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闇の中

「お前は一緒に食べないのか?」

 中央広場から少し離れた場所にリナさんはいいた。

「……そう、ですね。俺はまだやることがあるので」

 そう言って上代琉生はゆっくりと振り返る。

 先ほどまで康生と話していたが、どうやらあの後すぐに広場を出て行ったようだ。

 リナさんはそんな上代琉生を見てここまで追いかけてきたようだった。

「やることか。お前はいつもそれだな」

「俺の仕事は戦闘以外ですから」

 そう言って上代琉生はにっこりと笑う。

「戦闘以外といっても、お前がそれ以外の全てをやらなければならない理由なんてなんだぞ?」

 リナさんはそんな上代琉生を見て、心配そうな表情を浮かべる。

 ここまで働き漬けだった上代琉生の体を心配しているのだろう。

 だからこそ、今だけは皆で食事をするようにリナさんはいいに来たのだ。

「リナさんだって分かってるでしょ?今回の戦いは一筋縄ではいかない。それにこの戦いさえ勝てば一気に夢に近づく」

 すると上代琉生はわずかに感情のこもった声で話す。

 それだけ今回の戦いは壮絶で、また勝利の先に大きな希望があると思っているのだ。

 だからこそ絶対に勝つために上代琉生はもてる全ての力を使おうとしているのだ。

「それは分かっている。だが……」

 そしてそれはリナさんだって知っていることだ。

 だからこそ少しでも勝つために、勝率をあげるために動くことは何も間違いではない。

 リナさんは頭では理解していた。

 ただ、

「私は……お前が心配だ。だから休んでほしい。このわがままを聞いてくれないか?」

「っ……」

 ただ切実に願う、そんなリナさんを見て上代琉生はわずかに顔を背ける。

 そしてそのまま背を向ける。

「俺は今は休むわけにはいかないんです。それを分かってください」

 そう言って上代琉生は暗い夜道に消えていった。

 そうして一人残されたリナさんは小さなため息をはく。

「やっぱり、だめだったか」

 去ってしまった方向をまっすぐ見ながら、リナさんは諦めたように息をはく。

「――ひょっとしてですけど」

 すると、突然リナさんは背後から声を掛けられる。

 しかしそれに驚く様子もなく、相手が誰なのかも分かった上で答える。


「あぁ、私は上代琉生が好きだ」


 ゆっくり振り返りながらリナさんは答える。

 その様子に声を掛けた本人がわずかに動揺するほどに。

「はっきりいいますね。私のお兄ちゃん、別にそんないいところない気がするんですけど」

 しかしあくまで表情を崩さず上代琉生の妹――上代奈々枝は答える。

「私にとっては違うけどな」

 対してリナさんは何も恥じることなく堂々と答える。

「うぅ……なんだかこっちが恥ずかしくなってきましたよ」

 予想していた反応と違ったのか、奈々枝はわずかにたじろく。

 だがすぐに何かを思い出したようにリナさんに紙を手渡した。

「もしお兄ちゃんに会いに行きたいと思うのならここに行くといいですよ」

 それだけ言って奈々枝は再び闇の中に姿を消すのだった。

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