難聴AI
『ご主人様は、ご自身を無視して話をされてとても傷ついてしまっただけです』
AIが堂々と宣言する。
「………………」
そうしてその場に沈黙が訪れた。
だがその沈黙はすぐに破られることになる。
「――って、違うしっ!別にさっきまで俺と話していたのに、まるで俺の存在がないかのように扱われて寂しいなんて思ってねえし?!」
『……別に私はそこまで言ってないですが」
「はっ!?」
どうやら康生は自ら墓穴を掘ってしまったようだった。
だからそれを否定しようとするが、それが逆に駄目な事を今の康生は判断出来ずにいるほど同様していた。
でもその前に別に声によって遮られることになった。
「ふざけるのも大概にして下さいよ?」
翼の女がにっこりと微笑みを浮かべる。
瞬間、彼女を中心に強い強風が吹き荒れる。
どうやら翼の女は康生とAIの会話のせいで怒らせてしまったようだ。
「ま、待って!」
翼の女の怖さを知っているせいか、少女はすぐに彼女を止めようとする。
「いいえ待ちません。どのみち人間は私たちの敵ですから」
しかしそんな少女の言葉に聞く耳を持たず、翼の女は一歩、一歩と康生に近づく。
「え〜と……、やっぱりこれって戦わないといけない感じですか?」
『当たり前じゃないですかご主人様。きっと今のご主人様の態度のせいで怒っているのですから相手になってあげないといけませんよ?』
「いや〜、それに関しては俺だけじゃない気もするような……」
翼の女が一歩足を踏み出すごとに地面の小石はカタカタと揺れ動く。
しかしそれほどまでに威圧感を発しているにも関わらず康生は全く恐れを抱いている様子はなかった。
なにより康生は翼の女に目も向けておらず手元のスマホの中にいるAIと話しているので、一層を翼の女を怒らせることに。
「人間風情が!調子に乗るな!!」
いよいよ康生の目の前に翼の女がたどり着く。
そこでようやく康生は翼の女と目を合わせる。
翼の女はすでに相当怒っているようで、最初の冷徹な笑みと比べ怒りの感情を全面的に表情に出していた。
「――え、え〜と……そんなに怒ると美人の顔が台無しになりますよ?」
とそこまで口にした瞬間、康生の目の前に白い線が現れた。
シャキン。
「――異世界人って刀なんか持っている物なの?」
数歩後ろに下がってそれを避けた康生は少女に顔を向ける。
「い、いいえ刀はこの世界に来てから手に入れました。でも……」
「でも?」
少女が不自然に言葉を区切ったので康生は思わず聞き返す。
「その刀を一番最初に手に入れたのが彼女であり、今私たちの世界で随一の刀使いでもあるのです」
「へぇ〜随一の刀使い、ね」
そうして康生はいつの間にか抜刀していた目の前の刀をじっと観察する。
「みた所、普通の刀って感じだな。でもさっきの一振りで刀の軌道が残るほど速く斬りかかってきた所を見るからに……相当やばくね?」
じっくりと観察した結果、康生の中で危機的状況である事を知らせる警鐘が鳴った。
なにせ生まれてこの方、剣豪と戦うことなど予想だにしていなかったのだから。
「ふっ、やっと実力の違いを思い知ったか。だが今の攻撃を避けた事に関しては褒めてやろう」
そうして翼の女は刀を構え直す。
まっすぐと康生に向けた。
「へいAI。この状況ってどうしたらいいと思う?」
思わずスマホに声を掛ける。
『すいません、よく聞き取れませんでした』
……どうやらAIを作って初めてAIが難聴になってしまったようだ。




