第1話「俺は愛の弾丸」
俺の名は愛野 弾丸。
人呼んで、「ダン」だ。
だからダンと呼んでくれ。
幼い頃から西部劇やらが大好きで、ピストルのオモチャで「一人シェーンごっこ」や「俺ヤングガンごっこ」をして、よく遊んだ。
ビリー・ザ・キッドの神技とも言える早撃ちと、動物的勘で繰り出す奇策の数々・・・あれに熱い血をたぎらせない男はいないだろう。
いや、男なら、かく血をたぎらせるべきだ。そして俺は男だ。
だからこうして25歳になった今も、その熱は冷めない。
けれど、さすがにこの歳になってモデルガンを持ち歩くわけにはいかない。
悪いが俺は、そんじょそこらの銃器マニアと違うのだ。
現実と夢想とを混同し、他人の迷惑かえりみず自らの世界観を一般世間に持ち込むほど、俺はイってない。もちろん部屋では・・お気に入りの銃コレクションで遊びたい放題だけどな!
「じゃあ外出の時はどうするの?」って?
ちっちっち。
「外には銃を持ち歩かないんでしょ?それじゃガンマンじゃないじゃない。」だって?
ちっちっちっちっち。
指を左右に振ってるんだ。わかるね。
ちっちっち。
言ったように俺は、そんじょそこらの銃器マニア・・いわゆる「オタク」とは違う。いちいちモデルガンなんかを持ち歩かなくても、俺の心には、常に銃がある。
そう。教えておいてあげよう。
真のガンマンとは・・
常日頃からいつも、心のシリンダーを磨き、撃鉄を錆びつかせない。その心構えを云うんだ。「いざ」という時に、一瞬の迷いもなく、躊躇うことなく引き金を引けるかどうかだ。男たるもの、その人生において迷いは禁物。もとい、躊躇いは即、命取りになる。人生の行く先に狙いを定めたら、迷うことなく引き金を引き、まさしく弾丸となって駆け抜けるのだ。
その生き様にこそ、「ガンマンのガンマンたるガンマンさ」があるのである。
まぁそんなゴタクは置いといて・・
だから、俺は常に心に銃を構えている。
人生においては、モデルガンなんていう「ごっこ」は必要ない。
そう、コレ。コレで充分だ。(右手の人差し指を立ててピストルの形を作ってます。)
やっと冬の寒さが通り抜けて、俺の心に風が吹いた、そんな春の日。
あまりの天気の良さに、思わず散歩に出かけることにした。
お気に入りのキャトルマンハット。ジーンズの上下。そしてブーツ。ポケットにはハモニカ。
・・・完璧だ。
ど真ん中に噴水のある「ゆらめき公園」。
東京ドームが3つくらい入りそうな広い敷地。敷き詰められたレンガの道。
街路樹なんかも立ち並んで、夜なんかはその道がライトアップされて、たいそう雰囲気が良い。
カップルだったら思わず歩きたくなるだろうな。まるで世界中が平和だと勘違いできそうな、そんな場所。
俺はこの公園が好きで、よくベンチで缶コーヒーなんかを飲んだりする。
たまにギターを持って来て、のんびり弾くのも好きだ。
昼間は小さな子供を連れたお母さん達が楽しげにおしゃべりしてる。
子供たちは不規則に飛び出る噴水の水におおはしゃぎで、全身びしょぬれになりながらキャッキャ言ってる。
それを叱るでもなく優しい眼差しで一緒になって笑ってる若いママさん連中なんかを見てると本当に心が癒される。やはり環境は大事だ。長閑な土地には穏やかな心が育つ。
すぐ裏にある大きなデパートで買い物をする人達なんかも、きっとデパートの窓から見下ろしたところにあるこの公園の雰囲気に惹かれて、思わず降りてくるのだろう。デパートの買い物袋を提げた人なんかも、よく見かける。
ベンチでカップのアイスクリームを食べてるOL。スポーツ新聞を読んでるサラリーマン。なんか「69」とか書いてあるつまんないタンクトップ着てバスケしてる若者。犬の散歩をするおじさん。おばさん。音楽を聴きながらランニングする人も思わず足を止めて、やけに愛らしい仕草のナンチャラレトリバーに話しかける。
そんな王道をゆく光景が、ここには溢れている。
ぽかぽかぽかぽか。
ちょうど15時をまわったところ。
俺はベンチに腰掛け、寄り掛かり、目を閉じて、風の匂いに包まれる。
