をした。

テレビの上に置かれた、パン子との2ショットの写真を、しばらくぼんやりと眺めた後、ブーツを履き、玄関を出る。そして待ち合わせの場所へ・・・


今日のデートは、「ゆらめきランド」。

ダンの家からだとさほど遠くないので、ゆっくり歩いても15分ほどで着いてしまう。けれど、パン子は決まって待ち合わせの時間よりも早く着くことが多いので、ダンは気持ち早めに家を出た。それでも、遊園地ゲートの前に到着すると、案の定パン子が先に着いていた。


『お〜ま〜た〜せ〜ぃ!』


「・・おはよう。」


ダンがとっさに、普段よりも更にテンションを上げたのは、ゲートの前に立っていたパン子に、明らかにいつもと違う雰囲気を感じたせいだった。

そして、笑顔ではあっても、あからさまに元気のない彼女の「おはよう」を聞いて、それは確信に変わった。


『さぁ〜て!今日はいっぱい楽しもうぜ!!』


出来るだけ、自然で明るい口調で言ったダンに、パン子は無言で笑顔を返した。

まだ一日が始まったばかりだというのに、気まずい雰囲気が流れる。


『・・・どした?具合でも悪い?』


具合が悪いわけじゃないのは解っていたけれど、あえてそう聞いて、パン子の心を探る。


「ううん。大丈夫・・・」


今度は笑顔すらなかった。

何かがおかしい。何かあった事は確実だが、でもそれが何なのかは予想がつかない。ダンは、それを聞くに聞けないまま、とりあえずゲートをくぐった。乗り物に並ぶ雰囲気でもなく、楽しくおしゃべりする空気でもない。ダンが一方的に色んな話をしても、パン子はそれに「うん」と相づちを入れるだけだ。とりあえずベンチに腰掛けて、ダンが改めて聞いた。


『・・・なにかあった?』


「・・・・・・・・・・。」


パン子は、ダンの目を見ようともせず、うつろに俯いた。


『・・なぁ?』


「・・・・・・・。」


『何かあるなら、話してくれな。』


「・・・・・・・。」


揃えた膝の上から、しなやかな指がゆっくりと、ダンの握り拳に伸びた。


「ダンくん・・・」


『・・・うん。』


パン子は、今日初めてダンの目を見ながら言った。


「・・・私のこと、好き?」


『好きだよ?・・どうして?』


ダンは思わず不安になった。何故こんな質問をするのか・・・?

その意味がハッキリと解らなくても、パン子の瞳を見れば、そこに良い意味がないことだけは確実だったからだ。


「昨日・・・」


そう言いかけて、パン子は言葉をとっさに呑み込んだ。


『・・・昨日?』


パン子は黙ったまま、うん、と頷き、視線を下に落とした。


『・・昨日が・・どうかした?』


足元に落とした視線を、その場でじっと固めたまま、また黙り込む。

ダンは、そんな横顔を見つめたまま、パン子の沈黙を見守るように同じく黙っていたが、しばらくしてパン子の瞳から突如大粒の涙がこぼれ落ちるのを見た。

溢れだした涙が、またたく間に彼女の頬をつたって、膝の上に落ちてゆく。

そんな自分に少し驚いたように、曲げた小指で涙をすくいながら


「ごめん・・飲み物買ってくるね。。」


と言って、その場から逃げるように離れてゆくパン子を、目で追いかけるしかなく・・思わず自分も俯きながら、ベンチに座り直した。


『昨日・・・?俺、何かしたか・・?』


足を大きく広げ、そして足元の地面を見つめながら、必死に昨日の事を、もう一度思い出してみる。



「お前がエアーガンマンだな。」



ダンが即座に顔を上げると、そこに一人の男が銃を手にして立っていた。

空いた片方の手で、少し長めのブロンドの前髪を無造作にかきあげた。

見るからに甘いマスクを持ったその男。ハリウッドの映画俳優を即座に連想させる。スタジャン風のジャケットの前を開けて着こなし、Gパンにブーツ。足も長い。およそ殆どの女性が、瞬時にメロメロになりそうな見た目の男の手に握られた、見るからに物騒な黒光り。

その銃口をダンの顔に向けながら、男は不敵に笑っている。


『・・お前は誰だ!?』


「ふん・・そのうち、知ることになるかもな。」


『・・どういう事だ!?』


「お前の女、悪いが俺がもらうよ。」


『・・・!?!?!?』


「じゃ、ここらでお前のお友達と遊んでもらおうか。」


そう言うと、男は笑いながら去っていった。


『おい!待て!・・・お友達・・!?』



ダンが立ち上がった次の瞬間、どこからか聞こえてきた凄まじい轟音と共に、

座っていたベンチが粉々に砕け散った。

その爆風に思わず目を細めながら、振り返るダン。

巻き起こる土煙りの向こう側に、3つの人影が見えた。


「遊ぼうぜぇ〜 エアーガンマン!」


「・・・・・・・。」


「アミダパラピヤカ、ホムダムラ、ムンバラ!」












つづく!



■次回予告■

おっつ!久々に登場のダンだ!

なんか次々に現れた謎の男達は一体なんなんだ??

それにあの金髪の男の発言が引っかかる!!


次回、エアーガンマン!


【意識もしてなかったブスから突然振られた場合!(仮)】


吼えろ弾丸!燃えろ、愛の子守唄!お楽しみに!




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