視線
「そろそろ頃合いか」
康生の猛攻撃を寸前のところで回避しながら、指揮官はちらりと時間を確認する。
そんな余裕があるのかすら分からないが、現に康生の攻撃を避け続けている。
康生自身もまさかこれほどまでに攻撃を避けつづられることに驚いていた。
それらも全て康生の両親が開発した事実ということを知り、さらに康生の怒りがこみ上げてくる。
「それじゃあそろそろ逃げさせてもうぞ」
「何言ってるんだよっ!逃がすかっ!」
ひたすら回避しかせずに攻撃をしてこなかった指揮官はどういうわけか、その場から逃げようとする。
そもそもここに来た目的が何も分かってない以上、絶対に逃がすわけにはいかなかった。
「いや、逃げさせてもらうよ」
「俺がそれをさせるとでもっ?」
「あぁ」
指揮官は自信ありげに微笑む。
その表情を見て康生は嫌な予感を感じ、さらに力をあげようとする。
だが指揮官はそんな一瞬で何かを取り出し放り投げた。
「あれは……?」
投げられた物に一瞬だけ注意を向ける。
それは何やら小さな物体だった。
だがそんなものに意識を向けていると本当に逃げられかねないため、すぐに指揮官へと注意を向けようとする。
「あれは貴様の両親の遺品だ。どうした取りに行かないでいいのか?」
「なっ!?」
遺品ということを聞き、康生は脇目もふらずに手を伸ばす。
「それではなっ。俺は向こうの戦場に戻らせてもらうよっ」
手を伸ばす康生を見た指揮官は、最後にそう言ってその場から逃走する。
「くっ……」
指揮官が逃走するのを感じながら、それでも康生は追うことは出来なかった。
現状、康生には両親とのつながりがない。
だからこそ遺品だけはなんとしても手に入れたいと思ったのだろう。
そうして指揮官の逃走を見逃してしまう。
「どうしたんですかっ?」
遠くから戦闘を見守っていた奈々枝は、指揮官の逃走を見てすぐに康生の元へと駆けつける。
「っ……!」
康生はその間、何やら思い詰めるかのような表情でじっと立っていた。
「一体何があったんですか?」
ただ一点をじっと見つめて固まる康生を奈々枝は心配そうに見つめる。
「時計……ですか?」
奈々枝は康生が手に持っている物を見つめる。
「それがどうかしたんですか?壊れているようですけど……」
康生が持っていたのは古い懐中時計のようで、画面がひび割れておりとても使えるようなものではなかった。
「これは父さんが持っていた時計だ。いつも大切にしていたのに……こんな……」
古い懐中時計を握りしめながら、康生はふるふると体を震えさせる。
「絶対に許さない」
そしてそう呟いた瞬間、康生はあの指揮官が向かったであろう場所へと視線を向けるのだった。