そんな時だった。
「きゃあっ・・ちょっとやめてください!!」
「いーじゃねーかーカワイコちゃん♪俺達とお茶しよーぜ!!」
「しよーぜ!」
「しよーぜ!」
「しよーぜ!」
「しよーぜ!」
この陽気なのに革ジャン着てる5人の男達が、寄ってたかってナンパをしているみたいだが・・・なんか様子がおかしい。明らかに女の子が嫌がってる様子だ。
「いやです!私これから家に帰るところなんだからっ・・って、ちょっと!離して下さい!」
「いーじゃねーか!」
「いーじゃねーか!」
「いーじゃねーか!」
「いーじゃねーか!」
「いーじゃねーか!」
「よくないのっ!っていうか、いちいち5人で5回も同じこと言わないで!!」
「うるせー!」
「うるせー!」
「うるせー!」
「うるせー!」
「うるせー!」
「だからぁ・・!ちょっと服引っ張らないで!シワになっちゃう〜!」
「可愛いからってお高くとまりやがって!いいから俺達とお茶すんだよぅ!」
「可愛いからってお高くとまりやがって!いいから俺達とお茶すんだよぅ!」
「可愛いからってお高くとまりやがって!いいから俺達とお茶すんだよぅ!」
「可愛いからってお高くとまりやがって!いいから俺達とお茶すんだよぅ!」
「可愛いからってお高くとまりやがって!いいから俺達とお茶すんだよぅ!」
「ああん、もうっ!!」
「いいからお茶しにいこうぜカワイコちゃん!」
「いいからお茶しにいこうぜカワイコちゃん!」
「いいからお茶しにいこうぜカワイコちゃん!」
「いいからお茶しにいこうぜカワイコちゃん!」
「いいきゃら、おたしにいこうぜカワイコちゃん!」
「一人噛んでる!一人噛んでる!」
「や、やかましぃ!」
「や、やかましい!」
「や、やかましい!」
「や、やかましい!」
「や、や、やかましい!!」
「オタって何?オタしにいこうぜって?なぁに?くす。」
「ちょ、調子にのってんじゃねー!」
「ちょ、調子にのってんじゃねー!」
「ちょ、調子にのってんじゃねー!」
「ちょ、調子にのってんじゃねー!」
「ちょ、調子にのってんじゃねー!」
「い、いやぁ〜〜ん! 誰か、誰か助けてください・・・!!」
『そこまでだ。ボーイ。』
かっこいいエレキギターのサウンドをバックに、俺は立ちはだかった。
5人のバカヤロウが振り返る。そして俺はあえて太陽を背にして立った。
奴等からは、シルエットに見えているはずだ。
「あーん?なんだてめぇは!!」
「あーん?なんだてめぇは!!」
「っていうか俺達5人だから、ボーイズ・・じゃね?」
「あーん?なんだてめ・・・あ、そうだよな。うんうん。」
「あーん?なんだてめ・・・あ、そうだよな。うんうん。」
『ぐっ。。。』
「ばーかばーか!」
「ばーかばーか!」
「ばーかばーか!」
「ばーかばーか!」
「ばーかばーか!」
『う、うるさい!いちいち5回言うなボーイズ!!』
「言い直した!」
「言い直した!」
「言い直した!」
「言い直した!」
「言い直した!」
『く。。くそ。。ダメージが5倍だ。。。』
「あのう。。」
『は、はい?』
「・・・助けて、もらえます?」
『あ、はい。すみません。』
「この人達のシーンが早く終わらないと無駄に画面もスクロールしなきゃだし。。サクっとお願いします♪」
『は、はい。そうですよね。やります。すぐやります。』
「なにイチャイチャしてんだよー!」
「なにイチャイチャしてんだよー!」
「なにイチャイチャしてんだよー!」
「なにイチャイチャしてんだよー!」
「なにイチャイチャしてんだよー!」
『イチャイチャはしてねーーーー!!!!かかってこい。バカ野郎ども!!!!』
照れ隠しの怒号と共に俺は、一斉に遅い来るバカヤロウ達を素早い身のこなしでかわす。
そして軽やかに宙返りを決めると両手で作った銃をすぐさま抜き、思わずとっさに叫んでしまった。
『パン!パーーーン!』
普段部屋でやってる西部劇ごっこのクセがこんなところで出てしまうとは・・
うかつ!まさにうかつ!習慣とは、なんて恐ろしいんだ・・と、思った矢先。
