長刀
「何をするつもりなんだあいつは……」
吹き飛ばされた隊長達はすぐに体勢を立て直し、時雨さんの方へ視線をずらす。
時雨さんが逃げるどころか火の玉につっこんでいくのを見て、理解できない様子だった。
「まさか自滅する気か……?」
自ら火の玉につっこんでいくのを見て、自殺行為としか考えられなかった。
「まぁ、見ておけ」
「っ!?」
するといつの間にか隊長達の中にリナさんが混じっていた。
「貴様っ!どうしてっ!?」
すぐに武器を構えて応戦しようとするが、リナさんの向こう側の光景を見て固まってしまう。
「どうして?まさかお前達あの程度の戦力で私を止められると思っていたのか?」
そう。時雨さんは隊長達を全て倒していたのだ。
全員もれなく地面に倒れており、隊長達からすれば地獄の光景が広がっていた。
「ひっ……!」
それを見て恐怖が頂点まで達したのか抵抗する気もなく、自然と武器を降ろしてしまう。
どうやら圧倒的な力に戦意を喪失してしまったようだ。
リナさんと戦っていた隊長達は当然実力は高い。
時雨さんと戦っていた方よりも強く、そして人数が多かった。
それなのにリナさんに傷一つ付けずに負けてしまったということで恐怖に体を支配されていた。
「おっと、動くなよ。さもないと貴様等死ぬぞ?」
咄嗟に逃げようとした男を見てリナさんは睨みを利かせる。
鋭い視線で睨まれ、逃げようとした男は足を止める。
「どのみちそこから動けばあの炎を食らって死んでしまうからな」
そう言ってリナさんは視線をずらす。
その先には時雨さんが。そしてもう目と鼻の先にまで火の玉が迫っていた。
「あいつは……本当に死ぬ気なのか?」
それを見た隊長が小さく呟く。
「死ぬ?」
しかしそれを聞いたリナさんは笑いをこらえるように聞き返す。
「バカをいうな。あいつはこんなところで死ぬ奴じゃない。まぁ、見ておけ。お前達との格の違いを見せてくれるはずさ」
「……?」
リナさんの言葉の意味が分からず隊長達は皆頭に疑問を浮かべる。
そうしている間にも、火の玉が時雨さんにぶつかろうとしていた。
「さぁ、見せてくれよ時雨」
それを見てリナさんは小さく微笑んだ。
「大丈夫、大丈夫……」
火の玉に向かいながら時雨さんは小さく言葉を繰り返していた。
(私ならできる。必ず成功させられる……)
心の中で必死に訴えかけながら勇気を振り絞る。
火の玉はもう目の前まで来ていた。
(……それに、これは康生と一緒に作ったものだ。だから……)
時雨さんは康生を頭に思い浮かべる。
「――いけるっ」
その瞬間、時雨さんは精神を統一させまっすぐ火の玉に向き合う。
「いくぞっ!」
そうして叫び声と共に、時雨さんの武器である長刀をまっすぐ火の玉めがけて振り下ろすのだった。