なんか、不思議なことが起こった。
「ああん!?馬鹿にしてんのかお前?なに?口で言ってんの?」
「ああん!?馬鹿にしてんのかお前?なに?口で言ってんの?」
「ああん!?馬鹿にしてんのかお前?なに?口で言ってんの?」
「ぐふっ!!」
「ぐふっ!!」
『・・・・えっ』
「・・・・えっ」
「・・・・えっ」
「・・・・えっ」
何故だか2人のバカが同時に腹をおさえながらその場に崩れ落ちた。
1人はうんこを漏らした。
残った3人と俺は、思わず声を揃えて驚きの声を上げる。
『・・・え?・・・・え?』
「お・・おまえ、今、なにしやがった!」
「お・・おまえ、今、なにしやがった!」
「お・・おまえ、今、なにしやがった!」
『え・・?だから、こうして・・・パン!って。』
「ゴぶぉわっ!!」
また1人、バカが血しぶきと共に5メートルほど吹っ飛び、うんこを漏らした。
・・・なんか知らないが、「まるで指先から見えない弾丸が飛んだ」かのように、
俺が手で作った銃を向け、「パン!」と叫ぶと同時にバカが吹っ飛ぶ。
バカが、バカみたいに吹っ飛ぶのだ。
「お、おまえ・・一体、何者だ!?」
「お、おまえ・・一体、何者だ!?」
『えっ・・ 俺?』
ほぼ無意識だった。無意識に俺は残った二人に両手を向けながら、言った。
『俺の名は・・・エアーガンマン。』
「・・・エアー・・・ガンマン・・?」
「・・・エアー・・・ガンマン・・?」
『パァーーーーン!!』
「ぶほわっ!!」
「ぶほわっ!!」
ドサ・・っという音と共に、二人のバカが同時に崩れ落ち、うんこを漏らした。
俺は指先(銃口)にフっと息を吹きかけると、指先でテンガロンのつばを少し上げた。
キマった。なんか知らないが、全てがキマった。
正直自分でも驚きだが・・どうやら俺の指先から、「見えない弾丸」が発射された事には間違いなかった。でなければ奴等バカヤロウボーイズはかなり上手な演技集団という事になってしまう。なんだ?もしかしてどこかの劇団員か!?プロか!?
・・・とも一瞬思ったが、どうやらまだ「う〜ん」とか言って起き上がらないところを見ると、演技ではないらしい。演技でうんこを漏らすのもなんだろうし。
俺の手から見えない弾丸が発射され、その攻撃でもって撃退したという事実は揺るぎないみたいだ。良かった。うまく言えないけれど、本当に良かった。ほっとした。
「あ・・・あの・・・」
絡まれていた女の子が、キョトンとした面持ちで話しかけてきた。
『大丈夫だった?』
「は・・はい。。私は大丈夫です。。あの・・あの・・」
『はい・・?』
「あの・・ 本当に、ありがとう・・・・・ございました。。」
『なんもだよ。俺は当たり前のことをしただけだし。(笑)』
「・・・・お強いんですね。」
『いや、ん〜・・。ま、まぁ。(笑)』
「もしかして・・プロボクサーの方・・・だったり・・?」
『へ?なんで?』
「だって・・あの身のこなし。。それに、パンチが全然見えなかったです。ほんと、すごいスピード。。」
『あ。。ああ〜。。。いや、ボクサーじゃないよ。全然。(笑)』
「そうなんですか?じゃあ何なんだろう?」
『ま、まぁいいじゃん、なんでも。(笑)それじゃ!俺はこれで!』
「あっ!・・・ちょっと待ってください!」
俺が彼女にくるりと背を向け歩き出すと、彼女は回り込むように俺の前に小走りに駆けよってきた。
その時だった。今まで太陽は彼女の背後に位置していて、さっき俺がバカ野郎達にシルエットで登場した時と同様に、こうして会話をしている間、実はその逆光のせいで彼女の姿をしっかりとは見えていなかった。ちゃんと目を見て話したいのはやまやまだったが、ちょうど西日が眼に入り込んでまぶしかったので、俺はなんとなく彼女の顔のあたりを見ながら喋っていた。そしてきっと、西日に目をしかめる俺の顔もまた、ダンディーだった。
大いなる太陽が、彼女の顔を照らし出した。その時・・・
ズキューーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!!!!!!
どこかで銃声が聞こえた。ライフルほど太い音ではなかったけれど、むしろライフルなんかよりも鋭く、そして適格に俺の心の一部分のみを貫く・・そんな銃撃音。「オーバーゼア!!」ドク《映画「ヤングガン」のキーファー・サザーランド》が叫んだ。
「あの・・もし良かったら・・・で、いいんですけど・・良かったら、お礼に、お茶でも御馳走させていただけませんか・・・?」
俺の眼を真っ直ぐに見つめる彼女は、太陽光線をもろにうけて目を細めていた。
けれど、それでも、それだったとしても、彼女の天使のような微笑みと、その魅力は・・痛いほど、伝わってきた。
まさに、心のど真ん中を撃ち抜かれたような、そんな衝撃が胸を叩く。
ドクン、ドクン・・いや、正確に表現するならばバクン、バクン。いや・・・バッコン、バッコン。
バッコンバッコンと、バッコン音が俺の胸で鳴り響いていた。
『か、可愛い。。。』
「・・・・・・えっ・・?」
『・・・・ハッ!あ、いや、その、かわ・・かわい・・乾いたかな?噴水でびしょぬれになって遊んでた男の子の服??』
「あ・・・ああ、天気もいいし、すぐ乾きそうですよね♪」
『う、うん。だよね。』
「・・・・・あの。。」
『・・・え?』
「・・・・・・・ごめんなさい。迷惑ですよね。いきなりお誘いしても。。。助けていただいて、本当にありがとうございました!じゃあ、私はこれで・・失礼しますね。」
『あ!ああ〜〜〜〜!あーーあーーー』
「・・・・?」
『えっと・・じゃあ・・ ダニーズでも良いかな?ちょうどおやつの時間だし!』
「・・・・はい♪」
そう言ってニコっと笑った彼女は、とても、とても、可愛かった。
きっとこれは、アレだろう。まさしくアレなんだろう。そう思った。そうだ。アレだ。
ときめきの四字熟語。そう「一目惚れ」。
・・・こうして書いてみると、ただ4文字なだけで四字熟語ではないような気もするが、
とにもかくにも、俺は彼女に恋をした。一瞬だった。一目見て、恋をしてしまったんだ。
つづく!
■次回予告■
ちっす!幼い頃から西部劇とか好きだった俺、弾丸です。
友達は俺のことダンって呼ぶから、みんなもダンって呼んでくれよな!
って、まぁ、自己紹介は置いといて次回予告だ!!
俺、なんか指先から見えない弾丸が出ちゃうようになっちゃった!
どうやらパンって言うと発射される仕組みになってるみたい。
俺くらい西部劇やガンが好きで好きでたまらないなら、
指先から本当に弾丸が出ちゃうくらいの事も起っちゃう。
みんなも、夢、貫く事が大事だぜ!信じれば叶う!必ず叶う!そう思う。
っていうか俺は別に「手から本当に弾丸が出せますように」なんて願ったことはないんだけども・・・
まぁ、世の中には不思議なことってあるもんだよなぁ。。ほんと。
で、ひょんなことから出会った、とびきり美人の彼女と俺はファミレスに行くことになったんだ。
さて、何を注文しようかな・・・なんて思った矢先、彼女から、とんでもない事実が!
ほんと、とんでもない事実だぜ!!ほんと!ほんと!!びっくりするよ!!
次回、エアーガンマン!
【ライスかパンか】
燃えろ!俺のリボルバー!刺され!愛の弾丸!お楽しみに!!!